夢幻
バニラ味のアイスクリームは美味しいなぁ。今日は素敵な女の子にめぐり逢えたんだ。もし望みが叶うなら「僕は夢の中で君に会いたい」と竣は思った。明日はどんな一日がまっているのだろう?
風呂から上がると、スズ婆ちゃんと夏奈子が歌番組のテレビを見ていた。
僕はタオルで頭を擦りながら冷蔵庫に行き、中にあるはずだったバニラ味のアイスクリームを確認した。
アイスクリームは「あった!」のだ。またしても、夏奈子に担がれたてしまったのだった。
最近、僕は夏奈子におちょくられている。ちくしょうめ! 借りは返さねば。
僕は「夏奈子、麦茶を飲むかい?」と言った。
「飲む。Thank You」と夏奈子はテレビを見ながら言った。
「婆ちゃんは?」
「私は牛乳でいいよ」
「わかったよ」と僕は言った。
僕は麦茶を夏奈子の愛用のマグカップに注いで、台所に置いてある小さな赤いテーブルの上に置いた。
僕はアイスクリームを食べながら、婆ちゃんに持っていく牛乳をコップに注いで煎餅と一緒に持っていった。
「ありがとう」と婆ちゃんは言った。
「あれ!? お兄ちゃん、私の麦茶は?」と夏奈子がキョトンとした顔をして言った。
「麦茶は、ちゃんと注ぎました」 と僕は言った。
「嘘でしょ? 無いじゃん?」と夏奈子は肩を竦めて言った。
「注ぎました」と僕はアイスクリームを食べながら赤いテーブルを指差す。
「なにさ!まったく!もう、意地悪だよねぇ」と夏奈子持っていたクッションを僕に目掛けて投げた。
夏奈子は「よいしょっ」と言って立ち上がると「はぁーっ…」とため息をこぼして、ふてくされながら赤いテーブルまでゆっくりと取りに行った。
夏奈子は一息で麦茶を飲み干したあとに、また麦茶を注いでこちらに持ってきてソファに座った。
「この、紫色のギラギラ輝いた奇抜な派手な衣装は一体なんだい? こんなカッコをしなきゃ歌を歌えんのかい?」とスズ婆ちゃんはプールから上がった時になる紫色の唇みたいな色の衣装を全身に纏った、ヘビーメタルのバンドを見て言った。
「この14人組のヘビメタバンドは自分たちを見失った目をしているねぇ。それに異常なほどメンバーも多すぎやしないかい?」とスズ婆ちゃんは呆れた顔を見せて言った。
「確かに見たことがないくらい多いよね」と僕は首を横に振りながら同意した。
「あの一番左の男は歌も演奏もしないで、犬の縫いぐるみを胸に抱えて段ボールの上に座っているだけだけども、何なんだい?」とスズ婆ちゃんはテレビ画面に指を突きながら言った。
「『途方に暮れてたぜ』というタイトルの歌だから、途方に暮れてるんじゃないの?」と夏奈子がバカ笑いして言った。
「ヘビメタの精神から大きく解離していて、もはやへビメタではないね。ちょっとした、お通夜にも見えるよね?」と僕は淡々と夏奈子に説明をした。
確かイントロで画面に出たテロップで、作詞、作曲がプロの方によるものだった。自分達で作った作品、歌ではないのだった。
僕は完全に方向性を見失った哀れなミュージシャンの生々しい姿がコントに見えて仕方がないので、スズ婆ちゃんと夏奈子に「おやすみ」と言って自分の部屋に戻っていった。
☆☆☆☆☆
部屋に戻ると既に絵は乾いていた。僕は一枚ずつ丁寧に絵を見つめた。
最初に描いた絵には緊張感と線による勢いが感じられた。顎から首にかけての繊細なラインが心地よい。この1枚。
5枚目に描いたクロッキーは最小限の線を駆使して描いている絵だ。余分なものをすべて取り払った線には清々しい気持ちが宿っていた。5枚目。
今回はこの2枚がベストなデッサンだった。色を乗せたい気持ちが強く頭に浮かんてきたが、モデル本人を目の前にして描かないと難しいものがある。
なんとかして、あの女の子にもう一度会いたいという気持ちが高ぶっていた。
僕は首を回して凝りを解すと電気を消して布団に入った。
『あの女の子は、今頃、もう寝たかな? まだ午後11時15分だから寝ていないだろうな。
