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佐登瀬都子の話

梨香の怪談話の次は真面目で少しエキセントリックな女の子、佐登瀬都子の話が始まります。彼女は悪くないのです。真実を闇に葬ることが許せなかったのです。夏の夜には怪談話や不思議な話で気持ちを鋭敏にしてみるのも悪くはないのですよ。それでは、瀬都子の話をごゆっくりとお聞きください。あっ!瀬都子の話は誰にも言ってはいけませんよ。秘密厳守ですからね…。

 「私の話は以上で終りでございます。お聞きくださりどうもありがとうございました。はい、次は瀬都子の番だよ」と梨香は言って瀬都子にハイタッチをした。

 

 皆で囲むように輪になって座り怪談を行っていた。

 カサッ、ギシッ、と部屋の中で音がするたびに、皆、後ろを振り返った。全員が神経過敏になっていた。

 

 「ヒ、ヒックション!」前触れもなく、突然、亜美はクシャミをした。

 

 皆は体をビクッとさせて亜美を睨む。

 

 「ごめんよ。鼻がムズったのよん。あはははは」と亜美がティッシュを1枚取って、照れ笑いを浮かべながら鼻をかんだ。

 

 亜美の部屋にある本棚の横の壁には、滲んだ染みがあった。それが人の顔に見えて仕方がないときた。

 

 机の横の壁にも若い女性の泣き顔のように見える染みがあるし、壁の模様も笑っている顔の山姥(ヤマンバ)に見えてきた。

 何もかもが顔に見えてしまい、睨まれているような気がしてきた。

 

 薄暗いオレンジ色の豆電気が悲しみを募らせる効果を醸し出していた。

 

 瀬都子は神妙な顔つきで話し始めた。

 

 「皆さん、私は怖い話が苦手でして。自分に起こった不可解な現象が何回かはありますが、今回は、それとは別に父から聞いた話をひとつ披露したいと思います」と瀬都子は言った後、何を思ったのか立ち上がってペットボトルをマイク代わりに歌い出した。

 

 「♪ 怖いよねぇ〜怖いよねぇ〜♪ 寝れなくなる話は聞きたかねぇ〜♪ 怪談は怖いよねぇ〜怖いよねぇ〜♪ 怪談やっぱり怖いよねぇ~♪」

 

 皆は黙って聞いていた。

 

 「怖さを増幅させるための演出的な即興曲、先ほど頭に閃いたマイナー調なオリジナルのオープニング曲です」と瀬都子は手で髪を解かしながら説明した。

 

 皆は黙って聞いていた。

 

 「前置きが長くなり失礼致しました」と瀬都子は深く一礼をした後に大きく深呼吸をした。

 

 「私の父親は科学者で、どんな研究をしているのかというと、実は未確認生物や異次元や異世界についての研究なんですよ」と瀬都子は躊躇わずにハッキリと言い切った。

 

 「ちょっと! おふざけや冗談は無しだよ〜っ」と亜美は扇子を瀬都子の顔に向けて激しく扇いだ。瀬都子は顔をしかめた。

 

 「いえ、これは本当の話でして。私は父親から『研究については絶対に外に漏らしてはいけない』と厳重な注意を受けています」と瀬都子は惚けたような事を言った。

 

 「じゃあ、なんで、そんな大事な事を許可なく話すのさ?」と僕は訝りながら言った。

 巻き込まれてしまったような歯痒さも感じたが、瀬都子の指紋がついた眼鏡のレンズの奥から一途な瞳が素直な輝きを宿していた。

 

 「私だけの秘密にするには勿体無いですし、歴史的な証人、例え直接関わってはいなくても、間接的に関わる事で、真実が闇に埋もれる事がないようにする必要があると私は思うのですが皆様はいかがでしょうか?」と瀬都子は熱量のある言葉で強く言い通した。

 

 「瀬都子、分かったよ。ここにいる皆は絶対に誰にも話さないと誓うよ」と僕が言うと皆も口々に「言わないよ」と胸に手を当てて誓いのポーズをした。

 

 瀬都子は合掌をしてから頭を下げると「どうもありがとう」と小さな声で言った。

 

