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ピチピチギャルと戯れて

楠見オールナイト祭りに行きたいな✨

 「いやぁ~、思ったよりもDJランタは良い奴だったんだなぁ。Yちゃんの悲しみに気付いて寄り添えるなんてさ、さすがは大人だよな。Yちゃんは長年ショック状態が続いていた。そこに川山西圭介くんと出会った。Yちゃんは圭介くんをお爺ちゃんに重ねてしまい、ある種の混乱が生じて幻影が生まれた。そこから苦悩が始まった訳だな。圭介くんも可哀相な立場だったよな。Yちゃんの回復を願うばかりだね。強烈なショックを受けると心が引き裂かれるから。大変だったと思う」と僕は独り言を言いながらのんびりと歩いた。

 

 「さてさて、皆に集合のLINEを送るかな」僕は、美華ちゃん、憲二、亜美、梨香、瀬都子にLINEを送った。待ち合わせ場所は先にあるかき氷屋さんのベンチだ。

 

 「うん?」50過ぎの怪しげな男が若い男の子の腕を引っ張って人気のない所に引きずり込もうとしていた。警戒しているのか怪しげな男は周りを見ていた。

 

 僕はさりげなく跡を追う事にした。若い男の子はまだ10代だろう。

 

 怪しげな男は若い男の子の肩を叩きながら自動販売機の裏側に回り込んだ。

 

 僕は自動販売機から少し離れた草むらに身を潜めた。

 

 「おめえよう、買うのか買わねぇのか、はっきりしろよう。レアな写真なんだぜ。本人の許可なしに持ってきたレアな写真だ。俺は確かにアマチュアカメラマンだけどよう、アマチュアをナメるなよ。俺はプロ寄りのアマチュアだぞ」と怪しげな男は割と大きめな声で言った。

 

 「い、い、い、い、いらないですぅ」と男の子は震えた声で言った。

 

 「大丈夫なんだからよう、買えよう。おじさんがよう、保証するからよう」と怪しげな男は威圧的な声で言った。

 

 僕は草むらを掻き分けて怪しげな男と若い男の子の姿を確認した。

 

 怪しげな男は茶色の帽子を被っていた。丸いサングラスを掛けているので目が見えないし、この暑い中でもグレー色のマフラーを口元にまで巻いていたので全くの人相不明状態だった。

 

 怪しげな男は右手に牛乳瓶を持っていた。中見は透明な液体なので牛乳ではない。

 

 男の子は坊主頭で真面目そうな男の子だった。真っ白な無印のシャツに真っ白な短パン姿で黒いスニーカーを履いていた。

 

 「おじさんはね、大人の階段を昇るための手助けをしたいだけなんだよ。無修正なんだよ。ピチピチのギャルが無修正なんだよ」と茶帽子のおっさんは、何となく禁止事項に触れる内容を言った。

 

 「何が無修正なんですか?」と真面目そうな男の子はビビりながら言った。

 

 「無修正ノーカットのピチピチギャルが戯れていたら見たいと思わないかい?」茶帽子のおっさんは小指を突き立てて話した。

 

 「気にはなりますけれど、汚らわしい事は楠見オールナイト祭りに相応しくないです」と真面目そうな男の子は抵抗して言った。

 

 「お前さんは男だろう!? え!? 男だろうがよう! 男は女を求めるから男なんだよう!」と茶帽子のおっさんは力説した。ある意味、間違ってはいないが、間違った行いを男の子に示しているために説得力に欠けていた。

 

 「だからと言って男の子を強引に引っ張り込みピチピチギャルの無修正ノーカットやらを売り付けるのは犯罪に触れますよ」と僕は飛び出して言った。

 

 「テメェ、驚、驚か、驚かすなよう! 心臓が止まったぞ!」と茶帽のおっさんは飛び上がって驚いていた。

 

 「さあ、君、向こうに行くんだ」と僕は男の子の手を掴む茶帽のおっさんの手を払い除けて言った。

 

 「ありがとうございます。失礼します」と真面目そうな男の子は猛スピードで走り去っていった。綺麗なフォームだったので、たぶん陸上部出身だろうなと思った。

 

 「あっ、待てよう。チッ、せっかく大人の階段を昇るための基礎を教えようとしたのによう。チッ」と茶帽のおっさんは恨めしげに男の子の背中を見送った。

 

 「あっ、お兄さんが代わりに買わないかい? 透明になれる薬もあるんだよ。飲めば透明人間になって嫌な奴を殴れたりできるぜ」と茶帽のおっさんは持っていた牛乳瓶を僕に見せた。

