男と女の未来
ありそうな話なので、今回はちょっと怖い感じの物語になるかな。どうぞお楽しみに!
簡単な挨拶を済ませた川山西圭介とYちゃんは、どちらから先に話を切り出せば良いのか迷っている様子だった。
圭介くんは落ち着きなく右足で貧乏ゆすりをしていた。テーブルが小刻みに振動していた。
スタッフが設置したスピーカーからはYちゃんの激しい鼻息が聞こえていた。DJランタも眉毛の汗を拭いながら固唾を飲んで見守っていた。
「Yちゃん、もう連絡をするのはやめて欲しいんだよ」最初に口を開いた圭介くんは目を閉じたまま早口で言った。
「雑音のせいかな? 聞こえなかった。圭介くん、悪いけどもう1回言ってくれる?」とYちゃんからの話し声はノイズもなくハッキリと明瞭に聞こえていた。
「も~う、連絡を~、しな~いで、欲しい~ん~だよ」と圭介くんは大きな声で伸びきったパンツのゴム並みにスロウリィに言った。
「おかしいな? もしも~し? 聞こえなぁーい」とYちゃんは甲高い声でビブラートさせて言った。
「ちょっと、スピーカーの調子か電波か、どっちかに不具合が出ているようですね」とDJランタは「おかしいな、おかしいな」と呟きながら何度も首を横に傾げて言った。
「圭介くんは時間は大丈夫かな?」
「大丈夫です」
「じゃあね、スタッフにセッティングし直して貰うから5分ほど待機してくれるかい?」とDJランタは言ってスタッフに右手を上げて合図をした。
「はい、分かりました」圭介は固い表情を崩さぬようにして言った。
「わたすとしてはですね、5分間の待ち惚けは辛いです。早く圭介くんにわたすの気持ちを伝えねばなりませんから」とDJランタ、川山西圭介、スタッフの動きを遮るようにYちゃんの強めの声がスピーカーから聞こえてきた。
「ちょっと、ちょっとYちゃん、ひょっとして今の私と圭介くんの会話は聞こえていたのかい!?」DJランタは少しムッとして言った。
「はい、急に音声が回復しますた。どうも御心配をお掛けしますた」とYちゃんは怪しい釈明をして詫びを入れた。
「仕切り直しといこうかな。圭介くんからYちゃんに伝えることから始めよう。それではどうぞ」DJランタは圭介に向かって指を弾いて鳴らすと、人差し指を大袈裟に向けてキューの合図を出した。
「Yちゃん、もう連絡をしないで欲しいんだよ。僕の気持ちを分かって欲しい」
「勝手な人ね。一方的な別れ話や自己中心的な考えを押し付けちゃってさ。わたすの気持ちも知らないで」
「僕の気持ちはどうなるんだい? 会うたびにYちゃんの死んだ爺ちゃんの武勇伝やら逸話を6時間も聞かされたら具合い悪くもなるさ」
「わたすの死んだ爺ちゃんに対してさ、失礼な事を言わないでよ! 圭介の軟弱で、ひ弱で情けない性格を直すために、死んだ爺ちゃんの思い出話という名の見事なエッセンスを圭介に注入する事の何がいけないのよ? 圭介を成長させる為には死んだ爺ちゃんの話が必要で必ず力になるはずなのよ。死んだ爺ちゃんを甘く見ないでよ! 今すぐに死んだ爺ちゃんに謝って!」
「なんで謝らなきゃならんの? 事実を言ったんだよ」
「今、5秒前に死んだ爺ちゃんを侮辱したじゃないのさ! わたすの死んだ爺ちゃんの墓前に向かって謝ってよ!」
「Yちゃんと喧嘩していてもだ、Yちゃんの死んだ爺ちゃんの話がメインじゃないかよ!」
「問題の本質は、圭介くんが、わたすの死んだ爺ちゃんを侮辱したからでしょう? 話の中に死んだ爺ちゃんを登場させるのは間違ってはいないわ。今ここに、わたすの死んだ爺ちゃんが居てくれたならなぁ。ああ、死んだ爺ちゃんに会いたい」
「とにかく、もう僕はYちゃんとは会いたくないし、連絡もしたくない」
「わたすは圭介くんに会いたいし、連絡をし続けたい」
「Yちゃん、分かった。これだけ言ってもダメならね、Yちゃんに逢わせたい人がいるんだよ。リカちゃ~ん、リカちゃ~ん」
会場の隅にポニーテールをしたセーラー服姿の美しい女の子がいた。女の子はワタアメを食べながら走ってきた。年齢は僕と同じ16歳くらいで、明るい印象の女の子だった。
リカちゃんは男女の凍りつくような修羅場の真っ最中に、天真爛漫でピュアな笑顔を見せていた。
年に1度あるかないかの荒波に向かってサーフィンをするような感覚で無邪気に修羅場に現れるなんて。絶対に肝が据わっている女の子に違いない。
「リカちゃん、来てもらって悪いねぇ。せっかく、ワタアメを食べていたのにね」と圭介くんは言った。さっきまで悲壮感丸出しでYちゃんと話していた顔からは一変していて、優しい笑顔が零れていた。
「ううん、大丈夫なのだぁ~」とリカちゃんはピースを圭介くんの顔の前に持ってきて言った。圭介くんは寄り目になってリカちゃんのピースマークを見ていた。
