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柏木美華の話

怪談は柏木美華の話です。いよいよ怪談話も最終話。竣たちの夏休みは続いています。どんな話になっているのか?楽しみに読んでください。

 「私が中3の頃の話なんだけとね、私の親友に(けい)という女の子がいたの。仲良くていつも一緒に過ごしていた。 

 

 桂は芯のある子で、明るくて好かれる子。桂は霊感の強い女の子だった。修学旅行は一緒のグループで私を含めて5人。私、桂、三咲、美希、こずえ。

 

 泊まるのはTホテルで、部屋で今と同じ様に怪談をしていたの。消灯時間は過ぎていたから、先生たちが部屋の見回りに来るのを見計らいながら、敷き布団を寄せて毛布を肩にかけて一人ずつ話をしていたわ。

 

 話しているうちにね、なんだか重苦しい空気が部屋に満ちていくのを感じてきた。霊感の無い私でも嫌な気配は感じたわ。グループのリーダーの美希が汚い人形を拾った怪談話をしていた時だった。トン、トン、と部屋の扉を軽くノックする音がした。 

 

 「先生だ!」と美希が言って豆電気1つにしてから皆一斉に寝たフリをした。私は布団を頭からかぶって部屋に入ってきた先生の足音に耳をすませていた。

 

 ヒタ、ヒタと先生が静かに、ゆっくりと部屋を歩き回る気配がしたわ。私の横が桂の布団なんだけど、桂の所で先生がピタッと立ち止まったように感じた。先生はそのまましばらく動かないでいる。『変な感じ』と思いながら私は布団の中で様子を窺っていた。

 

 桂が「うー」と低い声を出したので私たちは驚いて布団から顔を出してみると、そこに先生はいなかった。異変に気づき、桂は震えながら布団の上で座り込んでいた。

 

 「桂どうしたのよ? 先生は?」と私が聞いたら桂は眉をしかめていて全く答えない。私は桂の背中を擦っていた。

 

 「今ね、女の人がいてね、私を睨んでいたのよ」と桂は怯えて小さな声で話した。桂が「ちょっと、外の様子を見てくる」と玄関に行って静かに扉を開けると、顔を出して外の廊下の様子を見回したわ。

 

 「あー! あー! これはヤバい! こっちに来る! お願い来ないで!」と桂が大きな声で叫んで慌てて扉を閉めて鍵を掛けた。

 

 「桂、何よ? 突然どうしたのよ? 驚かさないでよ! あっ、シーッ! 誰がドアをノックしているわ」とこずえちゃんが言って、口に人指し指を当てると、皆の肩を抱き寄せて布団の上でうずくまった。



 コン。



とノックは1回だけしか鳴らなかった。

 少し間を置いてまた、

 

 

 コン。

 

 

とノックの音が鳴り響く。「誰かしら?」と私が言って、電気を1つだけ点けて忍び足で扉に行くと、覗き穴を見てみたら、そこには白い服を着た女性が立っていた。雨なんか降っていないのに女は全身がズブ濡れになっていたわ。顔が無表情だったけど綺麗な顔立ちをしていたわ。

 

 私は皆の所に戻ると「白い服の女がいる」と囁いたら「あんな感じの女性?」と三咲は右を向いて言った。皆一斉に右側の壁に飾ってあるF6の油絵を見つめた。その絵は白い服を着た女性が悲しげに薔薇の花を持って寂しそうにこちらを見つめている絵だった。


 絵の女性の顔を見て私は驚愕した。「この人だ!!」と私は指を差した。美希が「嘘でしょ?」と言い、立ち上がって油絵の額縁の裏側を見た。

 

 「御札が貼ってある…。ちょっと…『T康子・享年20歳』と書いてあるよ」と言った。皆は絵から顔を背けて口々に「なんでこんな部屋に泊まらせたのよ!」と怒りや文句を言い出した。

 

 今度は美希が扉の前に行ってから音を立てずに、のぞき穴を見たわ。しばらく動かずにいたら、

 

 

 ドンドンドン!!

 ドンドンドン!!

 

 「開けろ」

 

 ドンドンドン!!

 ドンドンドン!!

