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afternoon

竣たちを守るにはこれしかなかったのです。シビアであり、必然的な結末を迎えたのですから、こうするしか他はなかったと言えます。少し過激な描写がありますが、当然の報いだと受け止めてくれると有り難いです。正しいこと、前を向いていくこと、善を行うこと。希望を持つことです。

 部屋でデッサンをしていたら美絵ちゃんが「竣くん、おはよ~う」と言って部屋に入ってきた。

 

 「あっ、美絵ちゃん。おはよう。眠れたかい?」

 

 「うん。眠れたよ。昨日は楽しかったぁ。夏奈子ちゃんも真美ちゃんも可愛いし、とても良い子だねぇ。夏奈子ちゃん、あんなことがあったから、私を楽しませようと一生懸命だった。優しいね。夏奈子ちゃん」

 

 「夏奈子がその話を聞いたら泣いて喜ぶよ」

 

 「竣くん、頬っぺたは大丈夫?」

 

 「うん。まだ腫れているけどね、痛みは落ち着いてきたよ。早めに冷やしたからね」

 

 「良かった! 心配だったわ」

 

 「昨日僕が電話をして呼ばなければこんなことにはならなかったのに。僕が悪かったよ。美絵ちゃん、ごめんね」

 

 「ううん。夏奈子ちゃんや真美ちゃんと話せて楽しかった夜の方が気持ちとしては大きいよ。竣くんに助けて貰ったことに、一番感謝をしているし。それに…」と美絵ちゃんは口にして顔を赤くした。

 

 「それに?」

 

 「竣くんと一緒にいられたし」と美絵は微笑んだ。

 

 夢ではなかったのだ。手を繋いで抱きしめ合っただけだけど、添い寝だったけど、夢ではなかったんだと僕は力強く思った。

 

 「あははは」と僕は頭を掻いて照れまくった。

 

 「竣くん、絵は何処まで出来ているの?」

 

 「鉛筆デッサン画はほとんど出来たよ。これがそうなんだけど。これを元にしてキャンバスに油絵にするんだ」

 

 「上手いね! 凄いリアルだね」 

 

 「油絵にするときには、補色の対比を使って描いていくんだよ」

 

 「どういことなの?」

 

 「例えば赤いバラは補色の緑色の葉っぱがあるから際立って綺麗に見えるんだよ。これを人物画に例えると、フェルメールの《真珠の首飾りの少女》は引き立て合う色がある。服の色がオレンジだよね? ターバンが青。これが補色なんだよ。お互いに魅力的に引き立て合う色の対比。色のハーモニーみたいな感じかな? 色の対比が絵に強い印象を残すというわけさ」

 

 「なるほどね! 勉強になるけれども大変だね」

 

 「本当だね。絵はとても深いよ。小説も音楽も映画もね」

 

 スマホにラインが届く。

 

 「憲二からだ」 

 

 『竣、今晩、噂なんだけども、ある場所で幽霊が出るみたいなんだ。行かないかい? 亜美と梨香と佐登瀬都子は行くってさ』

 

 『行かん』

 

 『怖いのか?』

 

 『怖いね』

 

 『ビビり野郎を発見』

 

 『憲二、お化けはいるんだぞ! お化けをナメたらいかんよ』

 

 『何を言ってるんだよ。竣、行こうぜ。面白そうじゃん。夏だしさ』

  

 『ヤバイ事になるから、行かんよ』

 

 『ビビり』

 

 『ビビりで結構です』

 

 『20分後に皆で竣の家に遊びに行くわ』

  

 『良いよ。おいで』

 

 「美絵ちゃん、憲二たちが来るけど良いかい?」

 

 「うん楽しみだね!」

 

 20分後。

 

 「お邪魔しまぁ〜す!」と憲二、亜美、梨香、瀬都子の元気な声が玄関から聞こえてきた。

 

