愛している
竣は美華への想いが大きくなりすぎて、耐えられなくなっていた。美華に会いたい。好きな人に会いたい。今回は1つのハイライトです。竣の想いを見守ってください。
「突然、メールを送ったりして迷惑だった? 亜美が教えてくれたんだ」
「ううん。大丈夫よ。凄く嬉しかったよ」
「そう。良かった」
「びっくりしちゃったけどね」
「ごめんね。美華ちゃんに会いたかったんだ」
「うん」
夕闇が空を覆い尽くしていた。星が小刻みに震えて輝いている。星は僕の逸る胸の鼓動に合わせて点滅を繰り返しているように思えてならなかった。
流れ星が落ちていくのが見えた。僕は頭の中で、満天の星空、流れ星を絵にして描くなら、最初に必要なことは、一面に暗褐色に塗った状態のキャンバスに向かって、弾力がある20号の硬い豚毛の平筆に、白色の絵具を多く含ませて浸した筆を使って、慎重に大きく横に一筋の線を描く自分をイメージしてみた。
人々の叶えられた願いを抱きながら、たった一度きりの、目も眩む強い閃光を放って流れ星は闇の中へと儚く消えていく。僕の願いは1つだけだった。
「美華ちゃんに大事な話があるんだ。聞いてくれるかい?」
「うん、わかったよ」
僕は目を閉じて深呼吸をしてから「よし!」と気合いを入れた。足が震えていた。
「美華ちゃん、僕は美華ちゃんが好きなんだ。一目見たときから好きだった。僕と付き合ってください。僕は美華ちゃんを愛しています」と僕は告白をした。僕は身体中の筋肉が吊りそうだった。
足が震えていたので、2〜3回、足を軽く地団駄をして慣らした。
脈が早鐘のように打っていた。立ち眩みが襲ってきて気が遠くなるんじゃないのかと不安になった。
僕は美華ちゃんの答えを聞くのが怖かった。
美華ちゃんは僕の傍に寄り、手を取った。慈しむように僕を見つめていた。
「竣君、本当にどうもありがとう。凄く嬉しいよ。私も竣君が大好きです。よろしくお願いします」美華は頬に濡れた涙を何度も拭いながら微笑んだ。
「あははは。お、お、お願いします」と僕は言った後、身体中の力が抜けてしまい、その場にへたりこみそうになったが、踏ん張って美華ちゃんを抱き寄せた。美華ちょっとは僕の胸の中で小さく声を出して泣いていた。
僕は周りの風景や時間がすべて止まってしまったように感じていた。
2人だけが真空に包まれて一晩中、夜空を飛び回る事が出来るような気がしていた。
何も怖くはなかった。僕は「峻、よくやった! よくやったぞ! 本当に頑張ったぞ!」と自分に声を掛けたくなった。
夢見ていた憧れの女性、美華ちゃんに愛の告白。僕は自分自身の思いを遂に果たしたのだ。
祝福のファンファーレ、愛の詩が闇夜に響き渡るような綺麗な夜だった。
「おい! ガキども! さっきから、いちゃついてんじゃねぇよ!」突然、物陰から2人組の若い男が現れた。
1人は赤いTシャツを着ていて、左腕にタトゥーが入れてあった。
年齢は20〜22歳くらい。もう1人はこの暑い熱帯夜にスカジャンを着ていた。
スカジャンの男は夜なのにサングラスをしていた。
タトゥーの男が美華ちゃんをじっと睨んでいた。
「その女をこっちによこせよ。俺の物にする」タトゥーの男はニヤニヤして言った。
スカジャンの男はケタケタ笑って拍手をしていた。
美華ちゃんは怯えて僕の背中に隠れていた。
背中を抑えている美華ちゃんの掌が震えていた。
「美華ちゃん、何も心配しなくて大丈夫だよ」僕は美華ちゃんに振り向いて言った。
「ガキ! 早くしろよ! その女をさっさと渡せ!」とタバコ臭いタトゥーの男が苛立って言った。
僕の方としては、タバコの匂いが嫌いなのでタトゥーの男に苛立っていた。
「うるせー。女くらい自分で見つけろよ。バカ」と僕はタトゥーの男に向かって言った。
「ダメだって!」美華ちゃんは首を左右に振りながら僕の腕を掴んで向こう側に行こうとした。
「なんだとクソガキ! てめぇ幾つなんだ? 礼儀を知らないのか? あ!?」とタトゥーの男が僕の服に唾を吐いて額を強く小突き頬を叩いた。
「美華ちゃん、ちょっと離れたところからスマホでこの様子を撮影して欲しいんだ。証拠になるからね」と僕は美華ちゃんに耳打ちをして言った。
美華ちゃんは素早く頷いた。
美華ちゃんはさりげなく、2メートルほど後ろに離れた。
「いい女じゃねえかよ。姉ちゃん、キスとかどうよ? 胸もデカイ。胸あるじゃんかよー。オッパイ触らしてよ。優しくするからさぁ〜、一緒にホテルに行こうよ?」とタトゥーの男が美華ちゃんに向かって大声で言った。
それを聞いた僕はお返しとばかりにタトゥーの男の頭を無言で小突き返した。
「てめぇ、この野郎! お前、上等じゃねぇか! 家に帰れなくしてやるぞ! 分かってるのか? あぁ?」とタトゥーの男が目を剥き出して言った。
