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鰻重

 「竣、金曜日の朝です! おはよう! ほらっ!! もう起きなさぁい! 6時半だよ! 今日も暑いよ! ちょっと、いい加減にしなさい! 早く起きなさい!」

 

 母、幸子が布団を

剥がそうとしていた。

 

 僕は必死で

布団を押さえていた。

 

 「あと1時間だけ」

と僕は言った。

 

 「なにアホな事を言ってんだい!! ダメだ! ほら! 早く起きろ!」

 

 「あと1時間だけでいいからさ!」


 「ダメだ! 早くしなさいよ! 起きないんなら、朝食を出さないよ。うな重なんだよ!」

 

 「なんだそれっ!?」僕は思わず大きな声で言った。

 

 「ウメさんがなぜか深夜の2時から4人分のうな重を作って朝の6時に持ってきてくれたのよ。国産の天然物のウナギだって。スズ婆ちゃん、お母さん、竣、夏奈子の分。夏奈子は美味しい、と言って、今、食べているよ」と言った。

 

 「爺ちゃんとお父さんの分は?」と僕は体を起こして言った。

 

 「ない。ウメさんがあとで、お爺ちゃんの分は持ってきてくれるとさ。

 お父さんは5時半には出張でもう仕事に出掛けて行ったから、食べるのは無理でしょう? 竣、本当にうな重だよ」とお母さんは言って部屋を出ていった。

 

 「朝からマジなのか?」と僕は目を擦りながら起きて茶の間に行った。

 

 スズ婆ちゃんとお母さんと夏奈子は貪るようにうな重を食べていた。

 

 お母さんは僕にうな重を持ってきた。

 

 「蓋を開けてごらん」と母、幸子は嬉しそうな顔をして言った。

 

 僕はテーブルに着いて、うな重の蓋を開け驚いた。分厚いウナギが重なリ合っていた。

 天然物だけあって艶が良く香りもしっかりとしていた。

 はち切れんばかりの凝縮されたウナギの肉厚な身が高い栄養を含んでいることを示していた。

 山椒のオリエンタル的な香りは、活発な雰囲気を醸し出す香り、そのもので、食欲を更に刺激していた。

 

 見た目は5千円の高級うな重にも引けをとらないものがあった。

 僕は一気に目が覚めて、がっつくように頬張りながらうな重を食べた。

 

 滅多に朝から味わえないブレックファスト。

 僕は食べ終えてお茶を飲んでから「旨かったぁ〜! ご馳走様でしたー!」と言ったあとに手を合わせた。

 

 「ウメさん、なんで、うな重なんか持ってきてくれたんだろうかね?」と僕は不思議な気持ちを素直に言った。

  

 「温泉だね」と婆ちゃんは確信を持って言った。

 

 「明日の温泉の口裏合わせを、分かりやすい形で感謝の気持ちを表したのだろうねぇ」とスズ婆ちゃんはウメさんの行動を推理をした。

 

 「ウメさん所の爺さんはしょっちゅう、『ウメ、ウメ』って言っているから」と夏奈子はお湯を急須に注いでから湯呑みに入れて言った。

 

 「寂しがり屋だからな」と僕は納得をして言った。

 

 「皆、なんとか頼むよ」と婆ちゃんは親指を皆に見せて言った。

 

 「任せといてよ!」母、幸子は言って細い腕を曲げて力こぶを出した。僕ら4人は頷いた。

 

 「ところで爺ちゃんは?」と僕は周りを見回しながら言った。

 

 「畑仕事だよ」とお母さんは言った。

 

 和雄爺ちゃんは元・漁師だったらしく、若い頃には世界各地を回ってきた。

 

 「丈夫な体や足腰があるのは、あの頃の仕事のお陰だよ」とよく言っていた。

 スキーもやるし、スケボーにも上手に乗ることが出来た。

 

 以前、「今年の夏はサーファーを目指している」と言っていたが、どこまで本気かは分からなかった。

 急にサーフィンの本を読んでみたり、「髪を染めたいんだ」と言い出した時には婆ちゃんが「その髪が無いでしょうが!」と言って冷やかしながら笑っていた。

 


つづく 

いつも楽しみに読んでくれてありがとうございます!


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