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高瀬憲二の話

瀬都子の話の余韻に包まれる中、次は憲二が話す番です。憲二らしい話です(笑)。楽しんでくださいね!

 「皆様、ご静聴ありがとうございました。続きましては、憲二くんによろしくお願いいたします」とお辞儀をした瀬都子は、自分のヘヴィーな話で若干憔悴をしていた。


 未知なる世界の話だったが、ロマンを感じさせる物語だけども、結末がかなり恐ろしい話であった。


 「キンノタマについて何か分かれば、今後も教えて欲しいんだ。僕らも何か力になれるかもしれない」と僕は瀬都子の力になりたくて言ってみた。


 「地底に行ってみたいなぁ〜」と散々ビビっていた亜美は皆にお茶やオレンジジュースを注ぎながら言った。


 「止めておいた方が身のためです。命の保証は出来ませんからね。先程見せた写真をお忘れなく」と瀬都子は厳しい表情を浮かべて言った。


 僕達は、先ほど見たあの写真を思い出して口を閉ざしてしまった。寝れなくなりそうなほどの衝撃的な写真を見てしまったのだ。


 いつの日か写真について詳しく話せたらどんなに気が楽だろう? とは思う。しかし、これは未来永劫、話すことは許されない。僕らは友達の瀬都子の気持ちを優先したいのだった。6人だけの秘密にしたいのだ。

 

 憲二はカフェイン抜きのお茶を飲んで一息ついた後に話し始めた。

 

 「次は俺の話だけどさ、怪談……というか、不思議な話の方だな、うん。


 何て言うのかなぁ〜、ちょっと変な話に聞こえるかもしれないけどね。

 

 今から2年前の冬休みに起こった話なんだけどね。俺は、家族と場所は言えないが有名な観光地に行ったんだ。


 家族とホテルに泊まることになったんだけどね、5階にある凄く良い部屋だったんだよ。何でも揃っていて至れり尽くせりだった。


 部屋に着くなり親父が「ホテルでマッサージのサービスがあるから皆でしてもらう。どうだ? 頼んでみるか?」と言うんだよ。お袋がフロントに電話をしてくれて夜の9時頃にマッサージ師が来て貰うことになった。

  

 来るまで1時間はあるから、その間、2階のゲームコーナーで遊ぼうということになり、俺と妹の真優(まゆ)が先に行って、親父とお袋は『フロントに温泉の事で話があるから、それが終わったら合流する』ということになったんだ。

 

 ゲームコーナーは俺たち以外は誰もいなかった。

 

 車のレースのゲームをしたり、年代物の古いゲーム機があってね、お互いの風船を割るゲームが思いの外楽しかったね。名前はね……、えーと名前は何だったかな……。

 

 しばらくそのゲームを真優とプレーして楽しんでいたんだよ。

 

 「おいおい、お~いっ。すげぇ~懐かしいゲームだな。お~いっ。俺はこのゲームのプロなんだぜぇ!」と後ろからハスキーな声がしたんだ。

 

 50代くらいの黒ぶち眼鏡をかけた浴衣姿のおっさんだった。

 

 「勝負をしますか?」と俺が煽って言ったらさ、

 

 「いいよ。覚悟しとけよ」とおっさんは額の汗を右手で拭いながら言った。

 

 「真優、ちょっと席を代わってくれる?」

 

 「うん。わかったよ」と真優は言って席を立った。

 

 「俺は負けないよ。しまった!! 細かいのがないんだわ! 悪いけどもさ、後で両替して払うから立て替えてくれないかな?」とおっさんがペコペコしながら言ったんだ。

 

 「良いですよ」と俺は言って昭和57年の100円をおっさんに渡したよ。

 

 ゲームを開始した2分後にはおっさんは風船を割られて池に落下していた。

 

 「だぁん! クソッ! おかしいなぁ。もう1回だ! 次は勝つ!」とおっさんが言うので、俺は自分とおっさんのゲーム機に100円を入れて再戦をしたんだよ。

 

 おっさんは笑けてくるほどアホみたいに弱すぎだった。こちらとしては勝つのは気分が良いからさ、楽な戦いだったよ。

 

 「だぁん! チキショッ! もう1回だ!」とおっさんがムキになってゲーム機のボタンを連打しまくりながら言った。

 

 おっさんはプロ並みの弱さだった。下手すぎて苛立つほど弱すぎだった。

 

 「もう完全に頭にきたさ! 帰るから!」と言っておっさんが怒って帰ってしまった。立て替えた300円を払わないでね。

 

 「なによ! 変なおっさんだな!」と真優がプンプン怒っていたよ。

 

 俺と真優は風船のゲームには飽きたので、今度はパンチングゲームでパンチ力を計ることにしたんだ。

 

 真優は体操部だから腕の力があってパンチ力も割とあるんだよね。俺は2回とも、まあまあ142キロくらい出せた。ゲーム機だから、正確なパンチ力なのかは分からないけどもね。

 

 真優も女の子の割には90キロとか出せたから大したもんさ。もう一度、俺がパンチ力を計ろうとしたらさ、また後ろから声がしたんだよ。

 

