男と女(TWO OF US)
ソフトクリームは美味しいよね!
僕の番が来た。店員は18歳位の綺麗な女性だった。胸に研修中のバッチがしてあった。
「いやぁ~、こちらへようこそ! どうもどうも。ようこそいらっしゃいました♪ あっ、いらっしゃいまし〜ぃ♪」店員は緊張しているためか、挨拶からして間違っていた。
「こんにちは」と僕は緊張をさせないために笑顔で言った。
「こんにちは♪ ご注目、あっ、ご注文は何になさいますかね? お薦めはですね、地獄の……」
「ちょ、ちょ、いややゃゃゃっ。それは結構です。バニラ味のソフトクリームを1つくださいな」と僕は店員が、またあの長い商品名を言いそうになったので慌てて制止して注文をした。
絶対に、この店員はこの商品名をエンドレスで噛み続けそうなので怖かったのもあった。
「かしこまりましたらー♪ あっ、かしこまりましたぁー♪ 期間限定ですので、次回、ご来店の時には、ぜひ、地獄の……」
「わ、わ、分かりましたよ。また、今度にね」僕はもう辛さを思い出したくなかった。
「サイズはどうする? あっ、サイズはいかがなさいますかぁ?」この店員は美少女だけどもかなりの天然だと分かった。
「Uサイズでお願いします」と僕は無いサイズを、わざと言ってみた。S、M、L、特別ジャンボサイズのLがメニューにのっている正式な注文サイズだ。
「こちらでお召し上がりになりますか?」
「うん」
「かしこまりましたー♪ 了解ですぅ!」となんと注文が通ってしまったのだ。
「ちょっ、ちょっ、ちゃんと確認したかい? もう一回注文を確認した方が良いよ」
「はい。バニラ味のソフトクリームを、お1つ。サイズはUですね? 少々、御待ちくださいませ。……。あれっ!? あーっ! お客様、悲しいお知らせがあります。申し訳ございません。Uサイズはですね、ない。この世にはないサイズなのです。一番大きいサイズで特別Lサイズです。それで宜しいでしょうか?」と店員はあたふたしながら言った。
「はい」と僕はわることしちゃったなと思いながら言った。
「480円です。はい、確かにお預かり致しまぁーす。お釣りは20円なり。あっ、ありがとうございましたぁ♪」
言い間違いや、そそっかしい店員も愛嬌があって可愛いもんだねと思いながら、僕はソフトクリームを受け取り、謎の男がいる窓際の席へと移動することにした。
僕はあからさまに相手の顔が見える位置から確認をするのは失礼なので、男の隣のテーブルに座った。
さりげなく男の様子を見た。男は窓の外を見ながらソフトクリームを食べていた。
やっぱりそうだ! 彼こそ、ジャン・アレックス・水詩だ。
憧れの詩人がこんな場違いなところでソフトクリームを無邪気に食べているなんて、滅多に御目に掛かれない。僕は思いきって声を掛けようとした時だった。
入り口からモデル並みの美女が入ってきて、早足で歩いて、せっかく持って生まれた美顔を、しかめっ面にして歪めて、胸を反らせてこちらに向かってきた。
女はジャン・アレックス・水詩の前に立つと、テーブルを強く叩いた。
「ねぇ、ちょっと! 私に連絡もくれないで何処に居たのよ!!」女性は日本人だった。雑誌でよく見掛けるモデルだと僕は気付いた。確か、長原つぐみとか言ったような気がする。
ジャン・アレックス・水詩は母国語のフランス語と英語、少し日本語を喋れる聞いていた。
「僕のお母さんの実家にいた。久々にお婆ちゃんの手料理を御馳走になってきたんだよ。今日もお婆ちゃんの家に泊まるんだよ」と食べていたソフトクリームをつぐみに差し出した。
つぐみはそのソフトクリームを手で払い除けた。
ソフトクリームは僕の足元に転がった。
「まだ、食べている途中だったのに。もったいないな」とジャン・アレックス・水詩は、笑いながら僕を見て肩を竦めた。
ジャン・アレックス・水詩は日本語が達者だった。イントネーションも確りしていた。
僕はソフトクリームを拾って、ジャン・アレックス・水詩に差し出した。
「ありがとう」と彼は笑顔を僕に見せて言った。
「私、ずっとジャンからの連絡を待っていたのよ。ほったらかしにしてさ! 本当に凄い腹立つよ」と、つぐみは腕を組んでイライラしていた。
「すまないね。色々と仕事の打ち合わせなどで忙しかったし、取材や詩の朗読会で全国を駆け回っていたからね」
「スマホは何のためにあるのよ。連絡なんてすぐにでも出来ることでしょう?」
「スマホ? 僕はガラケーだよ」
「どっちでも良いよ! そんなことはさ! 連絡は大事なことなのよ。心配するでしょ!」
「君は僕のなんだい?」
「私は彼女じゃないの?」
「彼女だけとさ。僕の母親じゃないよ。過剰な心配はいらないね。僕は君より、3つも年上なんだから」
「心配はするでしょうよ! 来日してから10日間も私に連絡もなしだったらさ! テレビや新聞でしか貴方の姿を見ていないとなれば尚更でしょうが!!」