 「それでは話をします。先週の土曜日に父から聞いた話です。過去に父からトップシークレットの話を、私だけに20〜30回は話をしてくれました。話の中身は信じられないことばかりです。全部、教えたいけと、さすがにヤバいので口にチャック。今回話す内容は中身が無いようで、実は大ありなので御安心を。

 

 私の父は、ある方から連絡を貰いました。場所は言えませんが、地方の人里離れた山奥に住む、仮名Aさんとします。

 

 父は1か月前に、そのAさんとお会いしました。

 

 父はAさんに「話とは一体何ですか?」と聞くと、Aさんは「ある巨大な穴を通ると地底に辿り着き、地底では人間に似た生き物が暮らしている」と言うのです。「いつでも地上と地底の行き来が可能だという穴を発見した」という話が事の発端でした」

 

 皆、見守るような姿勢で話を聞いていた。

 

 「ここからが話の本題でして。Aさんが私の父親に話した内容を、そのまま教えたいと思います。ある日、Aさんは裏庭で蕎麦を食べ終えて、毎日の習慣の食後に飲むプロティンを作っている時に事件は起こりました。


 プロティンを飲んでいたら後ろから足音がしたのでAさんが振り返ると、そこには25歳くらいの若者が立っていた。


 「あのー、すいやせん、ここは何処なんですか?」と尋ねたそうです。

 

 Aさんは『急に現れて、何か変だなぁ』と思いながらもAさんは「S県のE山ですよ。何かお困りで?」と言いました。

 

 「すいやせんね、なんせ地上が初めてなもんで……」と若者が意味不明な事を言うのでAさんは警戒をしていた。

 

 「それにしても、地上は空気が不味いですねぇ〜。地底の方が爽やかで澄み渡る新鮮な空気なんですよ。地底は行ったことがありますか?」と若者が言うと、

 

 「無いですよ。あるんですか地底国のような幻の世界が?」とAさんは面白半分に聞いてみました。

 

 「ええ、あるんですよ。地底が地上を支配している事実は御存じで?」と若者が意味あり気に言うと、

  

 「はははは。知らないですよ。冗談なら、いい加減にしてくださいよ」まだこの段階ならAさんは余裕の受け答えが出来たけども、若者の不快な印象に胸騒ぎを覚え始めていた。

 

 「いや、これ本当の話」

 

 「本当の話だとしたらですよ、地底国には王様か大統領、権力者などがいるのですか?」

 

 「1つの国で成り立っていましてね、王様制なんですよ。王様の名前は「裸の王様」…、 というのは地底ジョークでしてね、ブホホ。王様の名前は金辺玉三郎(きんべ・たまさぶろう)さんと言います。

 

 地底国では国民、皆が王様を『キンノタマ』とニックネームで親しみを込めて呼んでいるんですよ。

 

 まぁ、個人的には、もっと、はしょった方が面白いニックネームになるとは思うんですがねぇ。フフッ。それはともかく。地底国名は『ガムモスポ国』と言うんです。

 

 キンノタマは純日本人で日本人初のガムモスポ国の王様なんですよ」と若者が言うと、胸ポケットから1枚の写真を取り出してAさんに見せた。

 

 写真を見たAさんによると、『キンノタマは顔の深いシワが目立つ以外、特徴はなくて肌が艶々で優しそうな丸い顔』をしていたそうです」

 

 僕達は笑いを必死に堪えてうつ向いていた。

 

 亜美は、団扇で顔を隠して体が揺れていた。

 

 梨香は歯を食い縛って太ももをつねっていた。


 憲二は、ほとんど笑いながら泣いていた。

 

 美絵ちゃんは小刻みに体を震わせて「ムフッ」と笑い声をあげた。

 

 瀬都子に悪いので、僕は神妙な顔つきを維持しつつ心の中では爆笑の嵐に揉まれていた。

  

 瀬都子は僕達にかまわず話を続けた。

 

 「若者が更にAさんに話を続けました。

 「地底国は今とても大変なんですよ。先日のある夜に、キンノタマが行方不明になってしまいましてね、ガムモスポ国が現在も騒ぎと混乱をしている状況なんですよ。

 

 家臣や家来や兵士が国中を捜索をしたがキンノタマが見つからなかったんですよ。

 

 城に戻った家来たちは、キンノタマの書斎の机の上調べると、置き手紙があった事に気づきましてね。

 失礼して、ちょっと、手紙に書かれた内容を読み上げますよ。コホン。

 

