希望の胸
6人は『詩音を必ず助けてみせる!』という強い気持ちを持って前に進んでいく。
洞窟の中は恐ろしいほど静かで涼しかった。僕は懐中電灯で足元を照らしながら前へ歩いていった。
『洞窟に壁画が掛かれていたよ』と詩音は言っていたようなので、僕は、時折、壁に満遍なく光を当てて絵を探しながら進んでいった。
砂利や小石を踏んだ音が響き渡る。岩が至る所にある。人が通れる広さが続いているので、皆で前後3列に横並びで固まって歩いた。
「ねぇ、詩音はこの洞窟にいるのかな?」と梨香は落ち着かないような声で言った。
「いると思う。何度かこの洞窟に来たことがあるならば、避難できる場所を、それなりに把握して確保しているはずだよ」と僕は小石を蹴りながら言った。
「なんか獣がいそうで怖いな」と憲二は落ち着きなく言った。
「未確認生物がいたら良いですね」と瀬都子は警戒しながら言った。
「私、虫で怖い思いをしたことがあるから虫が出たら嫌だな。蝶々は大丈夫なんだけどね。私が小学4年の頃に、友達と公園に行こうとしたのよ。途中で街路樹に不思議な虫が留まっているのに気づいたわ。
初めて見るから私たちは珍しさのあまり虫を捕まえようと決めてね、網も虫かごも持っていなかったんだけど、私が着ていたジャージの上の服を脱いで、網がわりにして捕まえようとしたの。そっと木に近づいて一気に虫の上に被せた。
私たちは喜んで服を取って虫を見たらね、そこにいたのはね、『あーっ!! スズメバチだ! すごくヤバい!!』と私は叫んだわ。
スズメバチは恐ろしい顔をしていて、こちらを睨んでいたの。私たちは全力で走って逃げたわ。あれは怖かった。ヤバかった」と美華ちゃんは思い出して自分の両腕を擦っていた。
「刺されなくて良かったよ。スズメバチは獰猛だし危険だからね」と僕は美華ちゃんの頭を撫でて言った。
「私はそれとは別だけど、こんな夢を見たことがあるわ。タンポポに蝶が留まっていたので捕まえて喜んでいたら、蝶がゆっくりと私に振り向いたのよ。よく見てみると蝶の顔じゃなくて、サングラスを掛けたスケバンだったのよ!
スケバンが『あたいに触ると怪我するよ』とやさぐれた感じで私に言ったわ。
ひょっとしたら、何処かで本当にあのスケバンは存在していて、ある日、突然、出くわしたりするかもしれないという不安が今もあるのよね。夢にしては妙に生々しいスケバンだったから。
いそうな気がしてならないのよねぇ。
だから、私は美華ちゃんとは逆で、蝶にトラウマがあるの」と亜美は摩訶不思議な夢の話をした。
「夢占いだと蝶は変化の象徴、今の自分から飛躍したい現れで、タンポポは亜美の純情な性格を表していて、スケバンは亜美が精神的な支柱を求めているという意味を表していると考えられますな。
サングラスは亜美のシャイな心を隠していたいという意味を含んでいる訳なんです」と瀬都子は頷きながら言った。
「それ本当に当たる夢占いなの?」と亜美は思わず吹き出して、瀬都子の肩を叩きながら言った。
「これは本当です。この夢占いは、私が監修した、本格的なオリジナルの診断によるものです。今、私はマドモアゼル銀河子さんという方から占星術も勉強中なんです。
マドモアゼル銀河子さんは、母の友達なので受講料が破格の安さ、という魅力で助かっています」と瀬都子はマジな顔をして言った。
「へ、へぇ〜。ス、スゴいじゃん」と亜美は苦笑いをしながら言った。
それぞれが気を使って、明るい打ち明け話をした事で、かなり気持ちが安らいだ。
洞窟は緩やかに下へと向かっていた。左右へと曲がり道が増えていて、奥へと進むうちに細い道になっていき、足場が悪くなってきた。
皆は1列に並んで歩いていたが石が無数に転がっていて、何度も転びそうになっていた。
無言で10分近く歩いていると右へ曲がる道があり、その先に行くと、二手に分かれた道が現れた。
「どっちだろう?」と僕は独り言のように呟いた。
「竣くん、まただよ。あれは何んだろう?」と美華ちゃんは再び何かに気づいたようだ。
分かれ道の左の穴の地面に、ポケットテッシュが落ちていた。テッシュは使われずに残っていた。