「遠距離恋愛は感覚的に間延びする錯覚があるからね。刻下の打破をしないと常に危険だよね」とジャン・アレックス・水詩は難しいことを言った。
「何よ、それ? 要するに私に連絡をすれば済むこと! それだけのことに難しいことは言わないでよ!」とつぐみは大声で説教をするように言った。
周りのお客さんが、皆、こちらを一斉に見ていた。ジャン・アレックス・水詩には彼女がいて、その彼女と真っ昼間から揉めているとなれば注目せざる負えなかった。
「怒るなよ。僕は3日後にはフランスに帰るよ」
「はあっ!? ちょっと、急に何言っているのよ! 聞いてないわよ!! そんな話! なんでなのよ?」立ち上がったつぐみは声を張り上げて言った。
「仕事で戻らなければならないからだよ」
「私を避けていない?」
「避けているよ」
「な、な、何でよ?」つぐみはショックなのか、声を落として言った。
「君に会うにはまだ時期が早すぎだと思ったからね。怯える気持ちは君にも分かるだろう? 揺らいだりとかさ」
「分かるけど、今は意味が分からない」とつぐみは椅子に座り込んで言った。
ジャン・アレックス・水詩はポケットからセルリアンブルーの小さな箱を取り出して、つぐみの前で開いた。
綺麗なダイヤモンドの指輪が出てきた。美しく輝く指輪が、愛にときめいているように煌めく。天使たちの歌声が指輪からしてきそうだった。
周りのお客が一斉にざわめき出している。
「つぐみ、僕と結婚してくれませんか? 一緒に幸せになろう」とジャン・アレックス・水詩はつぐみの前で膝まづいて言った。
つぐみは倒れるんじゃないのかと思うほど、立てに横に体が揺れていた。
つぐみの体が震えすぎていた。つぐみは爽やかなセルリアンブルーの指輪の箱を震えながら受け取った。
指輪の箱を持つ右手が震えていた。左手は口元を隠していて嗚咽をしていた。
つぐみは右手の震えを押さえようとしたが止まらず、結局、両手で開いた指輪の箱は一段と激しく震えていた。
ジャン・アレックス・水詩は指輪を取り出して、つぐみの左の薬指に優しくはめた。
「はい。喜んで。宜しくお願い致します。うぇん。グスン。うぁん。おぇん。うぇ~ん」とつぐみは顔を真っ赤に染めて頷くと泣き出した。
周りが一斉に、拍手と「おめでとう!」という歓声の嵐とカメラの音が鳴り響いた。
窓の外からも見物人が覗き込んでいた。
ジャンは嬉しさのあまりつぐみに抱きついた後に、僕にも抱き付いてきた。
つぐみは初めて僕の存在に気付いて笑いかけた。
『僕は今がチャンスだ!』と決心をしていた。
「おめでとうございます! 僕が幸せの証人として、確かに2人の御婚約を見届けたのを祝福したいので、記念に2人の幸せの瞬間の写真と、良かったら、僕と一枚だけ撮って頂けませんか?」と無茶なお願いを言ってしまった。
「ああ、そうだな。喜んで。良かったら、先に僕のガラケーで、僕とつぐみの写真を何枚か撮ってくれるかな?」とジャン・アレックス・水詩は言った。
長原つぐみも「よろしくお願いします」と言って頷いた。
「わかりました」と僕は先にジャンのガラケーで30枚近くも写真を撮った後に、ジャンが快く、僕と一緒の写真を5枚も撮らせてくれた。
記念写真を撮り終えると「悪かったね。ジーンズを汚してしまってさ」とジャンが僕に頭を下げて丁寧にお詫びを言った。
「えっ!?」と僕は自分の足元を見たら、さっき、つぐみさんが叩きつけたソフトクリームの飛沫がバッチリ左足に掛かっていた。
「あ、いや」と不意打ちを受けたように僕は驚いてしまった。
「これはクリーニングの代金。それと僕の最新作の詩集をプレゼントするよ」とジャンは鞄から詩集を取り出して持っていたペンでサインを書いて僕に手渡した。
僕は喜びに震えていた。「1万円も!! 良いんですか?」
「気にするなよ」とジャンは笑った。
「詩集をどうもありがとうございます! 僕は貴方の大ファンなんです」と僕は照れながら言った。
「ありがとう。それにしても、君は凄いハンサムだね。俳優か何かなのかい?」とジャンは鞄を肩に掛けながら言った。
「とんでもないです。まだ学生です。画家になるのが夢なんです」
「へーっ。じゃあ、いつかフランスにおいでよ。絵を見せてくれるかい?」とジャンは言ったので、僕はスマホで美華ちゃんのデッサン画を見せた。
ジャンは真剣に10分近くも僕のデッサン画を厳しい慎重な視線で見つめていた。
「これは素晴らしいよ! ぜひ、発表するべきだよ! 才能があるのなら出し惜しみしている時間はないんだよ。人生は常に本番だからね。未来への君の行動は価値があるよ」とジャン・アレックス・水詩は僕に大切な言葉を送ってくれた。
気付くと僕は泣いていた。
つづく
ありがとうございました!今回は全然最初の結末と違う形になりました。こっちの方が、僕は好きかな。