「Yちゃんに紹介したい人がいる。僕の彼女のリカちゃんだ」圭介はスマホをリカちゃんの口元に近付けた。
「初めまして。私、小波リカ(こなみりか)ちゃんです。お手柔らかによろしくね。圭介の彼女です。貴方の話は圭介から聞いていますよ~。かなりヤバイ女の子ですよね~」と小波リカちゃんはあっけらかんとした物の言い方をした。
「あんたは部外者でしょう? 口を出さないでくれる? わたすのどこがヤバイ女の子なんですか! わたすを侮辱するという事は、わたすの死んだ爺ちゃんを侮辱するという事に当たります。ああ、死んだ爺ちゃんに会いたい」
「目を覚ました方が良いですよ~。Yちゃんさんの死んだお爺ちゃんは、今のYちゃんさんを見たら、きっと凄く凄く凄~く悲しむと思うなぁ~」リカちゃんはワタアメを夢中で食べながらスマホに向かって話していた。
「えっ!? 一体、どういうことよ? なによそれ?」Yちゃんの声には明らかに動揺が伺えた。鼻息が荒くもなっていた。
「Yちゃんさんは死んだ爺ちゃんに執着し過ぎています。もう現実を見てくださいよ。いつまでも悲しみに暮れていたら、逆にお爺様が悲しむと思いますよ~」小波リカちゃんは夢中になってワタアメを食べながら言った。僕は女性特有のマルチタスク機能を目撃していた。
「貴方に何が分かるのよ! 何も知らないくせに偉そうな事を言わんといてくれる? 圭介に代わってよ。しゃしゃり出てくんなよ!」とYちゃんは威嚇も兼ねて巻き舌調で言った。
「圭介くんと私は婚約したんです。ハイスクールを卒業したら直ぐに挙式をして、真新しい小さな白い一軒家で暮らすんです」とリカちゃんは衝撃的な発言をアピールするかのように話した。
「えっ!? 婚約、結婚!?」Yちゃんは一気にトーンダウンしてしくしくと泣き始めた。
「Yちゃんさん、私達は前に進んでいます。Yちゃんさんだけが過去に留まって生きています」と小波リカちゃんは楽しそうに圭介くんと腕相撲をしながら言った。マルチタスク機能の強靭な強さを改めて感じた瞬間だった。
「私は過去に生きてなんかいない。亡くなってしまった大切な人と共に前を向いて生きているのよ。生きている人間だけが亡くなった人間を生かすように仕向けることが出来て、思い馳せれて、思い出してあげることができるのよ。忘れ去られた人間ほど悲しい事はないわ」とYちゃんは泣きながら言った。
「私の気持ちに寄り添う努力もしないで逃げることばかりを考えていた圭介の方が卑怯者よ。私の死んだ爺ちゃんを侮辱したり、嫌味を言っては根気強く更に侮蔑したりね。圭介は1度も私と向き合おうとはしなかったわ。リカさん、今に貴女も私の様に適当に扱われる女になるわよ」とYちゃんは冷たい声音を出して言った。Yちゃんとリカちゃんの修羅場はピークを迎えていた。
その言葉を聞いてリカちゃんは今までにない不安を感じたのか、何も答えることなく大人しく引き下がるとワタアメを持ってステージから離れてしまった。
「ちょっと、リカちゃん!? 何処に行くの?」と川山西圭介くんは引き留めたが去りゆくリカちゃんには届かなかった。
「圭介くん、さようなら」とYちゃんの声がスピーカーから聞こえてきた。
圭介くんは戸惑っていた。周りの雰囲気が自身に対して一気に悪者扱いに傾き始めたのを感じたからだ。
圭介くんは2人の女性の感情的な論点に不備があるのを把握していたが、圭介くんから話し掛けた場合「余計な口出しをしないで」と言われるのがオチなので言わずに黙ってYちゃんとリカちゃんの話し合いを聞いていた。
「DJランタさん、どうしたら良いでしょうか?」圭介くんは辛そうな目をして言った。
「女性の修羅場というものはね、時として女同士が理解し合うかのように徒党を組む形で終わるケースもあるのだよ」DJランタは自分にも思い当たるような口振りで話した。
「僕が悪いのでしょうか?」圭介くんは弱りきった顔をして言った。
「いやいや、冷静に考えるとね、Yちゃんの方に物事の道理の原因があるね。毎日、毎日、話の中で亡くなったお爺様が出てきたら堪らないし、さすがに嫌になるからね。Yちゃんの内面に何かしらの問題があるんだと思うよ。ちゃんとしたカウンセリングを受けるように是非勧めたいね。心のケアをしてあげたいよ」とDJランタは真剣な顔をして話した。
ボクはスマホの時計を見た。
「25分が経過したか。そろそろ皆の所に行こうかな?」僕は、まだ放送時間が残っている『DJランタの恋してモンテスキュー♪』を最後まで聞かずに踵を返した。
「誰もが皆、きっと寂しいんだ」と僕は独り言を呟いてステージを後にした。
つづく
ありがとうございました!また宜しくお願い致します。評価して頂けたら幸いです。




