君は扉を開けて優しく笑った
200話達成致しました!✨わーい✨ありがとうございます!前回は危機一髪の状況で終わりましたが、果たして瀬川竣はどうなるのでしょうか?新作です。宜しくお願い致します!
腹が減りすぎてめまいがする。もう力が出ない。
全身泥だらけになったあげくに、ここで気絶するのはリスクが高い。この場を離れて脱出するのは難しい。男が去ってくれたら幾らか気が楽にはなるが、男が豆スピンを待っているとなれば時間との勝負、耐久レース並の忍耐力が必要にもなってくる。そんなのゴメンだ。
でも、
もう、
ダメそう。
腹が減りすぎて、全然、力が出ないんだよ。
とにかくこの場から離れないと。額の出血も止まっていない。
僕は気力を振り絞ってほふく前進をした。泥だらけなので闇に紛れて逃げれる。僕は楠見オールナイト祭りの会場からはだいぶ離れているので海辺に近い位置にいた。砂浜、浜辺に向かって避難しよう。
僕は逃げた。逃げまくった。逃げて逃げて逃げられる場所まで逃げるしかないと思いながら逃げ続けて逃げた。『戦え』という心の声は聞こえてこなかった。今回ばかりは危険が高い。刺酢股源五郎には絶対に関わってはいけない領域の人間だ。呪い、悪運、恨み、陰湿、妬み、災い、悲惨、悲劇、悪魔、不幸、地獄、という全てのネガティヴが染み付いた人間だ。僕の直感が警報を鳴らしているタイプの厄介な人間だ。災いをもたらす人間は怒りを秘めている。絶対に近付くなということだ。幸いにも刺酢股源五郎に姿を見られなかったこと、僕の名前を知らない事が良かった。僅かに視線をかわすだけでも命を失う可能性もありえるのだ。今までにたくさんの強敵と戦ってきたけど、刺酢股源五郎だけは、戦ってはいけない。予想もつかない結末になってしまう。僕は逃げるが勝ちを取るしかない。
僕は必死に10分もほふく前進をした。波の音が聞こえてきた。『夏風ビーチ海水浴場』だ。僕が美華ちゃんと出逢った海もここと連なっている。ここまで来たら、もう立ち上がっても大丈夫だ。
僕はゆっくりと立ち上がった。
「わぁー、綺麗だなぁ」満天の星空を見上げて気を抜いたら、一瞬にして、そのまま砂浜に倒れてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
妙に甘ったるい匂いがした。これはココアの匂いだ。肌に感じる空気が温かい。森の中にいるような新鮮な緑と真新しい木の匂いもする。このまま眠っていたいけど、そろそろ学校に行く時間だと思う。母、幸子の喧しい声で起こされる前に目覚めた方が良いのかな? 待てよ、今日は祝日だ。起きる必要はないんだ。二度寝するには今がチャンスじゃないか。僕の部屋の鍵は閉めてある。簡単には入れない。夏奈子が無断で侵入して僕の物をパクる事は激減した。安心して二度寝しよう。僕はふかふかのベッドにうずまるようにして布団を鼻の下まで掛けた。もう悪夢は見たくないんだよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おかしいな。
休みの日でも誰かが何かをして起こしてくるのに。和雄爺ちゃんの歌声もスズ婆ちゃんの皮肉な怒鳴り声もしないぞ。変だな。ジョンとミッシェルに餌と水をやらないとな。僕は瞼を強く閉じたまま考えていた。
僕は恐る恐る目を開けてみた。
間違いなく茶色い天井が見えた。僕の部屋ではない。じゃあ、誰の部屋さ?
ココアの匂いとイチゴのショートケーキの匂いがする。良い匂いだ。僕は頭を触ってみた。ぐるぐる巻きに包帯が巻かれていた。シャツとパンツは代えられて真新しい水色のパジャマを着ていた。僕のパジャマではないね。僕は上半身を起こした。誰もいなかった。ふかふかのベッドは高級そうだった。僕はソファーに畳まれている服を見た。綺麗に洗濯された僕の服だった。本棚には文庫本がビッシリと置いてあり教養がありそうだ。本以外には特に娯楽となりそうな物は無かった。床には薄紫の絨毯が敷いてあった。買ったばかりの様で新しい匂いがした。
「すみませ~ん」と僕は呼んでみたが返事はなかった。
僕は服に着替えてパジャマを丁寧に畳んだ。
「ここは何処かな? 僕は瀬川竣」大丈夫だ。自分だと認識出来ている。記憶喪失の気はない。
足音がした。
扉が開いた。
「あら、お寝坊さん、ようやくお目覚めかい?」と見たこともない長い髪の美人なお姉さんが勢い良く現れて僕に手を振った。
僕は硬直した笑顔を浮かべて頷いた。
読みに来てくれてありがとうございました!
また次回をお楽しみに!




