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Good morning

嵐の前の静けさ。そんな穏やかで優しい時間を僕は感じていた。僕は来週の水曜日で17歳になる。美絵ちゃんを守るためにも今日は乗り越えなければならない1日になるだろう、と思っていた。

 目覚めると美華ちゃんはいなくなっていた。寝ぼけ眼で時間を見ると午前9時20分だった。

 

 僕は昨日の事は夢かもしれないと不安になり、枕の匂いを嗅いでみた。 良かった! 美華ちゃんの匂いが残っていた。

 

 静かに扉を開けて廊下を歩き、スズ婆ちゃんの部屋を覗いてみた。美華ちゃんは知らないうちに夏奈子の元に戻っていた。

 

 美華ちゃん、夏奈子、真美ちゃんが仲良く並んだ3つの布団から寝息が聞こえていた。僕は静かに扉を閉めた。

 

 洗面所に行く途中、トイレから出てきた和雄爺ちゃんと鉢合わせた。

 

 「竣、スズ婆ちゃんが部屋に戻ってきているみたいだから気を付けろよ。扉を勝手に開けたりもするなよ。二日酔いのクセに音に敏感だから、すぐ目覚めるぞ。目が覚めた途端に絡み出すからな」と和雄爺ちゃんは僕の耳元で小さな声で言った。

 

 「わかったよ。絶対に気を付ける」と僕は力強く頷いた。

 

 「竣、スズ婆ちゃんには会うなよ。絡んだ後には、『次は迎え酒だ』とか言って、また『魔女の集い』に行くからな。とにかく、スズ婆ちゃんには会うな、起こすな、関わるな、だぞ」和雄爺ちゃんはオーケストラの指揮者並みに激しい身ぶり手振りを披露して僕に話した。

  

 「うん、わかったよ」と僕は口を固く閉じて真面目に真剣な顔をして頷いた。

 

 明日の昼頃にはスズ婆ちゃんが帰宅する予定だ。今のところB計画は順調だ。

  

 「俺はしばらく、ビートルズ研究室に入り浸る。竣よ、今日はホワイトアルバムを聞きたい気分だね。特に『ディア・プルーデンス』と『ジュリア』と『マザー・ネイチャーズ・サン』のジョンとポールの歌声とアコギに聞き惚れたい」と和雄爺ちゃんは言って新聞を手に持ち、今にもスズ婆ちゃんが自分の部屋から飛び出してこないかとビクビク恐る恐るしながら部屋の前を横切って行った。

 

 和雄爺ちゃんはビートルズ研究室に忍び足で戻っていった。


 まあ、正直に言って、スズ婆ちゃんは部屋に全然いないんだけどもね。

 

 僕は茶の間のソファーに座ってカテキンたっぷりのお茶を飲んでいた。朝のお茶は体に良いんだよ。

 

 「あっ、お兄ちゃん、おはよう」夏奈子が起きてきた。

 

 「おはようさん。昨日は楽しかったみたいだね」

 

 「楽しかったよ〜ぉ。美華ちゃん、素敵な女性だねぇ。色んな話を聞けちゃったよっ!」

 

 「例えば?」


 「おしえなぁ〜いっ♪」と夏奈子は言ってピースを出すと、笑いながら洗面所に行った。

 

 「おはようございます」と眠たそうな顔をして真美ちゃんも起きてきた。

 

 「真美ちゃん、おはよう。よく寝れたかい?」

 

 「はい、お陰さまで。昨日はうるさくなかったですか? 私たちの声が結構大きかったと思うのですが。大丈夫でしたか?」と真美ちゃんはバツが悪そうな顔をして言った。

 

 「大丈夫、大丈夫。皆、楽しそうに話していたので僕も嬉しかったですよ」と僕は言って真美ちゃんに笑いかけた。

 

 「そうですか。それなら安心しました。良かったです」と真美ちゃんはホッとして頭を下げて笑った。

 

 「いつでも良いから、また泊まりにおいでね!」と僕は言ってから冷蔵庫のメロンソーダを取り出して真美ちゃんに手渡した。

 

 「お兄さん、どうもありがとうございます! 頂きま~す」と真美ちゃんは素早い動きでペコリと頭を下げた。

 

 「どうぞ。お代わりもあるからね。リンゴジュースにオレンジジュースも。夏奈子と美華ちゃんの分も持って行ってよ」と僕はメロンソーダを3本手渡した。

 

 「はい! ありがとうございます」と真美ちゃんは喜んでメロンソーダを持って部屋に戻ろうとした。

 

 「真美ちゃん、美華ちゃんは?」と僕は後ろから声を掛けて聞いてみた。

 

 「まだ横になっていますよ」と真美ちゃんは言って、一瞬だけ、顔をスズ婆ちゃんの部屋に向けてから僕に戻した。

  

 「そう。わかったよ」

  

 「起こしますか?」

 