綺麗な女の子だったな。夢じゃないことを願うしかないな』と考えていた。
僕は体を起こして電気をつけた。机に行き、置いてあるデッサン画を見つめて「おやすみ」と言ったあと布団に戻り再び電気を消した。
『夏休みは絵を描くぞ! 明日は転校生か。明日は…、憲二に借りたモネの画集を返さなきゃな…、夏奈子の歌声が聞こえるな…。上手いけどもさ、夜はもう止めなさいな。おっ!? 収まったかな? 3分くらいの歌だったな。
スズ婆ちゃんの温泉は明後日か…、爺ちゃんにバレないようにしないとな。明日は……、転校生か…、明日は……、明…………』
僕は深い眠りに落ちた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夢を見た。
図書館である有名な女優が本を真剣に読んでいた。
女優は時々ノートに何かを書き込んでいた。辞書を開いては本と照らし合わせて言葉の意味を確認しているようだった。
女優は僕の姿に気づいて「こちらにおいで」と手招きをした。
僕は机に向かい合って座った。女優は横を向いて、「来たわ」と言った。僕も横を向くと伝説のスター、ジェームス・ディーンが映画『ジャイアンツ』と同じ衣装のカウボーイスタイルでやって来た。
僕は驚きのあまり腰を抜かして震えていた。
「やあ。調子はどう? 僕はジミーだよ。今度、映画で『理由なき反抗』の続編を撮ることになったんだ。そこで、君に頼みがあるんだ。続編のシナリオとカメラを担当してくれないか? お礼はちゃんとするよ」とジェームス・ディーンが僕に言ったのだ。
僕はオロオロしながら、「ポスターをくれますか? もし良かったら、ジミーのポスターを何枚かくれたらシナリオを書きますよ」と言った。
ジェームス・ディーンは「いや、お礼は君を彼女と引き合わせる事なんだよ」とジェームス・ディーンが言った後、頷いて合図をする海で出逢ったあの素敵な女の子がやって来た。
僕は驚きのあまり、またしても腰を抜かして倒れた後に、左に転がってこの場を去ろうとした。
ジェームス・ディーンが「おい! 待てよ! 逃げるなよ!」とニヤニヤしながら僕に手招きをしながら言った。
僕は離れた所からあの女の子に向かって「こんにちは! こ、こ、これはなんでしょうか? ほら! ジェームス・ディーンがいますよ」と僕は言うと、彼女は「ウフフフ、ジェームス・ディーンがいますね」と笑って図書館から出ていってしまった。
「あっ! 待って! 」と僕は声を出して駆け寄ると、彼女は外の扉の横に置いてあるベンチに座って待っていてくれた。
彼女は僕の手を握ぎり締めて「大丈夫だからね!」と言った後に、手を更に力強く握り締めて空を見上げてから間もなく、物凄い勢いで僕と一緒に空を飛んでいった。
推進力の高い見事なロケット並みの速さだった。
「コ…コラ! 名の知れた娘さんっ! 止めて〜っ!! ストッ〜プだって! と、と、止めなさ〜い! スピードの出しすぎは危ないって! ダメだって! 免停になるから速度を今すぐ落としなさぁ〜い!」と僕は鼻水と涙を垂らしまくりながら言った。
彼女は「アテンション、プリ〜ズ♪ もうすぐですよっ。あと5分で到着いたしまぁ〜すっ!」と笑顔を浮かべて無邪気に言った…。
ところで、
僕は目が覚めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
僕は汗だくだった。
喉が渇いていた。
涙も出ていた。
電気をつけて、
スマホで時刻を見た。
午前2時50分だった。
確かに僕は空を飛んだ。
体に浮遊感が残っている。
僕は台所に行って冷蔵庫を開けて麦茶を飲んだ。
僕は部屋に戻りティッシュで鼻をかんだ後、夢の続きを見たくて二度寝した。
つづく
読んでくれてどうもありがとうございます!続きをお楽しみに!またよろしくお願いしますね!