 皆、雪崩れ込むように僕の部屋に入ってきた。


 「おーっ、竣、スゲェーじゃんかよ。デッサン。良いじゃんかよ!」と憲二はイーゼルに近づいて言った。

 

 「わぁ〜、上手いね!」と亜美と梨香はカルトンすれすれに顔を寄せて絵を見ていた。

 

 「竣、見事な仕上がりですね。完成なんですか?」と瀬都子は頷きながら言った。

 

 「デッサンはこれで完成したよ。後はこの絵を元にして油絵を描くんだよ」と僕はカルトンからデッサン画を離して皆の前に絵を出して見せた。

 

 「おい、竣? 左の頬っぺたさぁ、なんだか腫れてない?」と亜美が僕の顔をじーっと見つめてきた。

 

 「実は、昨日、2人組の不良に殴られたんだよ」と僕は言って、皆に昨日の経緯を詳しく話した。

 

 誰もが真剣に耳を傾けて聞いていた。

 

 「警察に言った方が良いじゃないの?」と梨香は心配そうな顔をして言った。

 

 「今から警察署に行くつもりだよ」と僕はおだやかに言った。

 

 「俺も付き添うよ。今から、柔道部の佐々木秀実に連絡をする」と憲二が言いスマホで話し出した。

 

 秀実を含めた7人の柔道部のメンバーが、昨日の乱闘の証拠を収めたスマホの動画を持っているので、秀実の了解を得て、今から、部員、全員を連れて僕の家に来てくれることになった。

 

 30分後に秀実達が来た。今の時刻は午前11時02分。

 

 「よし、今から警察署に行こう」と秀実は言って僕と美絵ちゃんと憲二と秀実と柔道部のメンバー、計10人で行く事になった。

 

 取り合えず、女の子たちには、亜美の家で待ってもらう事にしてもらった。


 バスに乗って初めて行く警察署は、物々しい雰囲気をイメージしていたが、海外の映画に出てくるスタイリッシュな建物の警察署だった。

 

 入り口には、何故かたくさんの報道陣がいた。

 記者達がそれぞれに動き回っているので辺りは混雑して落ち着きがなかった。

 

 警察署には、たくさんの警察関係者の方々がいて、それぞれの仕事をこなしていた。

 

 誰1人馴れ馴れしい態度を取ることはなく、真摯なまで真剣な表情で仕事に徹していた。僕らは担当の方にすべての事情を、お話を聞いてもらった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「動画を見る限りでは、暗がりですから相手の人相が確認できない状態になっていますね。

 瀬川…竣さん、瀬川さんは相手の人相を今でもはっきりと覚えていますか?」と片岡刑事が僕に聞いた。

 精悍な顔つきの片岡刑事は27〜29歳位に見えた。スポーツマンタイプの好青年だった。

 

 「はい。はっきりと今でも憶えています。タトゥーの男は左のまぶたに傷がありました。前歯か二本抜けていました。歳は20歳位かもしれません。スカジャンの男は短髪でアゴがしゃくれていました」

 

 「うむ。人相は写真を見たら分かるかな?」

 

 「はい。確実に分かると思います」

 

 「じゃあ、この中にいるかちょっと確認をしてもらえるかな?」と片岡刑事は持っていた青いファイルを机に置いてから開いた。

 

 僕は1人ずつ丁寧に見ていった。どれもが人相が悪すぎていて、似たり寄ったりに見えた。

 

 ページを捲っていくが、中々似たような人物には当たらなかった。

 誰もが静かに僕の様子を見守っていた。

 

 「う〜ん、このファイルには残念ながら、いないみたいですね」と僕は落胆しながら言った。

 

 「ではもう1冊のファイルの確認をお願いします」ともう1冊差し出された赤いファイルを開くと先ほどとは違って、ごく普通の顔立ちをした人物の写真が並んでいた。

 

 僕はページを捲って確認をしたのだが、同じくいないようだった。

 