 

 「おっさん、その透明な液体の副作用が透明人間になってしまうって事なのかい?」と僕は無関心に言った。

 

 「副作用は、ちょっと、よく分からんけどよう、透明になれるんだよう」と茶帽のおっさんは意味ありげな笑顔を浮かべた。

 

 「おっさんが飲んで透明になったら買うよ」と僕は面白半分な気持ちに変化して言った。

 

 「これは売り物だから勝手には飲めないし、ピチピチギャルの無修正ノーカットと抱き合わせ販売だから両方を買わない限りは無理な話」と茶帽のおっさんは妙な屁理屈を並べて言った。

 

 「ちゃんとした商品なら、まず見本を見せて欲しいし、証拠を出して欲しい。買うか買わないかは実物を確認しない限りは絶対に無理な話」と僕は言い返してやった。

 

 「生意気なガキめ。なかなかの御託を並べやがってよう」と茶帽のおっさんは言ってサングラスの奥の瞳が燃えていた。

 

 「チッ、しかたねぇ。ピチピチギャルが戯れている無修正ノーカットから、まず見せてやるよ」と茶帽のおっさんは言ってポケットから3枚の写真を取り出した。

 

 1枚目は生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしている茶帽のおっさんの写真。

 

 2枚目は幼稚園のグラウンドを走り回っている茶帽のおっさんと娘さんらしい人の写真。

 

 3枚目は花嫁衣装の娘さんらしい人と酔い潰れた茶帽のおっさんのツーショットの写真だった。

 

 「おっさん、この写真って!?」と僕はいささか面を食らってしまった。

 

 「俺と俺の娘だよ。ピチピチギャルが無修正ノーカットでよう、戯れていたら見たいだろう? 生まれたばかりの娘の写真は毛布に包まれているけど、オムツ無しのオールヌードだぞ。生後5日目の写真さ。可愛いだろう? 無断で写真を見せるのは固く禁止されているけど、自慢の娘で可愛いからさ、見せびらかしてやりたいのさ」茶帽のおっさんはサングラスを外して泣いていた。

 

 「可愛いよなぁー。昨日、嫁に行っちゃってさ。俺は二日酔いさ。頭を爪楊枝で刺されたみたいにガンガンする」と茶帽のおっさんは言った。なるほど、マフラーをしていた訳は酒臭い口臭を隠すためだった。

 

 「2枚目は幼稚園の運動会の写真。可愛いよなぁ~。常に1等賞的な存在の可愛い娘にはさ、俺も頑張って走ってさ、1等賞をプレゼントしたのさ。ぐおおおん、うええーん、うええーん、ああん」とおっさんは号泣していた。

 

 「3枚目は昨日の結婚式の写真。憎たらしい旦那は邪魔だから抜きにして撮った写真さ。ピチピチギャルの花嫁衣装無修正ノーカットの写真さ。綺麗だろう? うええーん」おっさんはまた泣き出してしまった。

 

 「あんな男のどこか良いんだよう!」おっさんは僕に抱きついて泣いていた。声を上げて泣いていた。

 

 「辛い。せっかく立派に育ててもだ、バカな男にやるなんてよう、本当に辛い。うええーん。娘が幼稚園の頃によう『お父さんと結婚しゅる~』と言っていたのによう。うええーん。うわ~ん。『理想のタイプはお父さんみたいな人』って言ってたのにさ。『お父さんはかっこいいよ』なんて言っていたのにね。なんで、あんなバカな男の嫁にやらなきゃならんのよ。何でなのよ。なんで? なんでなのよ? なんで? なんで? なんでなの? 昨日、結婚式を挙げたばかりで言うのもなんだけどもね、早く離婚して実家に戻ってきて欲しい。うええーん、うええーん、あはーん、あはーん、いやーん。娘よ、離婚して良いからね、離婚万歳! 離婚することで娘は幸せになれる。あんなバカな男と別れちまえよう! うええーん、いやーん、ああん」と茶帽のおっさんはしゃがみこんで泣いていた。

 

 僕は側に置いてある牛乳瓶の匂いを嗅いでみた。日本酒のような匂いがした。

 

 僕は足音を立てないで後ろ向きで静かに歩み、その場を去ろうとした。

 

 僕は耳に届く泣き声と、しゃがみこんでいるおっさんの背中を見ながら去った。

 

 



つづく

ありがとうございました!

またね!

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