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磨りガラス越しの独白

読みに来てくれてありがとうございます!✨

 3階に着くと僕が先頭を歩いた。

 

 僕は生きていたラビオムーンの不可解な姿に面を食らうと同時に決定的な評価というか、審判が下される時が迫っているのを嫌でも感じていた。


 僕らは3階に着くと静まり返った薄暗い廊下を歩いた。

 

 僕は、ただならぬ緊迫感に胃が締め付けられるように痛かった。お腹が痛い。今までお腹が痛くなるなんて事は無かったのに。

 

 僕は少し立ち止まった。早くも体中に乳酸が溜まるような気がしたので、腕や足を大きく回して柔らかくなれと念じた。束の間のストレッチで少しだけ気が楽になった。

 

 リュウ・エイジ・オコットルは汗が止まらなくて左手で何度も額を拭う。憲二はため息ばかりを繰り返して、ぶつぶつ言っていた。ソフィアは珍しくも強ばった顔をしていて無言だった。

 

 「皆、310号室だ。いいか、ノックするぞ」と僕は扉の前で言った。

 

 コンコン

 

 返事がない。

 

 僕はもう一度ノックした。

 

 コンコン

 

 やはり返事がない。

 

 ドアノブを回してみると鍵が開いていた。

 

 僕は静かに扉を開けた。

 

 部屋の真ん中に置いてある大きな磨りガラスの向こう側に、朧気に揺れて動く黒いマントを羽織った男の姿があった。男の顔は全く分からない。

 

 男の背丈は190センチはあろう、全身が発光しているように見えるのは天井にある強めの照明のせいか。

 

 マントの男は「悪いがこの状態で現状の話と今後の話を一辺にさせてもらう。君が瀬川竣くんだね。それに、リュウ・エイジ・オコットル、高瀬憲二、ソフィア」マントの男は僕らの姿が認識できるはずもないのに言った。

 

 「あなたは誰ですか?」僕は緊張がピークになっていた。

 

 「私はファンタジー・ジェントルマン。魔法の国、妖精の国、人魚の国、天使の国、聖なる国、魔術の国、女神の楽園、芸術の国、全異世界を治めている者だ」深みのある威厳に満ちた低い声が僕の鼓膜を震わせた。

 

 偉大なるファンタジー・ジェントルマンの登場に僕らはパニック気味になっていた。

 

 「こ、こ、光栄です」リュウ・エイジ・オコットルは声を震るわせて言った。

 

 「はじめましてです」ソフィアは床に膝まついていた。

 

 「よろしくお願いいたします」と憲二は頭を何度も下げて言った。

 

 「質問は話が終わってから聞く。まず、私はいない。私の姿を見なかったことにして話を聞いて欲しい。話を最後まで聞いてくれ。

 

 私は長年フェアリー・ブルーランドの秩序を乱す者に頭を悩ませ神経を使っていた。約1800年間近く駆除的な対処方法は町長や警備隊の隊長に任務を任せていた。悪意ある者の処罰の決定権は魔術界のリーダーの導師に一任を委ねていた。

 

 ゴブリン、ダークハンター、ファイアー・ギャング等がフェアリー・ブルーランドを支配しようと目論んでいた。私は数多くの警備隊の命を失ってきた事に対して深い憂慮を抱いた。私は自ら動いて鉄槌を下すことは許されない立場にいるために行動範囲は限られている。

 

 私の仕事の1つに犯罪の抑止をする決議を速やかにして書類に署名に書くことにある。しかしだ、署名だけをしても意味がない、我慢の限界、私だっていよいよブチ切れたくもなる。堪忍袋の緒が切れたらやるしかない。だが立場があるから簡単には行動にはできない。

 

 私の周りには300人の魔術師の護衛がいる。監視の目を掻い潜るのは非常に難しい。私の秘書の女の目を眩ませるのも容易い事ではない。私の母親でもないのにだ、秘書は凄くうるさいんだよ。もちろん、私の力を持ってすればいとも簡単に抜け出せる事は優しい。だがタイミングが大事だから時期を待っていた。

 