 「残念ですが…、いないみたいです」と僕は眉間にシワを寄せて言った。

 

 「そうですか。一応、署で動画を専門家に任せて詳しく解析をする作業をしたいと思うので、預かってもよろしいでしょうか?」と片岡刑事が言うと、柔道部のメンバー6人が一斉にスマホを片岡刑事に差し出してくれた。


 突然、署内が騒がしくなってきた。

 

 入り口付近が騒然としていた。僕らは一斉に立ち上がって騒がしい方を見た。 

 

 テレビカメラや報道陣が溢れていた。カメラのフラッシュが光っていた。僕は美絵ちゃんと顔を見合わせた。

 

 「おい! 邪魔だ! そこをどけろっ!!」とがたいの良いごっつい顔をした刑事が叫ぶと、報道陣やカメラマンが後ろへと下がっていった。

 

 後から来た同じく、がたいの良い4人の刑事に囲まれて連行された若者2人の手には銀色の手錠が掛けられていた。

 

 3人の婦警が入り口のドアをシャットアウトをすると、先程までの喧騒は嘘のように消えていった。

 

 2人の若者は下を向いてうなだれていた。血の気のない顔をしていた。僕はゆっくりと立ち上がり片岡刑事の横に行った。

 

 「うん? 瀬川さん? どうしましたか?」と片岡刑事は僕に耳を寄せて言った。

 

 「あの2人です」と僕は片岡刑事の小声で言った。


 「なに!? 瀬川さん、それは本当か? 本当なんだね」と片岡刑事の目が一段と鋭さを増していき、うなだれていた2人組の顔を睨み付けた。

 

 柔道部のメンバー全員「確かにそうです。アイツらです。間違いはありませんよ」と口々に言った。

 

 美絵ちゃんも頷いていた。

 

 「山神警部! ちょっと、話があります!」と片岡刑事は後ろの机に座っていた山神警部の元に走った。

 

 「なにぃ!? それは本当なのか?」と山神警部は机を叩いて言った。

 

 僕たちは顔を見合わせた。ドラマのワンシーンを見ているみたいで、ざわめきと興奮の中にいた。

 

 2人組の不良が通路を連行されていく時に、僕と目があった。タトゥーの男は驚いた顔をしていたが直ぐに僕から顔を背けた。

 

 皆は通路の先にある2階へ行く階段を登る2人組の姿をを黙って見送っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 後日、知ったことだが、2人組の不良が逮捕された容疑は2つあった。


 1つは婦女暴行20代の女性を羽交い締めにして持っていたバックから財布を奪った後、女性の顔を数回殴って逃走をした。

 女性は前歯を3本も折られていたという。

 

 もう1つは殺人未遂と窃盗ということだった。

 

 2人組が80代の老人を殴りつけて、老人が倒れて地面に頭を強打し意識不明の重体となっていた。

 2人組は倒れている老人から財布を奪い取ると、そのまま逃走をした。 

 幸い目撃者が複数いたために2人組の不良は御用となった。


 それプラス、片岡刑事によると、昨日の夜に僕らの身に起こった脅迫や暴力事件もあるのだから2人組の不良の罪は相当重くなるとの事だった。

 

 逮捕後の2人組の不良だが、哀れな結末を迎えて呆気ない幕切れだった。

 

 当然の報い、悪いことをすれば自分に全部が返ってくる、因果応報ということが確かに証明されたということだ。

 

 2人組が逮捕されてから3ヶ月後、スカジャンの男は同室の男との喧嘩が原因で左目を失い、背骨を折られて両足にマヒが残り、一生歩けない状態となって病院に収容された。

 

 一方のタトゥーの男は、監獄内で死亡したというニュースが全国で流れることになるのだった。

 

 タトゥーの男が亡くなった詳細、原因については何も分かっていない。

 

 

 

 

つづく

次回以降は夏の日を満喫します!楽しみに待っていてくださいね!ありがとうございました!

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