Tears
いよいよ今回がフェアリー・ブルーランド編の最終話になります。
「あのう、お願いがあります」リュウ・エイジ・オコットルは一歩前に出て、磨りガラスの手前20センチまで近付いた。
「それは無理だな。叶えてやれない。時間が経っている。その願いを叶えれば君はダメになる。可愛い子供のために生きよ。君の人生は子供あってのものとなったのだ。君の望みは叶えられない」まだ何もリュウ・エイジ・オコットルは言っていないのに、偉大なファンタジー・ジェントルマンは一方的に切り返した。
リュウ・エイジ・オコットルは何も言い返せなくて素直に引き下がった。
「ただし、犯人を差し出そう。明日の朝5時に君の家の庭に犯人を引き渡す。犯人は君も知っている人物だ。心当たりはあるかな?」ファンタジー・ジェントルマンは磨りガラス越しに身動きせずに言った。
「はい……」リュウ・エイジ・オコットルは目を閉じたまま頷いた。
「よし、大事な問題は片付いた。残るは、あと1つ、瀬川竣と高瀬憲二を人間の世界に戻すのみだ。2人とも良いかな? 早速、帰還の準備に取り掛かる」ファンタジー・ジェントルマンは両手を組み合わせて何かを唱え始めた。
「待ってください。聞きたいことがあります」僕は慌てて大きな声で言った。
「なんだ?」ファンタジー・ジェントルマンは静かに両手を下ろした。
「メグミムを殺害した犯人の正体は一体誰なんですか?」
「プライバシーの侵害に当たるので私の口からは言えない。だが、既に瀬川竣も高瀬憲二も犯人の正体を知っている」ファンタジー・ジェントルマンは意味ありげに言った。
「全然、分からないです。お願いですから教えてください」僕は困り果てながら言った。
「リュウ・エイジ・オコットルの祖父との会話の中で犯人の名前が挙がっている。犯行の動機は嫉妬と妬みによるものとだけ伝えておこう。リュウ・エイジ・オコットルとメグミムの結婚に怒り狂ったというのが決定的な犯行の動機だ。つまり、『かつてリュウ・エイジ・オコットルが片想いしていた女』だ。これが全ての答えだ。さあ、もう良いだろう。これ以上、リュウ・エイジ・オコットルを悲しませたくはないからな」ファンタジー・ジェントルマンは何もかもお見通しのようだった。
ようやく僕も犯人の正体が分かった。
分かりやすく言うと、今までアピールしていたのに、ある日、突然、リュウ・エイジ・オコットルの気持ちが変わり、音沙汰がなくなってしまった。
悲しいかな、リュウ・エイジ・オコットルは、タイミング悪くも、片想いしていた愛美の、女の心に火をつけていたとは気付かずに去っていったのだ。
愛美はリュウ・エイジ・オコットルの恋心に、ようやく、彼の気持ちに答えようとした矢先に去ってしまった事への絶望と失望。メグミムに怒りを向けているうちに、憎しみへと変化していったのだろう。
愛美はフェアリー・ブルーランドに何らかの方法で行けたのだと思う。ひょっとしたら、僕らと同じみかんの箱かもしれない。
これ以上、立ち入ることは出来ないと分かった今、僕と憲二は自分達の世界に戻る決心をした。
「リュウ・エイジ・オコットルさん、ソフィア、ありがとう。さようなら」と僕は涙ぐみながら言った。
「こちらこそ。ありがとう。竣くんと憲二くんのお陰だよ」とリュウ・エイジ・オコットルは笑顔を浮かべて握手を求めてきた。
「ソフィア、楽しかったよ。また何処かで会えたらいいね」僕はソフィアの頭を優しく撫でながら言った。
「うん。また会おうね。ソフィアの事を忘れないでね。寂しくなっちゃうよ~」ソフィアは鼻をすすりながら言った。
「憲二くんもありがとうね」ソフィアは憲二に抱きついた。
「うん。グスン」憲二は泣いていた。青っ鼻が出ていた。
「よし、竣と憲二よ、目を閉じて腕を胸元で組みリラックスしてくれ」ファンタジー・ジェントルマンは言った。
僕と憲二は目を閉じた。
「私が、3つ、数を数えるから、3つ目になったら、静かに目を開けてくれ」とファンタジー・ジェントルマンは言った。
「1」
「2」
「3」
僕らはゆっくりと目を開けてみた。
周りを見回すと、楠見オールナイト祭りの広場にいて、2人して立ち尽くしていた。
足と背中に力が入らない。フラフラの状態になっていた。視界が眩しく感じる。僕らは緑色のテントがあった場所に戻っていたのだ。
つづく
本当に長かったね!メグミムを殺した犯人は、137話に出ていた愛美だったのです。ようやく、フェアリー・ブルーランド編、魔法の世界編を書き終えました。読んでくれてありがとうございました!読者の皆様、僕に着いてきてくれてありがとうね!また宜しくお願い致します!
(* ^ー゜)ノ
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