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B作戦

スズ婆ちゃんは無事に湯布院の温泉宿に到着した模様。夏奈子はバントの練習で午後22時に帰宅予定。夕食は美味かったよ。B作戦計画。油断をしてはならないのだ。美華ちゃんに会いたい気持ちが募る土曜日の夜。亜美の協力もあり、なんとか、コミューニケーションの手段を獲得した。土曜日の夜の空気や雰囲気は、膨らんだような空間感があるんだよね。それがとても幸せに感じるんだけどさ。

 和雄爺ちゃんが僕の部屋の扉を開けて覗き込むように


 「おい、竣、スズ婆ちゃんは見掛けていないが何処に行ったんだ? 用事があるんだけどよ」と言った。


 土曜日午後17時。昼寝を終えた僕は部屋で本を読んでいた。急遽B作戦計画実効開始。


 「コンビニに行ったよ」と僕は本を読みながら言った。


 「そうか、わかったよ」と和雄爺ちゃんは言った後、扉を閉めて自分の部屋へと戻っていった。


 和雄爺ちゃんの部屋からは微かにビートルズの『アンド・アイ・ラヴ・ハー』が聞こえてきた。


 夏奈子が来た。


 「お兄ちゃん、今から友香たちとバンドの練習に行ってくるからね」とギターケースを肩に背負って、右手にはVOXのアンプを持っていた。

 

 背中には小さなリュックサックを背負っている。

 楽譜、アルトベンリ、ピック、替えの弦、カポタストなどなど、その他、必要な物が入っていた。


 「わかったよ。夏奈子、気を付けるんだよ」


 「はぁ〜い!!」と夏奈子は言った。夏奈子は爺ちゃんの部屋の前を通り過ぎようとした時、和雄爺ちゃんが顔を出した。


 「夏奈子、スズ婆ちゃんを見たか?」


 「コンビニに行ったよ」

 

 「やっぱりそうなのか。コンビニかぁ。遅いな」

 

 「また、ウメさんやトメさん達と駄弁っているんでしょ」

 

 「そうだな」

 

 夏奈子はそそくさとその場を離れていった。

 

 午後19時。夕食はすき焼きだった。

 

 僕とお母さんと爺ちゃんだけの夕食。爺ちゃんは落ち着かないでいた。何度も腕時計を見ながら言った。

 

 「スズの奴、遅いなぁ」とかなり苛立ち気味だ。

 

 「ウメさんの所にいますよ。ウメさんと夕食を食べるみたいだよ。話しに夢中になっているのよ」と母、幸子は澄まし顔で言った。

 

 「なんだ、そうだったのか。それならいつもの事だな」と和雄爺ちゃんは、ようやく安堵をしたようだ。

 

 『B計画作戦』とは、幻を追わせて錯覚を与えるという作戦だ。

 

 つまり『実際には居ないが、居ないのを、居るように思わせたら、居るような感じになってきて、居たよなぁ? 居るはずだよな? と願いつつ、居るのよね? と疑う中でも確信をしてきて、あれ!? さっき居て、そこで見たよ? 確かに見たよな!? という幻想を与える』という綱渡りな作戦なのだった。

 家族の協力なくしては出来ない極秘作戦である。

 

 「美味いな。タレが染み込んでいるよな。すき焼きは美味いなぁ」と和雄爺ちゃんは野球中継を見ながら言った。

 

 僕とお母さんは顔を見合わせてウインクを交わす。

 

 「なんでそこで盗塁をするんだよ! 走らすな! バカ垂れ! あの選手はザリガニより遅いのが分かっているくせに監督が盗塁のサインを出しやがった。このチームの監督ダメだな! 俺の方が指導力や采配が、あのヘボ監督より数段上だよ! なぁ、スズ婆ちゃん?」と同意を求めて振り返ったがスズ婆ちゃんは湯布院にいる。

 

 毎回の事だけども、和雄爺ちゃんは野球中継のテレビによく怒鳴っていた。

 