 

 

 白い服を着た女が激しく扉を叩き出した。本当に、あの大きな音、ノックの音には血の気が引いたわ。 今、思い出しても動悸がしてくる。

 

 何故か美希は躊躇いつつも、扉を開けようとしたので、皆は「やめな!!」と怒鳴るようにして叫んだけど美希は思わず開けてしまった。

 

 白い服の女は黙って立っていた。

  

 私たちは震えていた。白い服の女は廊下の明かりで逆光のシルエットだから切り取られた影絵のように見えた。

 

 本当に綺麗な顔立ちが凄く印象的だったわ。美希は女に向かって声を掛けようとした、その瞬間、廊下の明かりと部屋の電灯の明かりがノイズのように明滅を繰返して消えてしまった。

 

 私達は恐怖で声が出なかった。5分くらいは消えていたように感じたけども、実際は1分もなかったと後で知った。


 電気が戻ると白い服の女は跡形もなく消えていた。

 

 皆、ホッとしたけど、それはつかの間の事だった。

 

 

 「フフッ、フフフフ……」

 


と子供のような無邪気な笑い声が部屋の中からしてきたので、皆で声のする方を見てみたら、白い服の女が窓際で私達を睨みながら立ち尽くしていた。

 

 皆は慌ててパニック状態になって、騒ぎながら喚いたわ。

 

 「私ね……、ここでね……、死んだの」と白い服を着た女はか細い声で言うと目を大きく見開いね、、、、

 

 

 

 「死んだんよ!!

 

 体が痛いよ!!


 体が痛いよ!!


 呪い殺してやる!!」

 

 

 

 と女は目を剥き出してヨダレを垂らしながら喚いて発狂し出してね、美希に向かって襲い掛かってきた。

 

 「ダメだ、逃げよう!」と誰かが叫んだのを合図に立ち上がり、玄関の扉を開けて一目散に逃げたわ。

 

 だけどね、美希だけが部屋に取り残されてしまった。白い服を着た女は追って来なかった。

 

 誰も部屋には戻りたくない。他の部屋の生徒も騒がしさに気づいて廊下に出ていたわ。

 

 同じクラスのSがいたので『私達の部屋に女がいるのよ』と私が言うと「様子を見てくるわ」と勇敢にSは言ってくれた。Sは迷わずに私達の部屋の中を土足のまま上がっていき見てくれたわ。

 

 「ちょっと、美華。誰もいないわよ?」とSは言ってガランとした部屋の中で腕を広げて1回転をして回ったわ。

 

 Sは続けて「誰もいないけど、窓が開いているわよ」と窓際まで歩きながら言った。私達が泊まる部屋は7階にあるのよ。

 

 「S、美希は? いないの?」と血相を変えた三咲も土足で上がり込んで、Sに詰め寄ると、2人して急いで窓を開けて下の道路を見た。

 

 「美希ー! あぁー、大変だ! 私、先生を呼んでくる! 誰か早く救急車や警察も呼んで! 早く、早く!」と三咲は泣きながら怒鳴った。 

 

 私と桂以外は泣き叫んでいた。もう一度、私は窓の下を見てみると、美希はうつ伏せの状態で首が背面側に捻れて死んでいた。

 

 頭の辺りは黒々とした血で溢れていた。

 

 三咲と、こずえが泣いて首を振りながら「私は見たくないよ」とずっと言い続けていたわ。

 

 私がスマホで救急車と警察に連絡をしたのよ」美絵はため息と深呼吸を繰り返して話を一旦止めた。

  

 皆は汗だくになって聞いていた。憲二はグラスを持ったまま微動だにしていないし、瀬都子は一点を見つめるように美絵を凝視しているし、亜美は顔を引き吊らせて汗だくだし、梨香は半分泣いていて、僕は完全に気分が悪くなっていた。

 

 「美華ちゃん、どこのホテルなの? 行かないから念のために名前を教えてよ」と亜美はハンカチでおでこを拭きながら言った。

 

 「ひらぎみ第1ホテルだよ」


 「ああーっ! 聞いたことあるわ! 幽霊が出るホテルで有名だよね。芸能人も頻繁に泊まるホテルだ。サービスが行き届いているから便利で凄く良いホテルでもあるんだけどね」と梨香は声を張って言った。

 

 「美華ちゃん、どうぞ話を続けてよ」と僕は緊迫しながら言った。

 

 「喧騒、バタバタと慌ただしく周りが動いていた。だけどね、なぜか桂だけが窓の下を見つめながら何かを言っていたのよ。

 