僕はポケットテッシュを拾って中身を見るとレシートが入っていた。僕はレシートを調べてみた。
『20✕✕年7月✕日12時3分・綺羅星米使用の昆布秋刀魚蒲焼おにぎり限定品140円、焼豚おにぎり120円、合計260円、内消費税等19円、お預かり合計300円、お釣40円』
詩音はおにぎりが大好物だった。「自分で作るおにぎりが世界で1番美味いよ。研究に研究を重ねたからね。あはははは」とよく笑って話していたほど、おにぎりが好きだった。僕はレシートを亜美に手渡した。
亜美はレシートを見て、すぐに顔色が変わった。
「詩音のものだよ」と亜美はレシートを上に上げて唇を震わせて言った。
「どうしてわかるんだい?」と憲二は亜美からレシートを受け取って確認しながら言った。
「だって、詩音に頼まれて、私がおにぎりを買いに行った時に受け取ったレシートだからね」と亜美は心配そうに言った。
「うーん、そうかぁ。うーん、うーん」と憲二はやり場のない焦りを隠しながら唸っていた。
「待ってよ。詩音くんは左側に逃げて避難したのを教えるために、印としてワザと落としたんじゃないのかな?」と美華ちゃんは鋭い推理を披露した。
「確かに! ありえるね。そうかもしれないね!」と梨香が亜美を元気付けるために顔を明るくして言った。
「私も同感ですな。足跡があるかもしれないので、私が地面を調べてみましょうか?」と瀬都子は屈み込んで言った。
僕らはまず右側の穴の地面を調べてみた。クモやムカデが動いていた。
「ひっ!!」と美華ちゃんは声を出して仰け反ったが、我慢して耐えながら地面を見つめていた。
右側には詩音の足跡は無かった。皆は左側に移動した。
僕の最新式の懐中電灯は明るさを5段階に切り替えられるという優れものだった。
道を歩く時には目にも優しい3段階にしていたが、今は4段階にしてみた。
爽やかな明るさで照らされた地面を見ると、美華ちゃんの苦手な虫だらけだった。
ムカデが異様に動いているのは明るさに驚いたためか。
左側の地面を調べてみたけど、こちら側にも詩音の足跡は見当たらなかった。
僕は穴の先を懐中電灯で照らしてみた。先は長く続いているようだった。
僕らは立ち尽くして考えた。詩音はきっと何かを残しているはずだという予感めいたものが僕の胸にはあった。
僕らは再び慎重になって手分けをしながら辺り一帯を隈無く調べてみた。
「竣! 足跡がある! それと、これはなんだろう?」と梨香は声をあげて岩の上を指差していた。
穴の入り口から前方1メートル70センチ付近の場所で詩音らしい足跡が見つかった。
おそらく、詩音は追っ手を撹乱させるために、ジャンプをして足跡を追えないようにしたのだろうと僕は推理をした。
詩音の脚力ならこれくらいのジャンプは余裕で、あり得る話だった。
更に梨香が発見した岩の上にある物とは、パンダのぬいぐるみのシールで、岩に貼ってあるのを発見したのだ。
これは間違いなく詩音が貼ったシールだと僕は確信をした。
なぜなら、以前にこんな事があった。
「いやぁ〜。このパンダのぬいぐるみが欲しいんだよねぇ〜。30枚集めてハガキに貼って送るとね、貰えるんだって。
でも1000円分の食品を買って1枚シールが貰える仕組みなんだよな。だから、最近、俺さ、家の母ちゃんに珍しく駄々をこねているって言うわけなのさ。あははは。竣、どうしても、今回ばかりは、パンダのぬいぐるみが絶対に欲しいんだよね」と詩音は偶然会った時に笑って話していた。
第一、洞窟に、笑顔を見せる可愛らしいパンダのシールなんてあるはずがない。
絶対に詩音が無事を知らせるために貼ったシールだ。
「よし皆、気を引き締めよう。これから左側の穴を進んでいく」と僕は言った。
「梨香、でかしたぞ!! よく見つけたよ! ありがとう」と僕は梨香を讃えた。
梨香は照れてくさそうに笑っていた。
詩音は生きているという希望を胸に僕たちは洞窟の奥へと進んでいった。
先程と違い大きな変化があった。足取りに力強さが感じられるのだ。軽やかさもあった。
大切な友達が困っているんだ。見捨てるなんていう愚かな真似は絶対に出来ない。
つづく
ありがとうございました!