 母、幸子は手で口元を隠して爪楊枝を使った。歯に詰まったものが取りずらいようだ。僕はすき焼きのタレをご飯に掛けた。

 

 「ちょっと!! 竣、掛け過ぎよ。やめなさい!」と口元を隠したままの、母、幸子に怒られた。

  

 「美味いんだぜ。お母さんもやってみなよ」

 

 「ごはんの上に肉を乗せて食べりゃ、タレも付いてくるでしょ。よそ様の家で、そんな行儀の悪いことしたらお母さんは許さないよ!」と言ったのに、お母さんも試しにと、タレをご飯に掛けた。

 

 「あら!? 味に深みがあって美味しいじゃない!竣、美味しいねぇ」とさっきと打って変わった答えを言った。

 

 「はしたないなぁ。お母さん、よそ様でそんな品のない事をしたら、あんたの息子は許さないよ!」と僕は言い返した。

 

 「竣、生意気なんだよ! しませんよーだ!」と母、幸子は言って、お互いに笑った。

 

 午後20時30分。食べ終えてそれぞれ自分の時間に戻っていく。

 

 僕はベッドに横たわり、美華ちゃんのことを考える。

 

 胸が痛い。美華ちゃんに会いたい。美華ちゃんに会いたい。僕はスマホで亜美にラインを送った。

 

 『亜美、美華ちゃんの教アドレスかラインを教えてよ』

 

 『良いよ〜。ほいっ!』

 

 僕は直ぐ様、美華ちゃんにラインを送る。

 

 『美華ちゃん、亜美に教えてもらったよ。美華ちゃんに会いたい!』

 

 しばらく待つが返信がない。これは早まったか。僕は目の前が真っ暗になりそうだった。スマホを見るが返信はない。僕は「アホ」と言って自分の頬を強く叩いてしまった。チカチカするのは星が飛んだからだ。頬が痛い。じりじり・じりりりん、と痺れるような痛みが出て僕は少し泣いていた。

 

 スマホには返信がなかった。時刻は午後21時。諦めかけたその時。

 

 コォン、コォン、と窓に小石が当たる音がした。

 

 僕はカーテンを開けて下を見た。

 

 美華ちゃんが笑って手を振っていた。 


 僕は泣きそうな顔で美華ちゃんに微笑み返した。

 

 僕は急いで玄関に向かう途中、和雄爺ちゃんに会ってしまった。ヤバい。

 

 「竣、スズ婆ちゃんは遅いなぁ。何処だよ?」と聞いてきた。それどころではなかったが、B計画は進行しているのだ。

 

 「ウメ婆ちゃんの家に泊まるってさ。さっき、スナックに行ったみたいだよ」と僕は鼻を膨らませて言った。

 

 鼻を膨らませるのは嘘を言った時に出る人間の本能らしい。

 

 「酔っぱらいめ。チッ。また面倒くさくなるなぁ。竣、スズ婆ちゃんに絡まれるから絶対に会わないようにしろよ。爺ちゃんは、一先ず、ビートルズ研究室に避難する。チッ。また酔っぱらうのかよ〜。うるさいし、しつこくなるんだよなぁ。嫌だなぁ」と和雄爺ちゃんは露骨に嫌な顔をして研究室?(ただの部屋だけどね)に戻った。

 

 僕は急いで玄関を開けた。

  

 僕は美華ちゃんに手を振った。美華ちゃんはクリムトの絵から出てきた美女に見えた。

 

 「ラインは見たかい?」

 

 「うん。ありがとう。嬉しかったよぅ」

 

 「来てくれて嬉しいよ。こちらこそありがとう」

 

 「うん」

 

 「美華ちゃん、コンビニまで散歩しようか?」

 

 「うん。良いよ」

 

 

 

 

つづく

読んでくれてありがとうございます!読者の皆様に心からの感謝をいたします。ありがとう!また、頑張って書くので読んでくださいね!

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