 「おい! 俺はボクシングの元アジア世界チャンピオンだった。見せてやるぜ! 怒りのパンチをな。勝負だぁ〜!!」あの不憫なおっさんのハスキーボイスだった。

 『また懲りもせずに現れやがったな。嫌だな。邪魔くさいな』と内心思ったけどさ、仕方なく笑顔で迎え入れたよ。

 

 まったく、うんざりさ。やれやれ、と思ったね。

 

 俺がまた100円を立て替えて、おっさんと勝負をしたんだ。俺は158キロとさっきよりも安定したパンチ力だった。

 

 「ほっほ〜う。なかなかやるな。見てろ! ぶっ、ぶっ、ぶっ。よーし」とおっさんは掌に唾を掛けてから拳を作った。

 

 度肝を抜くとはこの事でさ、おっさんが殴る時のポーズがさ、体勢が内股で脇を締めすぎてナヨナヨしていたんだよ。

 

 『これは絶対に、確実に話にならんな』とすぐに俺は思ったね。

 

 「エイヤ〜ン!」


と、おっさんが変な声で気合いを入れてから目をつぶって殴ったんだ。

 

 おっさん、パンチングマシンのミットではなくて、ミットを支えている鉄の棒を目掛けて力一杯殴り付けたんだよ。

 

 「あああん、グワァ〜ん!! いちゃあ〜いっ!!(いた〜い!!)」とおっさんは殿様ガエルが崖から転落してゆくような絞り出した声で叫んだんだ。

 おっさんの右手が、使用し出してから5年目の使い慣れた野球のグローブみたいな大きさに、急激に腫れ出したんだよ。あれはマジで凄く驚いたよ。

 

 真優はしゃがんで笑いっぱなしだし、俺も腹が捩れるほど笑ったよ。

 

 「いちゃあ〜い!! いちゃあ~い!!」とおっさんは、ずっ〜と言ったまま手を押さえて入り口へ消えていったんだ。

 

 俺が立て替えた100円を返さずにね。

 

 おっさんに貸した計400円分は確かに楽しませて貰ったから、取り合えず、俺は『まあ、良いかな?』と思い始めていたんだ。

 

 しばらくすると、入り口からアライグマを大きくしたような、おばさんがドカドカと歩みながらこちらへ来たんだ。

 

 「今さぁ、主人と話したけどさ、400円ありがとうね。すみませんねぇ。口先だけの男でねぇ〜」とおばさんが400円を支払ってくれたんだ。


 「手は大丈夫ですか?」と真優がおばさんに聞いたら、


 「あまりにも酷いんで、今、救急車を呼びました」とおばさんが入り口を指差したら、おっさんが、ずっと「いちゃあ〜い!! いちゃあ〜い!!」と言って、ゼンマイが壊れたブリキロボットみたいに、ちょこまかと動き回っていたんだよ。

 

 救急車が来て乗せられて見えなくなる頃にようやく俺の両親が来たんだ。

 

 「なんだか騒がしかったみたいだが、大丈夫か? 何かあったのか?」と親父は入り口を見ながら言った。

 

 「別に何もないよ」と僕は惚けるように、はぐらかして答えた。

 

 「何もなかったよ」と真優も察知して僕に合わせて言った。

 

 

 僕達は爆笑していた。

 

 

 「そのおっさん、悲しいほどダサいね~、あはは」と亜美が笑いながら自分のお腹を叩いて言った。

 

 「痛そうですな。ムフ」と瀬都子も床を叩いて笑っていた。

 

  美華ちゃんも涙目になって声を出して笑っていた。

 

 梨香はヒーヒー言いながら「腹が割れる、腹が割れる」と笑っていた。

 

 僕は声が掠れるほど笑い声を挙げていて、涙が止まらなくなっていた。

 

 「それで、翌日の昼頃に家族とレストランで食事をしていたら、右手を綿あめ並みに包帯を巻いた不憫なおっさんが奥さんと一緒に俺の側に来たんだよ。

 

 「おい、君。昨日は完敗だったよ。君は強かった。『老兵は語らず。ただ、ふて腐れて去りゆくのみ』という言葉を君に送る。エジソンの言葉だ」とおっさんは言って去っていたんだ。

 

 「憲二、デタラメを吹き込んだ、あのバカ丸出しは誰だ?」と親父は呆れ返って僕に言った。

 

 「知らないね。人違いじゃないの」と俺は不憫なおっさんと関わった事実を消すようにして言ったんだ。

 

 俺と真優は何事もなく装おって食事を楽しんでいたらね、またもや救急車のサイレンが聞こえてきたかと思ったら、ここのホテルの前で停まったんだよ。

 

 俺と真優は何事かと思いながら外へ出たら野次馬が集まっていた。

 

 「なんだかよう、寒い冬の路面は凍っているのによう、全力で走り出したおっさんがよう、滑って転んで頭を地面にぶつけたよう」と誰かが話していた。

 

 担架に運ばれたのは、紛れもなくあのおっさんだったんだよ。ずっーーーーと「いちゃあ〜い!! いちゃあ〜い!!」と泣きながら両手で頭を押さえて言っていたよ。

 

 おっさんの頭から血が出ていたので、俺はほんの3ミリほど心配したけどね、おっさんの奥さんが、疲れ果てた顔をして僕に頭を下げるのを見ると、おっさんが無事であるというのが分かったよ」

 

 

 

 

つづく

いつもありがとう!また、よろしくお願いします。

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