 『お盆休みです。しばらく実家に戻ります』

 

と書いてあったんですよ。ガムモスポ国ではお盆休み等はないし、誰もが、お盆休み、そのものの意味が分からず、理解できないでいた。

 

 『どうやって日本に戻ったんだろう?』とガムモスポ国の学者や科学者や賢者や占い師や長老や医者を一堂に集めましてね、話し合ったんですよ。

 

 話は少し戻して、なぜ、キンノタマが王様になれたのかなんですがね、ガムモスポ国のスカウトマンが、王様に相応しい人材を日本で探しに行った時に、偶然、公園のベンチで寝ているところのキンノタマを発見しまして、そのまま起こさずに、テレポーテーションを使って、強引に運んできたのが始まりだったんですよ。

 

 運ばれてから、2時間後に目覚めた金辺玉三郎に対して、細かい質問をした直後、再び強い催眠を掛けて眠らせて、すべての記憶を消す手術を敢えてしてみたんですよ。

 

 『手術は成功した。キンノタマの記憶、生涯における全記憶を消し去った。お盆休みだと? そんな記憶は無い! 完全に消されていて無いはずだ!』と言うのが医療関係者達の見解だったんですよ。

 

 間をおいてから、軍曹が落ち着いて話しを始めた。 

 

 『皆さん、生きの良い若い兵士が1人いる。そいつを日本に派遣して、キンノタマを確保させますよ。今すぐ行かせる事を皆さんに約束します』と話したんですよ。

 

 その生きの良い若者、兵士なんですがね、実は、俺の事なんですよ。本当に見つけるのに苦労しまして大変でしたよ」と若者はAさんに近付きながら言った。

  

 Aさんはたじろいだ。 

 

若者が「あんたがキンノタマだろう? 長い髭を生やして変装しているみたいだが、すぐに見破れたよ。手間を掛けさせやがって!」 

  

 若者が高らかに笑い声を挙げた瞬間、Aさんは持っていた護身用スプレーを若者に目掛けて掛けた。

 若者が声を挙げて驚いている隙にAさんは若者の顎を力の限り殴りつけた。

 若者はそのまま倒れると動かなくなってしまった」



 僕達は腰を浮かして息を飲んでいた。



 「Aさんがキンノタマだったんです。父は異世界の研究者では第一人者で権威のある方なんです。

 Aさんは父を頼って連絡をしたんだと思います」

 

 「それで、ど、ど、ど、どうなったの?」

と亜美が震えながら言った。

 

 「残念な事に、これ以上は話せないんですよ。ただ1つ言えるのは、父が一昨日の夜に酔っ払った時に、私に一言だけこう話したんですよ。

 

 『地底国は美しかった』と言ったんです。

 

 その後についてですが、キンノタマがどうなったのかは一切分かりません。見掛けたという情報が5件ほど父に連絡があったそうなんですが。倒れた若者については父の研究所に連れていかれて保護されている模様です。研究材料としての地底人は貴重ですからね」

 

 「本当の話なの?」と僕は夢中になって確認をした。 


 皆も瀬都子の答えを待っていた。

  

 現実に戻るには、しばしの時間が必要になる奇妙な話だった。

 

 「信じて貰えないのならば、ここに1枚の写真を持参しました」と瀬都子は言って胸ポケットから新しい写真を取り出し、皆の前に差し出した。

 

 皆は一斉に写真に顔を近付けた。僕らは息を飲んで写真を見つめていた。

 

 誰1人声を出すものはなく、荒い呼吸が部屋中に響き渡っていた。

  

 僕は写真を見て動悸がし出していた。

 

 写真を持つ瀬都子の手が小刻みに震えていた。

 

 美絵ちゃんは手で口を抑えて写真を見ていた。


 憲二は驚嘆をして何かを呟いたが声が小さくて聞き取れなかった。


 亜美は何度も顔を横に振って『信じられない』という表情を見せていた。

 

 梨香は自分の怪談話よりも瀬都子の話の方が格が上な気がして、悔しそうな顔をしていたが、瀬都子の写真を一目見ると、目を剥き出して驚きの声を出し、顔を歪めて、すぐに目を伏せてしまった。




つづく

ありがとうございました!

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