「それはこっちのセリフだよ。正真正銘のカスのクズ野郎」と僕はタトゥーの男の額にデコピンをしながら言った。
「てめぇ、殺す!」とタトゥーの男が飛び掛かって殴ろうとした。
「おーい、2対1はマズイんじゃないのかなぁ?」と突然、後ろから6~7人の男の声か聞こえてきた。
クラスメートの柔道部達だった。
「よう、竣。どうしたんだよ? カツアゲにあっているのか? あーっ!! み、み、美華ちゃんがいるぅーっ! ひゃーっ! こ、こ、こんばんわー! オッス!」柔道部の佐々木秀実が言った。
彼は高2、僕の同級生だが主将でエースだった。他の部員たち全員も美華ちゃんに頭を下げていた。
美華ちゃんは屈強なクラスメートの登場に安堵の表情を浮かばせて頷いた。
「竣、手を貸そうか?」と秀実は首を回しながら言った。
「秀実、柔道大会が近いんだろう? ここで問題なんか起こしみろよ。今までの努力が全部水の泡だよ。大丈夫さ。こんな奴等、僕1人で十分さ」と僕は腕を回しながら言った。
「でも、竣、手を怪我するぜ。絵が描けなくなると困るからさ、くれぐれも気を付けてくれよ。万が一の時には俺たちに任せろよ。いいな?」と秀実は心配そうに言った。
「わかったよ。ありがとうな」と僕は秀実の胸元に軽くパンチをして言った。
「なんだよー! テメエらはよー!」とスカジャンの男が威勢よく怒鳴った。
「柔道部の皆もスマホでこの状況を撮影して欲しいんだ。念のためにだし、証拠になるからね」と僕は柔道部の皆に頼んだ。
柔道部の皆もスマホで撮影し出した。
「バカにしやがって! ブチのめしてやる!!」とスカジャンの男が言い、僕の左頬を強く殴った後に、持っていたペットボトルを投げつけた。
僕は舌先で口の中の左頬を上下に擦るように舐めていた。血の味がした。
「あーあ、やったね」と柔道部の皆は声を挙げた。
「皆、今の撮ったよね? 先に手を出しのを目撃したよね? 美華ちゃんも目撃したよね?」と僕は言った。美華ちゃんも柔道部の皆も一斉に頷いた。
「パンチってのはね、こうやるんだよ」と僕は言って、スカジャンの男の顎と頬を素早く2発殴った。スカジャンの男はよろめいてその場でパタリと倒れて動かなくなった。
「ハハハ。バカな奴等だよな。竣を誰だか分かっていないみたいだな。竣は元・ボクサーなんだせ」柔道部の皆は笑っていた。
確かに僕は小学3年生から中学3年までボクシングをしていた。大会で金メダルも獲ったこともある。
画家になることの夢を捨てきれずに、今は絵を優先している。
今後のボクシングは、機会があればの話だ。
ちなみに僕はね、28戦24勝3敗1引き分けが僕の生涯戦績だ。
「ふざけんなよ! テメー、マジで殺す!」とタトゥーの男が殴り掛かってきた。
僕は軽く避けると男に微笑みかけてからボディーを強く殴った。
男が呻き声を上げて前にうずくまった所を顎に強烈な1発を入れてから男の体を手で押した。タトゥーの男は仰向けに倒れた。
「これは正当防衛です」と僕は言ってから美華ちゃんの傍に急いで駆け寄った。
美華ちゃんは怖くて泣いていた。
「おい、竣。後の事は心配しなくていい。証拠はあるし、目撃者もいる。俺たちに任せろ。早く行け」と秀実は僕の耳元で言った。
「わかった。頼むよ」と僕は頷いた。
「峻、今度、かき氷をおごれよーっ!」と去りゆく僕に向かって秀実は笑いながら言った。
僕は手を振って答えた。
しばらく歩いて振り返ると、倒れている2人組の不良を柔道部の皆が抱き抱えて草むらに移動をさせて横たわらせると、柔道部の皆が交代で2人組の不良の、お尻に人差し指で立て続けに浣腸をし出した。
「ギャー」と2人組の不良は悲鳴を上げ続けていた。
2人組は頭を振って体を起こそうとしたが、柔道部の皆は2人組を取り押さえて浣腸を繰り返した。
僕は秀実に任せれば大丈夫だろうと思った。
「美華ちゃん、今日は僕の家においで。夏奈子が一緒なら安心だし、亜美の所でも大丈夫だからさ」と僕は美華ちゃんに優しく言った。
「うん。わかったよ。竣君、手を怪我していない? 大丈夫だった?」と美華ちゃんは僕の手を両手で握った。
「大丈夫。余裕」と僕は言ったが、正直、久し振りだから左手に違和感があった。
しかも、ものすごい違和感だ。
取り合えず、右手でなくて良かったと思いながら家まで歩いた。
僕と美華ちゃんは、どちらからも話し掛けることはなく、言葉が宙に浮かんでいた。
美華ちゃんは立ち止まった。
僕は美華ちゃんを抱き寄せて美華ちゃんの頭を撫でながら瞳を見つめていた。
「美華ちゃんはとても綺麗な瞳をしているね」
「竣くん……」
「美絵ちゃん、好きだよ」
「私も竣くんが好きだよ」
僕は美華ちゃんを強く抱きしめていた。
つづく
久々の更新でしたが、読んでくれて、どうもありがとうございました!また、頑張ります。次回も楽しみに待っていてくださいね!