 「いや。せっかくの休みなんだから、そのまま寝かせておいて。僕も今から二度寝をしたい気分なんだけどさ。ふぁ~ぁっ」と僕は言って欠伸をしたので涙目になっていた。

 

 「あはははは。優しいんですね! 分かりました」と真美ちゃんは言ってメロンソーダを持ち直すと、耳を赤くして嬉しそうに頷いた。

 

 「夏休みだからね。睡眠は大切だよ。人間は寝ている時が1番幸せかもしれないよ。今から真美ちゃんも二度寝をしなさいな。あははは」

 

 「確かに、そうかも! 寝てる時は本当に幸せですよね。ウフフフ、あははは」と真美ちゃんは口を押さえて笑った。真美ちゃんは会釈をするとスズ婆ちゃんの部屋に戻って行った。

 

 僕は自分のメロンソーダを持って部屋に戻った。

 

 スマホにメールが届いた。


 うん? スズ婆ちゃんからだった。

 

 『竣、おはようさんさんさん♪ 竣、超ーっ、温泉最高〜っ! 熱気があって良いよ。活気があって良いよ。竣も、今度、連れていくからね。美華ちゃんも連れていこうね。私はこれから朝の温泉に入りま~す。写真を送るよーん♪』

 

 写真に写っていたのは3人の笑顔だった。

 

 それぞれ一人一人の腕には木彫りで作ったシーラカンスを抱えていた。

 リアルな木彫りで、大きさは30センチはありそうだった。

 

 スズ、ウメ、トメが腕の中で跳び跳ねて暴れるシーラカンスを真似して笑顔いっぱいで写っていた。

 

 メールには『竣、買っちゃった〜! 爺ちゃんには内緒だよ。値段? それを聞くのは野暮だぞ〜(笑)』とメールにあったが、写真の中で、後ろに値段の書いた看板がハッキリバッチリ写り込んでいた。

 

 「木彫りの王様、または木彫りの勇者、噂では木人拳(もくじんけん)をマスターしたとか、しないとか。伝説の木彫りの名匠・克木拓史(かつぎたくし)さんが作った生きた化石、伝説のシーラカンス! 気が気でない復活! 37000円! 限定品です! 買わなきゃそんそん(損損)。旅のお供に! 《注※このシーラカンスは食べれません》」と書いてあった。

 

 なんでまた、選んだお土産物が木彫りのシーラカンスなのかは、さっぱり意味がわからなかった。

  

 前の旅行に行った時のお土産は新刊の本だったし。 

 

 「悩んだ挙げ句、結局、これになってしまったんだよね」とスズ婆ちゃんは笑って言っていたっけ。

 

 僕は部屋の窓を開けて換気をした。雲1つない爽やかな青空。「夏の空は清々しいねぇ」と僕は呟いていた。

 

 昨日よりかは頬の痛みと足の痛みが少し収まっていた。

 

 僕は軽くストレッチをして体を解きほぐすと俊敏な動きを取り戻した気がした。

 

 夏の日は長い。

 

 『今日はどんな1日になるのだろう?』と思いながら、僕はメロンソーダを飲み干した。

 

 「竣、ちょっと、お母さんと夏奈子で『2+4』(《ニタシ》は近所にある24時間営業のスーパー)に買い物行くからね。キュウリがないのよ。キャベツも豆腐もね」と母、幸子が扉をノックと同時に開けてから言った。

 

 「行ってこようか?」

 

 「いや、良いよ。散歩がてらにお母さんが行ってくるよ」

 

 「了解。夏奈子は?」


 「トイレ。竣、何か欲しいものは?」

 

 「夏奈子が前に今月号の『ポップ』が読みたいって言っていたよ」

 

 「『ポップ』? あぁ、女性のファッション雑誌の事かい? 分かったよ。お母さんもたまに見るからね。竣の欲しいものは?」

 

 「僕はバニラのアイス買ってきてよ」

 

 「分かったよ。竣、留守番よろしくねっ!」と母は言った。

 

 「お兄さん、ありがとうございました! お邪魔しました〜!」と真美ちゃんが母の後ろから顔を覗かせて僕に言った。

 

 「真美ちゃん、また今度遊びにおいでね!」と僕は手を振りながら言った。

  

 「はぁーい!」と言い真美ちゃんも笑顔で手を振り返した。

 

 「真美ちゃん、行こうぜっ!」と母、幸子は真美の肩を組んで言った。真美ちゃんは大きく頷いた。

 2人は楽しそうに話をしながら玄関へ向かった。

 

 「夏奈子〜っ!」と母が呼んだ。

 

 「今いくよ〜ぉ♪」と夏奈子はトイレから大声で返事をした。 

 

 夏奈子は勢いよくトイレの扉を開けると、洗ったばかりの手をジーンズで拭いて摺り足気味に廊下を走った。

 

 

 

 

つづく

久々の更新です。ありがとうございました!次回はハードな内容になりますが、読者の皆様にも納得できるはずです。ケジメというか、竣たちを助けたい!一心で書きました。次回もよろしくお願いいたします!

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