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裸のままでいたい

夏バテに気を付けてくださいね✨暑いので涼しいカッコをして水分補給を忘れずに。

 「また騒がしくなるなぁ。はぁー。ちょい、皆の衆、ここに待機していてよ。見てくる」と僕は言って、とりあえず、皆を店内に留めておいて僕だけで外の様子を確認することにした。

 

 「キャー!!」とまたもや、おばさんの悲鳴が聞こえたので僕は急いだ。

 

 「あっははは。見てごらん。私の全てをじっくりと見てみごらん。全裸は世界を救う」と股間に前張りをした全裸男が、なぜか自分の名刺を前張りの隙間から出しておばさんに差し出していた。

 

 「キャー!!」とおばさんは悲鳴を上げているが目線は全裸男の前張りに注がれていた。

 

 「キャー!!」とおばさんは悲鳴を挙げながら名刺を受け取った。

 

 「あっははは。裸で生きているのが本来の人間の姿。おばさんも一緒に全裸になって反復横跳びをしませんか? 私の裸を見てください」と全裸の男は言って反復横跳びを始めた。

 

 「キャー!!」とおばさんは悲鳴を挙げながら僕に名刺を渡してきた。

 

 「なになに、もう、まったく。いらないのに」僕は嫌々名刺を読んでみた。

 

 『裸で生きてみないかい? 裸で全力疾走してみないかい? 裸で夜明けを迎えたとしても孤独な君は裸のままさ。全裸フィットネスジム『ヌードな日々』会長・預丘嵐膀(あずおからんぼう)。 只今、入会者募集中。今ならもれなく前張りとニップレスを8枚ずつプレゼント! 皆、頼む、裸で生きろ! 私の裸を見て欲しい。私の肌に触れて欲しい』と書いてあった。

 

 「あっははは。そこのヤング、君は筋がありそうだな。まずは裸になって共にダンスをしないかい?」預丘嵐膀(あずおからんぼう)は僕に近付いてきた。

 

 筋肉質な上半身はラオコーン像にソックリ。憎たらしい笑顔が気にくわなかったが素直そうには見えた。全裸を謳うわりには前張りの意味が不可解だ。本当に全裸の男と証明するならば中途半端な前張りは外してストリーキングになるべきだと思う。

 

 「しません」僕はキッパリ拒否して名刺をおばさんに返した。

 

 おばさんは「キャー!!」と言いながら名刺を何度も熟読、繰り返しの読み込みを終えて財布に入れた。興味津々らしいね。

 

 「あっははは。いっぱい人がいる中での勧誘は、はかどるね」と預丘嵐膀(あずおからんぼう)は陽気に言った。

 

 「どれくらい入会者が集まったんですか?」と僕は言った。

 

 「答える前に、ちょっと、座るよ」と預丘嵐膀(あずおからんぼう)は老舗のファンタジーの綺麗な木製の椅子に汚いケツを下ろした。

 

 「入会者はね、7名だ。比較的年配の方が多いね。あっははは」と預丘嵐膀(あずおからんぼう)はご機嫌に笑った。

 

 突然、夏の陽気な突風が駆け抜けていった。僕は目にホコリが入ったので、後ろを向いて目頭を擦りながら風を遮った。

 

 風が止むと、僕の足元に前張りが流れ落ちているのに気づいた。

 

 預丘嵐膀の前張りに間違いなかったが僕は黙っていた。本人は剥がれた事に全く気付いていない様子だった。

 

 「楽しそうだなとは思うけど、全裸は恥ずかしいから入会は難しいかな」と僕は入会希望のフリをして話してみた。

 

 僕は未知なる世界観を持つ人間を拒否したくない。学べない要素があるタイプの人間なら関わらなければ済む姿勢は維持しておきたいけどね。僕には人を選ぶ選択や権利がある。

 

 「待て待て待て。ヤングボーイ、ヤングボーイ。全裸が恥ずかしい!? なぜ恥ずかしい? 裸を見せつけたいと思わないのかい?」預丘嵐膀(あずおからんぼう)は垂直に上げた右腕の脇毛を左手で隠して僕に質問をした。

 

 「服は裸を隠すためと体を冷やさないためにあるんだよ」

 

 「ヤングボーイよ、甘いぞ。原始人は服なんて着なかったし、スニーカーやジーンズも着用しなかったんだぞ。ルーズソックスやボンタンやダッフルコートも着なかった。原始人をナメるなよ。あっはははは」

 

 「服を着ないのは原始人だからでしょうが。まったく、何を言っているんだか。独自の解釈はいらんよ」と僕は頭を掻きながらつまらなさそうに言った。

 

 「君も裸になって一緒に側転しようよ。全てをさらけ出せ! 裸を見せつけたいと思う気持ちが大事なんだよ。あっはははは」豪傑な笑い声をする預丘嵐膀(あずおからんぼう)は立ち上がろうしたのだが、驚いて大きく目を見開くと急いで座り直して、激しく貧乏ゆすりをすると額からビー玉並みの汗が出てきた。歯をガチャガチャ鳴らして顔は青ざめていた。

 

 「ど、どうしたんですか?」僕は急に様変わりした全裸男の緊迫感ある視線から反らさずに言った。

 

 「いえいえ、べ、別に、な、何でもないのです」嵐膀(らんぼう)氏は野太い声から甲高い声に変わって言った。苦笑いまで見せていた。

 

 「顔が真っ青ですよ」

 

 「元々、虚弱体質なので血液の流れが芳しくないのです。寒い、今すぐに服が欲しいのです」と極端な思考の変化も現れた嵐膀さん。

 