 私は今から3日前に決意をした。この手でいよいよ怒りの鉄槌を下す時がきたのだ。本来は鉄槌を下しちゃ行けない。いけないけど、やらなければ無法地帯になりかねないために私がやらざる終えないからやらなきゃならないのでやるしかない。

 

 私は皆が寝静まった3日前の深夜2時に300人の魔術師と口やかましい秘書に「グラホボラン」という深い眠りをかける魔法を唱えた。5日間は眠ってしまう魔法だ。

 

 私は黒いマントを羽織って人魚の国にある森に飛んだ。人魚の森からフェアリー・ブルーランドに行くのは近道なんだ。私は深夜3時前にフェアリー・ブルーランドに着いた。偶然にも着いた場所には1人のダークハンターがいた。ダークハンターは夜になってから活発に動く盗賊軍団だ。残念にもダークハンターの親玉ではなかったが。手下なら3秒、いや、2秒で消せる。いやいや1秒か。

 

 「お前は金がありそうだな。いくらか置いていけば見逃してやる」とダークハンターは言った。「私を誰だと思っているんだ?」と私は言った。「徘徊している寂しい男だろう? さあ金目の者を出せよ」とダークハンターは言った。私はダークハンターに息を吹き掛けた。ダークハンターは粉々に消え去ってしまった。パン粉が舞うようにね。

 

 私はフェアリー・ブルーランドを荒らし回っている鬼婆のガダリイーとゴブリンとギャッグルの情報を聞いていたので、一刻の猶予もないと判断し探すことにした。これ以上、荒らすのは許せない。

 

 私はゴブリンのボスのファイアーギャングが住む山奥を目指した。山の名前は忘れたが、すぐに見つけたファイアーギャングは爆睡をしていた。私は奴の側にいき耳元に息を吹き掛けた。ファイアーギャングは粉々になって跡形もなく消えた。片栗粉が宙を漂うようにね。

 

 約600年間もの間、ゴブリンのボスに君臨してきたファイアーギャングは、物のたった1秒で滅び去った。躊躇なく悪魔に息を吹き掛けていく私の心理とは一体どんな状態か? 正常バイアスみたいな甘っちょろい心理でなくて、完全にブチ切れていた頭に心が支配されていたのだ。

 

 総ての国を平和に統治したいがためにね。

 

 これ以上の悪事は許せない。制裁は強力にすると決断したからには徹底的にやるのが私の考え方だ。

 

 もっと早くに行動すべきだったとは思う。最高権力者には色々と悩ましい事情があるものだし、議会に意見を提出しても却下されるはずだし。議員たちは「偉大なるファンタジー・ジェントルマンの身が危険です」と言うに決まっているし。私自身も簡単に力を振りかざしたくはなかったのだよ。全ての議員が私に会える訳でもないからね。

 

 私自身の存在や姿を秘匿性にすることで、平和が保たれ守られていると感じてもらう事が何よりも大事な事なんだ。私は目立ちたがり屋のバカにはなりたくないんだ。

 

 ある王様について話そうか。王様の名前は匿名希望で宜しく頼むよ。かつて、ひたすらバカを突っ走る王様がいた。自分さえ良ければ良いと考える王様なんだ。物事の道理を全く理解出来ていない本物のバカな王様。

 

 その王様は、天下り先を優先するバカな王様でね、危機が訪れても後手後手ばかりでボンヤリしているバカな王様でね、指をくわえて状況の悪化を黙って眺めているバカな王様でもあってね、全く聞き耳を持たないバカな王様で、アッパラパーのイカれた女を妻にするバカな王様だったんだ。そのバカな王様の父親も祖父もかなり重度なバカだったのを思い出したよ。どうやらバカは遺伝するようだ。甘やかされたボンボン育ちの奴は、人の気持ちを全く理解できない者が多いんだよ。聞く耳を持たないから成長がないのも特徴だ。

 

 バカな王様は危険大だ。何故って? 国民を路頭に迷わすバカな王様だからだ。何かが欠如していて欠落していた王様の末路は暗殺という形で終わった。犯人は今も見つかっていない。今から20年前に隣国の魔法国にいた実際の王様だ。自分の権力に酔っていただけの悲惨な王様だった。悪い見本の王様として魔法国の教科書にも載っている。

 

 権力に浸かって御満悦になっている町長や隊長も危うい。奴等ほど胡散臭い連中はいないだろう? 