 「桂!? どうしたの?」と私が聞くと桂は「嫌な女ね」と呟くと皆の顔色が青ざめた。

 

 「桂!? 何を言っているのよ! 酷いこと言わないでよ!」と私が真剣に怒って言うと、桂は微笑みながら、

 

 「皆、勘違いしないで。死んでいるのは美希じゃないよ。美希!」と言って部屋の中を探し始めた。

 

 押し入れを開けたり、浴槽を見に行ったり。トイレの前に行くと桂は皆を呼び寄せた。

 

 桂は優しく扉をノックすると、「美希、大丈夫だよ。出ておいで」と言ってドアを開けようとしたけど、鍵が掛かって空かなかった。トイレの中からノブが回ると、しずかに扉が開いて、怯えきった美希が出てきた。

 

 「美希ーっ! 大丈夫だったの? ああ、良かったぁー! 良かったよ!」と皆で言うと美希を抱きしめたわ。

 

 「皆、下を見て」と桂が独り冷静になって言うので、恐る恐る皆で窓の下を見てみると、そこに倒れていたはずの女の姿は無かったのよ」

 

 「げっ!?」と憲二がむせながら言った。

 

 「な、なんでよ? ど、どういうことよ!?」と亜美が唖然としながら言った。


 「一体、何が起こったのか、美希が詳しく話した状況によるとね…、

 

 「女は私の首を締めかけたけど、上手くかわして、急いでトイレに逃げ込んだの。鍵を掛けて閉じ籠っていよう、としたらね、


 「見ろよ!」

 

と言う女の声が後ろから聞こえて、私を羽交い締めしてきたので、私はパニックになり、ドアを開けて部屋に戻ったのに、また目の前に女が現れて「あいつだけは、あの男だけは許せない」と女は金切り声で叫ぶと窓に腰を掛けて悲しげな微笑みを浮かべてね、私に手を振りながら窓から飛び降りたのよ。

  

 あの、心ここにあらずみたいで悲壮感に満ちた女の瞳が狂気すぎて今も忘れられない…。私、女が飛び降りたとしても、また来るかもしれないと思ったのでトイレに避難していたの」と美希は泣きながら言っていたわ。


 「どうやら、怨念、未練を残した女の霊が自分の存在に気付いて欲しくて現れたんだと思う」と桂が深刻な顔をして、室内を回りながら話したわ。

 

 ようやく、先生もSも来て、窓の下を見たけど誰もいないので、私達は物凄く先生に怒られた。

 警察も救急車も来ていたし、救急隊員の方々も警察官も「またか」と言っていたので頻繁に女の霊が現れては困らせていたみたいね。警察官の話によるとね、以前、このホテルのオーナーの娘が、この部屋から飛び降り自殺をしたと話したのよ」と美絵は疲れた顔をして一息をついた。 

 

 「美希さん、無事で良かった」と僕は安堵しながら言った。


 「まだ続きがあるの。修学旅行が終わった3か月後の10月始めだった。美希のお母さんが原因不明で急死したのよ。更に、翌日には美希の妹も大きな交通事故に巻き込まれてしまって、意識不明、骨盤と両足の骨折、肺に損傷の大ケガをしてしまったのよ。集中治療室に入院して、更には美希のお婆ちゃんが首を吊って自殺したの。これはただ事ではないという混乱状態が続いていた。美希の両親は離婚していたので、父親に知らせる事は出来なかった。連絡先も知らないとのこと。美希はどんどん弱っていったわ。体重が53キロあったのに、39キロまで落ちた。顔はやつれて、歩くのもやっとみたいだった。呼吸が苦しそうだし、食事も取っていない。美希の親戚が心配して『病院に行きなさい』と言うけれど、もはや病院に行く体力も無くなっているほど寝たきりで衰弱していた。美希自身が病院に『行きたくない!』と拒むので親戚一同、皆、困り果てていた」

 

 「一体、美希さん、どうしたのかしら?」と梨香は明らかに動揺を隠せずに呟いた。

 

 「私は桂に相談した。『たぶん、あの白い服の女に取り憑かれていて、不幸が連鎖している』とのことだった。『私の力では、こればかりは、どうすることも出来ない』と桂は肩を落としてね、悔しそうに言ったわ。

 

