綺麗な夕陽
幼い頃の優しい記憶はいつまでも。
「ところで、3人で何処に行っていたの?」と電車に揺られながら僕は皆に聞いてみた。
「水玉市民プールだよ」と翼くんが泳ぐ真似をしながら言った。
「あ〜、水玉市民プールか。確か、小学生、低学年用の浅いプールが何ヵ所かあるところだな。お兄ちゃんもね、昔、行った事があるよ」と僕は思い出して懐かしい気持ちになっていた。
水玉市民プールは、土、日曜日、祝日などに家族連れて来る人気スポットだった。
夏休みとなると混雑する毎日だった。
老人たちの憩いの場でもあるので、プールサイドで将棋やオセロをしている老人がいたり、売店で買ったお菓子や果物を分け合って食べているオバサンたちがいたり、海水パンツを履いてストレッチだけを1時間近く念入りにやったのに、結局、泳がないで帰宅するという老人がいたり、中には民謡や演歌を歌いに来て水に入らない老人もいた。
1ヶ所、ぬるま湯みたいな温度のプールがあって、足湯代わりに足だけをプールに入れながら新聞を読むオッサンもいた。
うるさいとか、邪魔だとか、誰もそんな考えや気持ちにはならなかった。
ほのぼのとしていて、見守られているような暖かい安心感のあるプールだった。
プールの底が自宅のお風呂並みに極端に浅い、泳ぐのには徹していないという奇抜な大人用プールが1ヶ所あったり。
大人用3、子供用4、合わせて7つのプール。
メインの一番長いプールが、全長304メートルという明らかに設計ミスで、アンバランスが目立つプールがあり、僕は子供の頃、来るたびに、その歪な形に笑っていた。
今でも水玉市民プールは楽しい場所だったと僕は記憶している。
「とくいのおよぎは?」と恵子ちゃんは窓の外の景色を見ながら僕に言った。
「犬かきかな」と僕は段ボールの中の子犬を横に動かしながら言った。
「あははははは!」と3人はお腹を抱えて笑った。
「冗談さ。クロール、クロールだよ。クロールが1番得意です」と僕はクロールのゼスチャーをしながら言った。
「わたしはひらおよぎだよぉ〜」と英理ちゃんも平泳ぎの動きを真似て言った。
「わたしは『マーメイド』にあこがれているから、もぐって、およげるようになる、れんしゅうをしているの。わたしもとくいは、クロールだよ」と恵子ちゃんは夢見るような目付きで言った。
「マーメイドね。マーメイドはいるよ。昔、ヨーロッパで航海に出ていた船の船員、船乗り達がマーメイドを見たという話があるし、色んな伝説や言い伝えが残されているからね。恵子ちゃんもマーメイドを探してごらんよ」と僕は恵子ちゃんに励ますように鼓舞するように言った。
「うん! ぜったいにさがすよ! やっぱりね! いるとしんじていたから、そのはなしは、うれしいなぁ〜! あはははは!」と恵子ちゃんは椅子に座ったまま、喜んで跳ねていた。
「翼くんは、どんな泳ぎが得意なの?」と僕は聞いた。
「ぼく? クロールだよ。いきつぎしないで、10メートルもおよげるよ!」と翼くんは自慢気に言った。
「すごいじゃないか! 記録に挑戦するために、息継ぎをしないで泳ぐのかい?」
「いや、まだ、いきつぎができないんだよね。いまね、れんしゅうをしているところ」と翼くんは照れ笑いをしながら言った。
「なるほどね。息継ぎが出来れば、もっと長く泳げるようになるよ!」と僕は翼くんを励ました。
「うん! わかった。がんばるよ!」と翼くんは力強く頷いた。
窓から強い夕陽が射し込んできた。綺麗な色の夕陽だった。
バーミリオンビューとパーマネントイエローライトを混ぜ合わせた色かな? と僕は思いながら夕陽を見つめていた。
あと、少々、コバルトブルーを入れれば大丈夫だなと僕はイマジネーションでキャンバスに色を付け足して完了させると納得をした。
子供達は静かに夕陽を見ていた。英理ちゃんが「きれいだねぇ〜♪」と涙目になって微笑んでいた。
つづく