 緊急事態時に1番大事なのは国民の命と健康を守る事を優先する。私を信じてついて来てくれよと強く勇気づけたり説明したり毅然とした態度で力強く行動を示すことが大事なんだ。


 国民の気持ちを踏みにじるような愚かな真似は絶対にしたくないし、国民を甘くみたくはないからね。国民を幸せにするのが権力者の務めであり使命なんだよ。

 

 いよいよ我慢の限界に達したのなら、今すぐにでも行動に移すべきなんだ。恐れる必要はない。国は国民があって成り立つのだからね。国民が国を作り上げているのだからね。


 国民に遣えている立場をわきまえなければリーダーにはなれない。

 

 私は周りの制止を振り切って行動しなくてはならなかった。

 

 今、私は瀬川竣に謝るのと同時に感謝の気持ちを率直に伝えたい。

 

 宿屋ルラルに鬼婆のガダリイーと残りのゴブリンの気配を強く感じていた。ファイアーギャングがいた山奥から宿屋ルラルまでの距離的に問題があったのと、時間的な配分や計画性、自分の体調面を考慮して遠隔魔法を使う決意をした。私は早く宿屋ルラルに行かなくてならない。

 

 幸いにも人間がいると匂いで分かっていたので、人間の姿を脳裏にイマジネーションした。人間は瀬川竣と高瀬憲二の2名だと分かった。

 

 私は瀬川竣に的を絞って遠隔魔法「バアグリイ」を使用した。バアグリイは意識を乗っとる魔法だ。

 

 私は遠隔魔法を駆使しながら、なんとかフェアリー・ブルーランドに着いて急いで宿屋ルラルを目指した。

 

 瀬川竣に乗り移るとガダリイーを3階の窓から投げ飛ばした後、切り刻んでやった。ガダリイーも長年厄介な存在だったんだ。

 

 道の真ん中にうじゃうじゃとゴブリンやギャッグルどもがのさばっていて、倒れている鬼婆のガダリイーの体を心配気に揺さぶっていた。

 

 ゴブリンの正確な数は10匹ではなくて、暗闇に紛れた者を含めると20匹はいた。

 

 ゴブリンや、ギャッグルどもは薄ら笑いを浮かべてヨダレを垂らしながら私を囲みはじめた。私は両腕を開いて目を閉じると私自身のオーラによる激しい明滅を辺りに照らした後、ゴブリンとギャッグルどもは一瞬にして粉々に砕け散った。食後のゲップのようにね。側にあった街灯も破壊してしまった。

 

 魔法の言葉は何か? それは言えない。危険な魔法だからだ。素人が口にするだけでも制御不能、大変厳しい状況に陥る事になる魔法だ。

 

 私は宿屋ルラルの中に入ると息が絶えた血まみれのラビオムーンに駆け寄った。

 

 私はラビオムーンの胸に手を置くとラビオムーンの鼓動が戻り、顔の血色が良くなってきた。惨殺された悲惨な記憶を残したまま生き返らせるのは残酷だ。私はラビオムーンの頭に手をかざして一部分の記憶を消却した。強い痛みを伴う記憶は永遠に消した。

 

 ラビオムーンの意識が戻る前に私は宿屋ルラルから去らねばならなかった。

 

 私は平和的な行動をした。


 お人好しになってはいけない。お人好しは単なるマヌケだ。マヌケは自分の愚かさに目を向ける努力をしない偽善者だ。したたかな者や狡猾な者の餌食になってはいけない。では何か質問は?」磨りガラス越しの偉大なるファンタジー・ジェントルマンは落ち着いた低い声で話し続けていた。

 

 僕らは偉大なるファンタジー・ジェントルマンの圧倒的な迫力にビビってしまい汗まみれだった。

 

 

 

 

つづく

次回をお楽しみに!

また読みに来てね✨

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