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赤いパラソル

今日は頑張って投稿をしました。

 「んっ? なんだ? 泣き声がしないか?」と僕は立ち止まって耳を澄ませた。

 

 「確かに聞こえるね。なんだろう? あそこじゃないの?」と川崎悠平は指を差しながら歩み始めた。

 

 少し先の路上で大きな赤いパラソルが設置されているのが見えた。人集りができていた。

 

 近づくにつれて女性の泣き声と嗚咽が聞こえてきた。

 

 茶色のテーブルに向かい合うように座る男女の姿があった。男はこれまた50代半ばの男で厳粛な顔をして女性を睨んでいた。


 女性はピチピチしていて20歳くらい。女性はピンク色のハンカチーフで鼻をかんで泣いていた。テーブルの周りには30人近くの人集りがあった。

 

 僕はフンフン言いながらカレーライスを食べているおばさんに話し掛けた。

 

 「すみません。あの女性は何で泣いているんですか?」

 

 「なんだかね、痴話つーか、未練話つーか、男女のもつれまくった話つーか、そんな感じのよくある相談をしてさ、女の子が興奮してね、泣いてしまったわけよ」とおばさんはカレーライスを食べながら言った。美味しそうな匂いがする。

 

 「相談?」

 

 「そう。あのおっさん占い師みたいだけどね、スゴく胡散臭い」とカレーライスのおばさんはカレーライスに添えてある、らっきょうを食べながら言った。軽快な響きをさせて食べるらっきょうも美味しそうだ。

 

 僕は一歩下がって赤いチョークで書かれた看板を読んだ。

 

 『〈神秘の占い師、またはタイムトラベラーでもあるので、39世紀の未来からやってきた偉大な予言者、アラン萬治(アランまんじ)〉参上。・あなたの不安を取り除く事が私の使命だと思っています。30分間の相談料は800円です。1時間は2000円です。30分の延長料金は500円加算されます。私を信じなさい。絶対に嘘はつきません。もしも嘘をついた場合、針千本飲みます。私を信じなさいよ。前金なのでよろしくね!』と汚くて読みにくい字で書かれていた。

 

 字は人を表すからね。一体どんなものか少し様子を見てみようかな。

 

 「アランさん、うっ、うっ、うっ、わぁーん。嘘だと言ってちょうだいよー」 と女の子は言ってテーブルに突っ伏して泣き声をあげた。

 

 「これ、本当に本当に本当。水晶玉にも出ているから本当の話で事実です。真実です。彼は貴方を好きでも愛してもいないわよ」 とアラン萬治は水晶玉を覗き込んで言った。

 

 「信じられないし信じたくないし」女の子は右手でテーブルを強めに叩きながら言った。

 

 「ちょっと、テーブルが壊れるから止めて。叩かないでよね。このテーブルはジョージ・ハリスンが作った貴重なアンチークだから、叩くのを止めて」とアラン萬治は言った。

 

 アラン萬治はテーブルに突っ伏している女の子の頭を上げようとしたが、女の子は力ずくで拒否して突っ伏し続けていた。

 

 「チッ、しょうがないわねぇ」とアラン萬治はテーブルに置いてあるコーラを飲み干した。

 

 ジョージ・ハリスンが作ったなんて絶対に嘘だな。ペテン師野郎はいつの時代にもいる。

 

 「私、彼のことを諦めたくないし諦めようがないし諦められないんです。うわぁーん」と女の子は意地になってテーブルに突っ伏していた。

 

 「諦めも肝心よ。諦めは成長するために必要なちょっぴりほろ苦くて切ない大事なお薬なのよ。次の恋に向かうべきよ。彼は貴方を愛していないのよ。忘れなさいよ」とアラン萬治は水晶玉に手をかざして言った。

 

 「でも」

 

 「でもも芋もすももも煮物も着物もないわよ。しつこい女の子は嫌われるわよ。別れるべきよ。私の占いは的中率2000%よ。いや3000%よ。絶対に当たるの。彼は貴方を愛していない。未練タラタラなんて時間の浪費だわよ」とアラン萬治は水晶玉に念仏を唱え始めた。

 

 「ジューウコンズ、ジューウコンズ。か弱き女の子を救いたまえ。ジューウコンズ、ジューウコンズ」とアラン萬治は意味不明な念仏を唱え続けた。

 

 「あっ!」女の子は顔を上げてスマホを取り出した。

 

 「なによ! どうしたのよ?」アラン萬治は突然顔を上げた女の子に驚いて腰を上げた。

 

 「彼からのLINEだ」と女の子は顔を輝かせて言った。

 

 「出ない方が身のためよ。酷い言葉を言われたら傷つくだけよ」とアラン萬治は言って女の子のスマホを覗き込んだ。

 

 「アランさん、読みますね。『豆子(まめこ)、昨日はごめん。明日、一緒に楠見オールナイト祭りに行こう。豆子、愛しているよ。高橋貴志(たかはしたかし)より』だってばさ! わあーい!」と女の子は両手を上げてジャンプしながら喜んた。

 

 「ほらっ! 言ったじゃないの~! やっぱりね! そうだと思ったわ! 絶対に彼は豆子さんを愛していると思っていたわよ! そんなイメージがしたのよ。私の言った通りでしょ? ねっ!」とアラン萬治は自分に都合よく有利に解釈して、どさくさに紛れ込んだように豆子さんと一緒になってジャンプをし出した。

 

 「えっ!?」と豆子さんは言ってアラン萬治を不審な目で見つめた。

 

 「高橋くんは名人並みに恋の上級者なのよ。豆子さんとは絶対に上手くいく結ばれる恋なのよ! 高橋くんは豆子さんを愛しているのよ。豆子さんを永遠に愛しているのよ」とアラン萬治は誉めちぎるように嬉しい言葉を並べて豆子さんを抱きしめた。

 

 「豆子さん、良かったわね。おめでとう! 披露宴には是非とも呼んで欲しいなぁ~」とアラン萬治は豆子さんを強く抱きしめながら言った。

 

 「アランさん、ありがとうございます! アランさんのお陰です」と豆子は嬉し涙を流して言った。

 

 「泣かないでよ。私も泣いちゃう」とアラン萬治は泣きじゃくった顔をして言った。

 

 僕と悠平は首をひねってアラン萬治を見ていた。

 

 

 

 

つづく

ありがとうございました!

また明日。

おやすみなさい!

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