 「この先に古着屋さんがあるので、そこまで行ったらどうですかね?」と僕は古着屋さんがいる方向を指差した。

 

 「かなり遠いのです。あっ!! あった!!」と少し腰を浮かして僕の足元を凝視する嵐膀さん。

 

 「すみません。ちょっとこちらに来てくれませんか?」と嵐膀さんは愛想笑いをしながら穏やかに言った。ビー玉並みの汗が滝のように流れていた。もはやサウナにいるみたいに見える。

 

 僕は面倒くさいけど仕方ないから側に行くと「前張りが剥がれたので持ってきて欲しいのです。お兄さんの足元にあります。さりげなく、持ってきて欲しいのです。どうぞよろしくお願いいたします」と嵐膀さんは汗を滴しながら20秒ほど丁寧に頭を下げて言った。

 

 「裸になった方が良いと自ら主張したんだから、そのままで良いと思うよ。前張りなんか忘れちゃえ」と僕は言って前張りを拾うと破り捨てた。

 

 「あーっ! あ~ん、それは反則だしさ、僕の今後に影響を及ぼします。あ~ん。何で前張りを破るの? 私の場合、前張りがあっての全裸なんだから。前張りがないと全裸になれない」と嵐膀さんは背中を丸めて両手で股関を隠しながら言った。

 

 「僕から見た正直な感想を言います。単なる露出狂だと思います」僕は嵐膀さんの後ろを指差した。

 

 ディーン・マックィーンと4人の警備隊が馬に乗って並んでパトロールをしていた。

 

 ぐったりしたカツアゲ兄弟を警備隊の馬の後部に乗せていた。

 

 「私は決して露出狂じゃない。皆に私の裸を見せたいだけなんです。生まれたままの姿をさらけ出してしまいたいだけなんです。いつかは前張りを取りたいと願ってきましたが、今日、前張りを取るのは、まだ早い」と警備隊を見て怯えた嵐膀さんは早口で捲し立てた。

 

 「それを露出狂と言うんです」と僕は冷静に諭した。

 

 「違う。私は露出狂じゃないです。私の裸を見て相手が興奮したり目を背けて悲鳴をあげたりするのが快感なんです。皆にもっと見て欲しい、皆がもっと恥ずかしがって私の裸を見て欲しいと願いながら全裸になりたいだけなのです」と嵐膀さんは涙ぐみながら犯罪の正当性を訴えた。

 

 「だからそれを露出狂と言うんです。警備隊が来るまで動かないで居てください」僕は指笛を鳴らしてディーン・マックィーンに合図をした。

 

 ディーン・マックィーンは僕に気付くと、ゆっくりと近付いてきた。

 

 「勘弁してください。私は露出狂じゃないです。前張りという最後の砦がありますからね。相手が私の裸を見て嫌悪感を抱いたり、侮蔑の視線を浴びせ掛ければ浴びせ掛けるほど、私は世間と戦っているなぁと実感して興奮するんです」

 

 「露出狂の意見や意義が、人生において何の役にも立たなければ参考にもならないのが馬鹿らしくて面白いけども、あんた、何を言っているのか自分で分かっています?」と僕は言って嵐膀さんを無理矢理立たせようとした。

 

 「やめてください。前張りが無いんです。やめてください」と嵐膀さんは激しく抵抗した。

 

 「全裸になりたい、見せつけたいと言っていたでしょうが。警備隊や警察官に嵐膀さんの裸を見せつけましょうよ」と僕は言って力ずくで立たせてディーン・マックィーンと警備隊に向けた。

 

 「やめてください。困ります、困ります。大変だ。大変な事になっちゃった。これはマズイし、大変だわ」と嵐膀さんは矛盾なセリフを繰り返した。

 

 「キャー!! スモール!!」とおばさんは悲鳴を上げた。

 

 ディーン・マックィーンは怒りの形相で急いで嵐膀さんの背後に近付くと愛馬のジョニーから飛び下りて嵐膀さんの胴体を抱えてボディスラムをした。

 

 「グワッ、痛い!! うっううう」と嵐膀さんは仰向けに倒れてうめいた。

 

 ディーン・マックィーンは再び嵐膀さんの体を持ち上げてボディスラムをした。

 

 「痛い!! うっううう。やめて」と嵐膀さんは泣きながら哀願した。

 

 「小さい女の子や、ご婦人や、老女がいる中でな、全裸とは不届き者め。頭のイカれた露出狂め! 恥を知れ!」とディーン・マックィーンは三度目のボディスラムをした後に嵐膀さんの股間を開いて電気あんまをした。

 

 「あははははは。やめてください、やめてください、あははははは」と嵐膀さんは笑いまくっていた。

 

 ディーン・マックィーンは電気あんまを止めると、腰に付けていたガムテープを持って嵐膀さんの股間をぐるぐる巻きにした。

 

 「露出狂め! 逮捕する」とディーン・マックィーンは叫ぶと投げ縄を取り出して嵐膀さんの両手に固く結び、愛馬のジョニーの上に飛び乗った。

 

 「竣くん、御協力感謝します。竣くん、本当にいつもありがとう! ヘイ、ジョニー、行くぜ!」と言って警備隊と共に西の方角へ駆けていった。

 

 楠見オールナイト祭りにいた人々や観光客は、引きずられる嵐膀さんの無惨な姿を見て一斉に笑い声を上げていた。

 

 

 

 

つづく

ありがとうございました!

嵐膀さんは単なる露出狂なんです(笑)

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