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She feels good

女性は太陽みたいだね!

 駅までの道を戻る途中、段ボール箱の中の子犬は、あどけない瞳で僕をずっと見上げていた。可愛い。この胸の高鳴りはなんだろう? 僕は堪らなく子犬を守ってあげたい気持ち、使命感が強くなっていくのを感じていた。

 

 問題はどうやって母親を説得するかに、上手くやるかに、かかっている。

 おだてつつ、持ち上げつつ、誉めちぎり、ヨイッショをして、優しくしなければならないのだ。

 

 スズ婆ちゃんを味方に付ければ鬼に金棒だから、スズ婆ちゃんに頼むしかないと思う。和雄爺ちゃんなら「飼っても大丈夫さ! 良いよ」と言ってくれると確信しているし。

 夏奈子は喜んで飛んで跳ねてシャウトしながら踊り明かすに決まっているし。父親は不在、出張中であれだし。

 

 僕の母親、幸子は、昔、飼っていた2匹の犬との別れ以来、「辛い。もう犬は飼えないよ」と言うほど、かなり落ち込んでいた。ペットロス症候群が、6~7年も長く続いていたのだ。

 今も自分の部屋に2匹の犬の写真を飾っている。

 ジェイミーとキャルという名前の男の子で、犬種はシェトランド・シープ・ドッグだった。2匹との思い出は色褪せずに今も僕の心に大切に残っている。

 

 僕は改札を抜けて、駅のホームのベンチに座り段ボールから顔を出している子犬の頭を撫でていた。

 メスは初めて飼う(今は予定)ので、あまり慣れていない。やっぱり違う。目が、メスの柔らかい優しい目をしている。

 

 雰囲気や仕草がメス独特のしなやかさや柔らかさがあるし、動きも軽い身のこなしを感じた。賢くて、思いやりがあり、美人で聡明な顔立ちをしていた。とても頭が良い犬だと思う。褒めちぎりたいほど可愛い。

早くも僕は親バカになっていた。

 

 「君は、凄い美人だねぇ」と話しかけた。

 

 「きゃん、きゃん♪」と鳴き声をあげたが、声までオスと違って聞こえていた。

 

 「こりゃ、大変かも分からんな。慎重に扱わないと、育てないと嫁に出せんな」と僕は子犬に微笑みかけながら言った。

 

 「家に来れば、大丈夫でちゅからねぇ〜! おりこーたんにして、家の母に愛想よくするんでちゅよ〜♪ わかりまちたかぁ〜♪ かわいこちゃん♪」と僕は子犬に対して、自然に赤ちゃん言葉で話し掛けていた。

 

 辺りを見回して、人がいないかを十分に確認をしてから、赤ちゃん言葉で話し掛けるべきだと気付いたのは、知らぬ間に僕の傍に、またしても小学3年生位の子供が3人、横一列に並んで、じーっ、と僕を見ていたからだった。

 

 幸いなことに、歌うたいボーイ&鼻くそボーイではなかった。女の子2人と男の子1人だった。

 

 「やあ!」と僕は赤ちゃん言葉で話していた事を照れながらも、3人に声を掛けてみた。

 

 「おじさんの、いぬ?」と鼻垂れボーイが言った。

 

 「お兄さんです。そうだよ」と僕は言った。鼻垂れボーイの鞄に『翼』と書いてあった。

 

 「かわいい〜♪」と女の子2人が子犬に顔を寄せて見つめていた。同じく鞄に名前が記されていた。おかっぱ頭の女の子が『恵子』ちゃん、白いポニーテールの女の子が『英理』ちゃん、と書いてあった。

 

 「さわってもいい?」と英理ちゃんは言った。

 

 「良いよ」と僕は言って、段ボールを英理ちゃんに向けた。静かに恐る恐る撫でるように触る英理ちゃんは、ちょっと緊張気味だった。


 「かわいい♪ かわいい♪」と英理ちゃんは笑っていた。

 

 「いくつなの?」とおかっぱ頭の恵子ちゃんも子犬の頭を撫でながら言った。

 

 「分からないけど、生まれて3、4か月位だと思うよ」と僕は考えながら話した。

 「なまえは? なんていうの?」と鼻垂れボーイの翼くんが言った。

 