 私達は悩んだ。するとフッと突然、私は閃いた。私の親戚に沢田慎二(さわだしんじ)という、当時、大学3年生の俳優志望の男の子がいた。私の兄みたいな存在、彼は、ものすごいハンサムなんだけど、幼い頃から色々と才能があった。霊感も強くて攻撃的な霊媒師の能力も備わっていたのを思い出した。早速、スマホで慎二にラインを送ってみたわ。


 『慎二。助けて欲しい友達がいるんだけど』

 

 『どうしたの?』と慎二からラインがきた。

 

 『友達がね、取り憑かれているみたいなの』

 

 『わかった。詳しいことは会ってから聞く。ただ、バイトで忙しいから、明後日、土曜日の夕方に美華の家に行く』

 

 『ありがとう。よろしくお願いいたします』

 

 土曜日に久しぶりに慎二が来てくれた。ステンカラーコートに、黒のセーター、リーバイス501、VANSの黒のSK8-HIを身に纏っていた。いつ見てもエレガントでノーブルでカッコいい人で、凄く優しい人。

 

 今までの事情を説明すると「一刻を争うから、すぐに会わせて欲しい」と慎二は言った。私はすぐに美希にラインを送ったわ。

 

 『わかった。今から来ても良いよ』と直ぐに美希から返事がきた。

 

 私と慎二が美希の家についたのは夕方の5時頃。美希は涙が出てくるほど変わり果てていた。私たちは泣きながら抱き合ったわ。

 

 「心配しなくて良いよ」と慎二は優しい笑顔を見せて力強く励ますように美希に言ったわ。美希はとても緊張していた。

  

 慎二は部屋の中を見回すと「なるほどね」とため息と共に呟いた。

 

 「美希ちゃん、大丈夫かな? この椅子に座ってくれるかい?」と慎二は部屋の真ん中で椅子を持って言った。美希は頷いて弱々しく立ち上がると、椅子に向かって、ゆっくり歩くと慎重に椅子に座った。

  

 慎二は両腕を横に広げて張りのある声で言った。

 

 「付きまとうのはやめにしないか。話なら俺が聞くよ」と慎二は椅子に座る美希に向かって言った。

 

 「出てこないならこっちから引っ張り出す」


 「フフ、引っ張り出せるもんか!」と美希の背後から女の声がした。すぐに、あの白い服の女の声だと分かったわ。


 「面倒くさい女はうんざりなんだ。ましてや死人に口無しのはずだろう? あんたは酷い悪霊なんだと自覚したまえ」慎二は何かを見据えていたわ。でもね、私は1度も慎二の恐ろしい形相と冷酷な眼をしたのを見たことがなかったので、激しく動揺し気持ちの余裕を失っていたわ。


 「うるさいよ」と女の霊は苛立ち気に返した。


 「お前が消えれば済むんだ。いなくなれよ」慎二は冷めきった深い声で言った

わ。ここにいる慎二は私の知っている彼ではなかったわ。 

 

 「私をバカにすると、あんたを呪うよ」女の霊はかなり慎二を警戒しているように早口で言った。


 「それは面白いね。やってみろよ! 心がブスな悪霊女」

 

 「私は男が嫌いなんだよ。嘘つきだし、人を騙すし、いつも偉そうだし、自分に対して過大評価をしすぎるし、思いやりが無さすぎる。男はバカな生き物だ。男は滅べばいいんだ」

 

 「少しは当たっているかもしれないね。確かに、この70年間、男は全然変わっていないし進歩も成長もしていないと思う。女の方がずっと成長しているし、凄まじく進化しているのは認めなきゃならない。女よりも男は弱いというのも認めるよ。今は男女で『もう一度やり直そう。最初から始めてみようぜ!』という時期なんだよ。だけど、あんたの話を聞くと男性不信みたいだな。本物の愛を知らずに恨みがましい事を言って勝手に死んだんだ。哀れだね」

 

 「なんだと?」

 

 「男を知らない女に限って怨み辛みをブチまける傾向がある。あんたは何様のつもりなんだ? こんな可愛い美希ちゃんを苦しめて取り憑いて何がしたいんだ? え? 言ってみろよ」

 

