乗り越えられる
事件はこれで一件落着です!新たな気持ちを取り戻して、次回からは竣たちと夏休みを一緒に過ごす気持ちで、これからは見守ってくださいね!
進んで明るい方へ、笑顔が溢れた場所へ、幸せになるために前を向いていくこと。
警察署からの帰り道、バス停までの道すがら、誰一人声を出すものはいなかった。
駆け足で大人の世界を覗き見てしまい、踏み込んでしまったが為に、急激に心と体が大きく解離したように感じていた。
今は妙な違和感だけしかなかった。引き裂かれてしまった眩しい陽射しを見失いかけてもいた。
得体の知れない世界に迷い込んだならば、抜け出すための時間は自ずと限られてくるのだ。
出来る限り暗闇から目を背けて明るい場所へと素早く引き返して自分を取り戻さなければならない。さもなければ、深みにはまっていくだけだ。僕らはまだ幼すぎたのだ。
本来ならば知らなくて良い事を経験してしまい、容量オーバーになっているのだ。突然、目の前に大人という別世界が立ちはだかり戸惑っていた。
僕は今回の一件で、社会や大人というのは『殺伐とした重苦しい世界だな』、と感じてしまった。
なにかを諦めてしまったような息苦しさがあるように思えた。
「皆、これで一件落着だね。もう何も心配はいらないよ。皆が助けてくれたお陰で、犯人を確保したのを見届けれました。本当にどうもありがとうございました」と僕は頭を下げて皆にお礼を言った。
「竣、何も気にすることなんかないよ。友達で仲間なんだからさ。竣の腫れた頬を見たときにはカーッと頭に血がのぼったよ」と憲二は自分の頬を軽く弾いて言った。
「昨日は柔道部のメンバー全員で竣を助けたかったのに、逆に竣に助けられてしまった。竣、本当に、ごめん」と秀実は言った。柔道部の皆も悲しげに下を向いて落ち込んでいた。
「憲二も秀実も柔道部の皆も本当にありがとう。君たちがいて本当に心強かったよ。だから、変に暗くなるのはよそうよ」と僕は笑顔を見せて、明るく振る舞った。
「そう言って貰えると本当に助かるよ。竣、しばらくは1人で出歩かないで、仲間や友達と一緒に行動するようにな」と秀実は温かくて優しい声で言った。
「ああ、分かったよ」と僕は口を一文字に結んで自信を持って頷いた。
「美絵ちゃんも気を付けて出歩くんだよ。何かあったら遠慮しないで俺たちを呼んでくれよ。柔道部の皆も喜んで力を貸してくれるから。なぁ、皆、そうだろう?」と秀実は後ろを振り返って言った。
柔道部の皆は、口々に「任せてくれ、守るぜ! 美絵ちゃんのボディーガードになるよ」と言った。
「ありがとう。私と友達になってくださいね」と美絵ちゃんは涙を浮かべて微笑んでいた。
「ぜひ、ぜひ、喜んで! やったぁ〜!」と柔道部の皆は声をあげて叫んだ後に、デカイ図体をくねらせてモジモジし出した。
皆はバスに揺られて窓の外を眺めていた。
しばらくすると、それぞれの停留所で、1人、また1人と降りていく。
柔道部の皆は、僕と美絵ちゃんに手を振って別れを惜しんだ。柔道部の皆が降りていく度に「また、会おう! 夏休みは楽しもうぜ! 気をつけてなぁ、バイバイ!」と別れの挨拶をしていく。
僕は嬉しかった。今までそんなに親しくなかった柔道部の皆が今では友達だ。感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
秀実が次の停留所で降りりた。
「秀実、ありがとう」と僕は感謝の気持ちを込めて言った。
「気にするなよ。竣、今度の柔道大会を見に来てくれるかい?」と秀実は照れながら言った。
「条件を聞いてくれたなら、見に行っても良いよ」
「何だよ?」
「必ず優勝するという条件さ」と僕が言うと、秀実は興奮で鼻息を荒くしながら「わかったよ。優勝する! 約束しよう」と言って笑った。
今日という日は、友達とお互いの存在を確認し合わなければ、誰もが気力が保てない所にまで、隅の方に感情が追いやられていたと思う。
バスの停留所での別れ際の友達の顔を見る度に、皆は緊張が解けない顔をしていた。
悪を滅ぼすために戦い続ける、厳粛なまでに正義を貫く警察署という場所。滅多に行く所ではないので、皆はナーバスにならざる終えなかった。
今回の一件は皆の支えがあったので、必ず乗り越えられると僕は信じていた。
バスに乗っているのは3人だけになった。僕と美絵ちゃんと憲二だ。
お昼過ぎなのに少しも空腹は感じなかった。僕らは次の停留所で降りた。家までの距離は歩いて10分位の場所にあった。
「亜美の家に行こう」と憲二は深呼吸をしてから言った。
僕は時計を見た。時刻は午後2時30分だった。
つづく
ありがとうございました!




