温かい手のひら
最新作が出来ましたので楽しんでください。宜しくお願い致します!
「ハンサムボーイくん、お爺様は傍にいるから安心してよん。両手を広げて立ちはだかるように守っているわ」アラン萬治は感傷的なトーンの声で言うとハンカチーフで目を押さえた。
「お爺様の魂は生き続けているわ。『孫よ、悲しまないでおくれ。死は恐ろしくないのだから安心しろよ』とのメッセージも届いているわよ」とアラン萬治は大袈裟な身振りを繰り出して言った。
「お爺ちゃん」僕は目を開けっ放しにして涙を浮かべてみた。
「泣きたい時には泣きなさいよね。我慢しないで泣きなさいよね。私の胸を貸すこともできるわよん。もし、良かったら、今すぐに高ぶった気持ちを静めたければ、これがあるわよ」アラン萬治は茶色のテーブルに付いてある引き出しからエメラルドグリーン色の数珠を取り出した。
「それ、なんですか?」僕はいかにもな代物を、いかがわしく眺めた。
「宇宙のパワーが宿った神秘の数珠よ。アポロ計画で最初に月面着陸した船長の言葉を覚えていますか?」アラン萬治は数珠を高く掲げていた。
「『私にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ』だったかな?」
「そう、大体、そんなニュアンスだったわね。でね、この見事な輝きの数珠はね、アポロ59号に乗っていた船長のジェームズ・ジェリー三世が身に付けていた数珠なのよん!」とアラン萬治は立ち上がって数珠を太陽にかざした。
「貴重な数珠なんですね。何処で手に入れた物なんですか?」と僕は笑いを堪えて惚けて言った。
「お口は固い方?」とアラン萬治は口を隠して話した。
「固いです」僕は話を合わせた。
「この数珠はね、本人から頂いた物なの。欲しい?」とアラン萬治は声を小さくして言った。
「いや全然」
「1個、50万円。2個買うなら80万円と御安くなっております」
「はっ!? 何個もあるの?」
「宇宙パワーで量産型数珠になっております。ジェームズ・ジェリー三世のお墨付きのサインを小さく刻印している数珠なのよん」
「いらないです」
「あっ、そう。もったいな~い。せっかくのチャンスが台無しだわ」アラン萬治はチッと舌打ちをして数珠を茶色のテーブルの引き出しに戻した。
「これならどうかしら?」とめげずにアラン萬治は引き出しから鏡を出した。
「なんですか、その鏡は?」
「『レーの鏡』って聞いたことがあるかしら?」アラン萬治は僕に顔を近付けてヒソヒソ話をした。
「ないです」
「このレーの鏡で深夜12時にトイレの中で自分を覗くとね、亡き人や会いたい人がレーの鏡に浮かび上がるの~お」とアラン萬治は多少メルヘンチックに言った。
「じゃあ、僕のお爺ちゃんに会えるかも!?」
「ハンサムボーイ、おめでとうだしさ、御名答だわよ! レーの鏡はね、1個100万円を、只今、半額セール実施中なので50万円と御安くなっております」とアラン萬治は僕の耳元で囁くように話した。
「いらないです」と僕はキッパリとハッキリとアッサリと言った。
「あっ、そう。ふ~ん」アラン萬治は手こずっているような表情を浮かべて水晶玉に視線を移した。
「ハァー。よし、ハァー。とにかくねぇ、貴方のお爺様はあの世でも元気いっぱいだからね、悲しまないで安心しなさいよ」とアラン萬治は水晶玉に息を吹き掛けて磨きながら言った。
「毎日、お爺様の仏壇を綺麗にして、手を合わせなさいよ」アラン萬治は疲れたのか気だるそうに言った。
「あのう、本当にお爺ちゃんの霊が見えるのでしょうか?」
「何よ、疑っているの? タイムトラベラーの偉大な占い師、アラン萬治を疑うわけ?」
「疑っています」
「貴方のお爺様は霊界にいてちゃんと立派に死んでいます。間違いなく確実に御陀仏、死んでいます」
人集りにいた男が手を振って僕に近づくと僕の肩に手を置いた。
「竣、スズ婆ちゃんとはぐれたわ。何処さ行ったんだろう? いい歳こいて迷子かな? 竣、スズ婆ちゃんを見なかったかい?」と和雄爺ちゃんは辺りを心配そうに見ながら言った。
「爺ちゃん、見てないわ」と僕はアラン萬治を見ながら言った。
周りにいた人達は一斉にどよめいていた。
「アラン萬治さん、僕のお爺ちゃんです」
「ほらほら、ねっ! わたし、傍にいるって言ったじゃないのよ~。ねっ! ちゃんとお爺様は見守っているから安心してとも言ったわよね! ねっ! ねっ! ねっ!」アラン萬治は赤いパラソルを閉じて店仕舞いの支度を始めた。
「ねっ! ねっ! ねっ! ねっ!」と何回もアラン萬治は言っていた。
「800円を返してもらえますかね?」と僕は言って手を出した。
「うん」とアラン萬治は言って800円を僕に渡すと赤いパラソルを肩に担いで歩き出した。
「アラン萬治さん、ジョージ・ハリスンが作った茶色のアンチークのテーブルを忘れてます。看板もね」と僕は去り行くアラン萬治に声を掛けた。
「うん」とアラン萬治はうつ向きながら引き返して茶色のアンチークのテーブルを背中に背負って人集りに一礼をすると、ゆっくり歩き去って行った。
「あのー、看板は?」と僕は大声で呼び掛けた。
「明日取りに戻ります。そのままにしておいて。ねっ!」とアラン萬治は背を向けたまま言って寂しそうに肩を落として去って行った。
つづく
どうもありがとうございました!
また頑張って投稿します!
おやすみなさい✨




