優しい友達
夏が待ち遠しいな。早く、全てが穏やかになってほしいね。
夏は命の輝きに満ちた歓喜、情熱の魂が生まれる季節。しなやかな風が薫る時にこそ喜びが膨れ上がる。待ちわびた優しい時間を求めて太陽の光を優しく受け入れたい。
春の渦巻く寂しい空が遠退いていく。
忘れ去られた涙の雪が地中に閉ざされて激しい呼吸を待ちわびる。
真新しい世界に踏み込む準備は出来ている。ざわめきはやがて静まる。機会を待てば良いだけさ。期待に胸を膨らませてね。
ささやかな悲しみに暮れながらも生きる道標を手にした幸せに目を向けようじゃないか。
僕はカフェ「キャッツ」の、星のようなスマイルを見せて僕らに手を振るアイドル的な店員に向かって手を振った。
僕は出店で溢れた道を無言で歩いていると、美華と亜美と梨香と瀬都子が揃って金魚すくいをしているのに出くわした。
僕は懐かしさのあまり不覚にも涙が出てしまった。僕だけが歳を取ったように感じた。
憲二は陽気なランナーのように駆け出していった。
「あっ、憲二、20分も行方を眩ませやがって、どこさ行ってたのよ~う?」憲二は亜美の質問に答えないで梨香の傍に行った。
「おい、無視かい! 暑いねぇ~。憲二と梨香ってできてんの?」と亜美が冷やかして言った。
「梨香、何か久しぶりに梨香を見たような気がするよ」と憲二は熱い眼差しを浮かべて梨香を見つめていた。
「憲二、何処に行っていたのよ? 20分もさ?」梨香は金魚すくいをしたくて仕方ない様子だった。
「ちょっとね。色んな経験をしたんだよ」憲二は梨香の隣に座って水槽の中の金魚を眺めた。
「美華!」と僕は手を振って駆け寄った。
「竣、私は見た」と美しさが際立つ美華は言った。
僕は久しぶりに美華の姿を見たので、よそよそしいというか、照れてしまっていた。
「何を見たのさ?」僕は美華の肩に手を置いた。懐かしい美華の温もり。僕はずっと美華に触れていたい気持ちになっていた。
「竣と憲二が一緒に緑色のテントの中に入っていく姿を見たわ」と美華が言ってくれたら、僕は全てを話そうと思っていた。結構、フェアリー・ブルーランドの記憶が心に残っているからね。悪いことはしていないけど、全てを吐き出したい衝動に駈られていた。
「カフェ「キャッツ」に入っていくのをね。私も行きたかったなぁ~」と美華はキャッツに視線を向けた。
僕はホッとした。
「お昼過ぎたら皆で行ってみようよ」と僕は提案した。
「わーい。嬉しい」と美華は僕に何度も握手をして喜んで言った。
「私も、是非、楽しみにしておりますね。カフェ「キャッツ」はどんな感じでしたかね?」瀬都子は金魚すくいをしながら言った。お椀の中には金魚が7匹も入っていた。
「瀬都子、凄いじゃないか! よく7匹も取ったね!「キャッツ」は感じの良いカフェで楽しかったよ。多少、癖があるけど愉快だったから許せる範囲の癖さ」と僕は言った。
僕は太陽の光を浴びて煌めく水面と金魚を見ていると、フランスの画家、アンリ・マティスを思い出していた。
マティスは金魚鉢を何時間でも眺めていたそうだ。
1913年に描かれた『アラブのカフェ』というマティスの絵は特に素晴らしい。
時間を忘れて、時間を捨てて、くつろいでいる男たちには顔が描かれていないけれども、リラックスした雰囲気の中で金魚鉢を見ている姿がチャーミングで微笑ましく見える。全体の配色が絶妙で見続けていると脳内がクリーミーになるほどトロけてしまう絵なんだよ。僕のお気に入りの絵の1つさ。
マティスは色彩の魔術師といわれるほど色にこだわりを持って描いていた画家なんだよ。あのピカソとは友人でもあり、最大のライバルといっても過言ではないんだよ。ゴッホも少ない配色で素晴らしい絵を描いていた。僅か4色だけで描いた「アルルの跳ね橋」は実に爽快な絵なんだよね。
「ねぇねぇ、あそこでバンジージャンプ大会をしているよ。行ってみようよ?」と亜美は言いながら走り出していた。
「おい、亜美、待てよ!」と僕も美華も走り出していた。
憲二と梨香と瀬都子は金魚すくいに夢中で亜美の声には気付いていなかった。
「憲二、バンジージャンプ大会に行くからな。後でこっちに来いよ」と僕はしゃがんでいる憲二に言った。
「了解したよ~、いってらっしゃい~」と憲二は振り向きもせずに返事した。
『やって参りました。楠見オールナイト祭りの名物大会、「第29回イカロスの失墜の如く、地面に吠えろよ! バンジージャンプ大会」の始まり始まりでぇ➰す。司会者はわたくし、宝金袋光治がお伝えいたしまぁ➰すぅ。よろちく、よろちく』小太りのローカルアナウンサーは胸元に滲む汗を拭いながら言った。
『しゃてしゃて、最初に飛ぶのは高校1年生の笹山良くんでぇす。こんちわ、良くん!』宝金アナウンサーは良くんにマイクを近付けた。
『こんにつわ。あっ、カメラがある! これって全国放送なんですか?』良くんはカメラに向かってピースをした。
『そうだよ。良くんは今までにバンジージャンプを飛んだことはあるの?』
『ないです。真夏の昼の初体験です』良くんは宝金アナウンサーに目を向けないでカメラにピースをし続けていた。
『良くん、分かったから、ちょっとピースをやめようか。人の目を見て話そうか』宝金アナウンサーは少し口元を歪めた。
『はい。分かりました。目を見て話せだなんて。家のお母さんと同じことを言っていますねぇ』と良くんは言ってピースは止めたけども、カメラ目線のままだった。
『良くん、飛ぶ自信はあるのかな?』
『全然ないんです』
『じゃあ、なんでここにいるの?』
『賞品目当てです。1位の、月に行こう! が欲しくて欲しくて』
『良くんは月には行った事があるのかい?』
『あります。お母さんと週に7回は行きます』と良くんは再びカメラに向かってピースをし出した。
「えっ!? 月だって?」と僕は美華に向かって言った。
「洋食屋の「月」の御招待券の事だよ」と美華は笑って言った。
「ああ。なるほど」と僕は言って看板を見た。
看板に『1位は洋食屋「月」の驚きの企画、5日間食べ放題無料御招待券を差し上げます!』と油性のマジックで書いてあった。
『では良くん、バンジージャンプ大会の審査は、1美しい姿で飛ぶ、2最短時間で飛ぶ、3スマイルのままで飛ぶ、です。美しさが基準ですからね。良くん、準備OKかな? それでは、よーい、どん! と言った……ら』と宝金アナウンサーが良い終わっていないのに。
「ぎゃああああー、お母さ~ん、お母さ~ん、うおーん。降ろしてよ、早く、早く、助けてよ、降ろしてよ。お母しゃ~ん、お母しゃ~ん、怖い、かなり怖いよー、お母しゃ~ん」と良くんは泣き叫びながらフライングで30メートルの高さから勝手に落下してしまった。
『良くん! 失格でぇす! 無念だね! では次の挑戦者は?』
『俺だ、俺が飛ぶ』とディーン・マックィーンは言った。
つづく
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