 「今時の若い女はバカなんだよ。特に生意気な女はバカだね。若いと言うだけでチヤホヤされているのも気に食わない。美希、この女の人生をメチャクチャにしてやるのが楽しいのさ。恋愛はさせないよ。男を知らないまま、呪い殺してやるからね! 男に捨てられた女の気持ちが分かってたまるか!」

 

 「あんたが男にフラれた原因はそのイカれた嫉妬深さだ。男が一番嫌う女のナンバー1だ」

 

 「なんだと!? 浮気をしたあの男が原因なんだ! あの男が悪いのになんで私のせいにするんだ?」

 

 「嘘をつくな。浮気をしていたのはお前の方だろ」

 

 「何?」

 

 「あんたはあっちこっちの男の気を引いて、好意があるフリをしてばかりいたね。自分が注目されなければ気がすまないという腹黒いタチだ。簡単に言うとアバズレで『さげまん』のくだらない女だ。男を不幸に導く女だよ」

 

 「一生呪うぞ! 死ぬまで憑くぞ!」

 

 「早くやってみろよ!」

 

 声だけしか聞こえなかった女の霊は、一瞬で姿を現すと、慎二に駆け寄り、体に入り込んだのよ。

 

 「どうだ? 苦しいだろう? しゃべれまい」と慎二の口から、突然、かん高い女の声がした。

 

 慎二は落ち着いて右手を開くと前に突き出した。  


 「出ろ!」と慎二の低い声が響き渡った。

 

 女は前のめりになって慎二の体から飛び出てきた。

 

 「な、なぜだ? なぜ体に入れないんだ?」と女は慎二を睨んで言った。

 

 この時に慎二は更に霊視を強めたようだった。私は慎二の凛々しくて、真剣で澄んだ瞳や表情が凄く頼もしくて誇らしかった。慎二には冷静な判断力があった。

 

 「結局、あんたは自分で自分の人生を逃げたんだ。散々人に迷惑をかけてね。気取ってはいても、所詮はただの馬鹿でまぬけの見本さ。生前のあんたは絶対に関わってはいけない人間のクズだ」と慎二は冷めた一瞥を女に向けて言った。

 

 「あんたが浮気をした男は5人いたね。皆、金づるが目的で付き合ったんだろ? 最初に付き合っていた男はあんたの浮気に気付いていた。あんたは盗癖もあって、彼氏や友人の財布から、かなりのお金を盗み取っていたね。それを知って嫌になった最初の男はあんたから逃げたんだ。盗んだ金であんたは薬物に手を染めていたんだろう?」と慎二は穏やかに霊視していた。

 

 「あと1分だ」と慎二は時計を見ながら女に向けて言った。


 「何の事だ?」


 「地獄に行く時間さ」


 「私は死んでいる」

 

 「正式には、あんたは、まだ成仏していない。死後、すぐに人は生まれ変われる条件を与えられる。だが、あんたは残念なことに生まれ変われない。永久にね」


 「どういうことだ?」

 

 「地獄に行けば分かる」と慎二は吐き捨てるように言ったわ。慎二は左手にフーッと息を吹き掛けてから、手のひらを地面に向けた。

 

 ざわめきがする。金属音が鳴り響く。地面から黒い両腕が飛び出てきた。女の足を掴んで引きずり込もうとしている。女は観念したのか慎二を睨んでいた。

 

 女は美希に視線を移すと「早く死ね! 早く死ね!」と美希に言って嘲るように笑い出した。


 その言葉に慎二はね、かなりキレたようで、女の首に向かって手刀で横に動かすと女は首を両手で押さえてもがき出して目が見開いていた。声が出ないようだった。口をパクつかせていた。黒い両腕が女を完全に地面に引きずり込んでいった。全てが終わった時、静寂が部屋に溢れていたわ。

 

 「美希ちゃん、よく今まで頑張ったね! 偉いよ! もう、大丈夫だから安心しておくれ。すぐに体も良くなるからね。

 じゃあ、美華、バイトがあるから帰るよ。皆によろしく。あと、『早く本を返してくれよ〜っ』と伯父さんに伝えておいてね」と言って慎二は鼻歌を歌いながらあっさりと帰って行ったわ。

 

 

 

 

 その後、美希は体調も回復して妹さんも意識が戻り、後遺症もなく無事に暮らしているよ。2人とも前向きな生活を送っていて、とても頑張っているわ!」





つづく

読んでくれてありがとうございます。またよろしくね!

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