 「メスなんだけどね、まだ決めてないんだよ。家に帰ってから家族と話し合って決めようとは考えているけど、何か良い素敵な名前があるかい?」と僕は言ってみた。良い名前が子供達から出てくるかもしれない。

 

 英理ちゃんが足を前にクロスさせて腕を組み、大人っぽく「う〜ん…ジェニーはどう?」と、中々、センスのある名前を出した。

 

「良いね。素敵だな」と僕は感心しながら言った。

 

 「ジュリアはどうかな?」と恵子ちゃんもハイセンスな名前を口に出した。恵子ちゃんは目が生き生きしていた。

 

 「凄く良いと思うよ! 気に入ったよ」と僕は恵子ちゃんの顔に子犬を寄せて言った。


 「ウンコがいいんじゃない? あははは!」と翼くんは笑いながら言った。

 女の子2人は少し顔をしかめて、翼くんの頭を叩いたけれど、女の子も2人とも顔がニヤけていた。

 

 「ウンコかぁ…。却下だな」と僕はすぐに言った。

 

 この世代は、ウンコと言うだけで、男女問わず、日本中のチルドレンが爆笑するほど、過剰に反応してしまう貴重な黄金世代であった。

 

 思い起こすと…、僕も、この頃、クラスメートの男子が、至る所でウンコという言葉を呪文のように、毎日、宙を飛び交わせてたのを思い出した。もうひとつ、爆笑していた言葉があるが止めておこう。

 

 「君たちは何年生なの?」


 「なんねんせいにみえる?」と英理ちゃんが質問してきた。


 「3年生かな?」と僕は言った。


 「ざんねんでしたぁ♪ せいかいは2年生です」と恵子ちゃんは、右に左に体を揺らしながら言った。

 

 「2年生は大変な時期だねぇ。勉強も1年生の時よりも、かなり難しくなってきたでしょう?」

 

 「かんじがたいへんなの」と英理ちゃんは小声で言った。


 「ぼくは、べんきょうが、にがてなんだよなぁ〜、さんすうがいやだし」と翼くんは眉間にシワを寄せて言った。

 

 「そうだよな。算数は嫌だよな。じゃあ、お兄ちゃんが問題を出すから答えてごらん。15−8=?」と僕は翼くんに難問を言った。

 

 「18?」と翼くんは考えずに思い付いたことを言った。

 

 「なんで増えるの? 引くんだよ。数を引く」と僕は可笑しさを堪えて翼くんに言った。

 

 「7ですっ♪」と恵子ちゃんが目を輝かせて正解を答えた。

 

 「おお!! 正解です!!」と僕は強めに拍手をして言った。

 

 「けいこちゃん、すげぇーな! ぼくはね『7(ナナ)』のソフトクリームなら、ぜんぶ、くえるぜ!」と翼くんは得意気に胸を張ってヨダレを垂らしながら言った。

 

 「じゃあ、2+15=?」と僕は続いて第2問を出してみた。


 「18?」と、また翼くんは同じ答えを迷わずに言った。


 「惜しい!!」と僕は指を鳴らしながら言った。

 

 「17です♪」と今度は英理ちゃんが手を上げて正解を言った。


 「正解です! じゃあ、最後の問題です。11+7=?」と僕はサッカーのセンターリングパスみたいな問題を出して言った。

 

 「18?」と翼くんが諦めずに同じ数字を答えた。

ようやく正解に到達。

 「正解です! おめでとう!! 翼くん!」と僕は翼くんの頭を撫でて言った。 

 恵子ちゃんと英理ちゃんは翼くんに大きな拍手をした。

 

 「なんでさ、ぼくのさぁ、なまえをいっていないのにさぁ、しっているの?」と翼くんは不思議そうな顔をして僕を見ていた。


 「翼くん、英理ちゃん、恵子ちゃん、ってそれぞれの鞄に名札が貼ってあるよ」と僕は笑いながら言った。


 「あっ、そうだった! わすれてたわ。あははは」と翼くんは自分の腹を叩きながら笑った。

 

 「あっ!! でんしゃだぁ~♪」と英理ちゃんが緑色の電車に指を差した。

 

 「じゃあ、皆さん、帰りましょう」と僕は言って皆で電車に乗り込んだ。





つづく

ありがとうございました!

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