黒いマントの男2
ソフィアは僕たちの傍に来てニコニコしながら座った。
「ねえねえ竣くん、倒した奴らはね、ゴブリンというよりね、まあゴブリンの血も少し混じっているから遠からずだけども、『ギャッグル』(群れを作って狩りを好む魔物の一種。獰猛で執着が強い性格、身長が高くて全身が毛で覆われている。山岳地域に生息)なんだわ。多分、鬼婆に飼い慣らされたんだろうね」
「ギャッグル?」憲二はまだギャッグルの臭いが残っている気がして掌の匂いを嗅いだ。
「うん。ギャッグルはゴブリンと同様に面倒くさい奴等で単細胞なんだわ。駆除しないといけない」ソフィアは少し宙に浮かんでいた。
「ソフィア、表にいた、『黒いマントの男』について知りたい」僕は声を落として言った。
「私も知りたい」ソフィアはゆっくりと着地して床に座り直した。
「ソフィア、『黒いマントの男』の顔は見えたか? 残念ながら僕は見えなかったんだよ。3階を見上げていたけども、フードを被っていたからな。外灯も薄暗いしさ」僕はあの悪魔的な佇まいに恐怖感を抱いたので男の顔を確認せずに、すぐにしゃがみ込み、見れなかった。
「私もハッキリとは顔を見ていない。一瞬だけ笑顔を浮かべたような気がするけどもね」ソフィアは魔法の杖を羽根の間に隠して話した。
「『黒いマントの男』は、今、どんな様子か分かるか?」リュウ・エイジ・オコットルは辺りを警戒して神経質な顔をして言った。
「分かったわ。見てみるわね」ソフィアは窓に行って地上を見下ろした。
「あ~っ! あ~っ! 居なくなっているわよ!」ソフィアは僕に手招きをして呼び寄せた。
「本当だ。鬼婆も10匹のギャッグルの姿も消えている!」僕は自分の目が信じられなかった。あれだけの巨体を一瞬にして消すなど到底不可能だ。余程の力を持つ者でないと出来やしない。憲二もリュウ・エイジ・オコットルも窓際に来て地面を見ていた。
「竣くん、なんかさ、ヤバい感じするよね。ちょっとコレ恐くね?」さすがに気の強いソフィアも引いていた。
「一体、どこに消えたんだよ?」僕は頭をフル回転させた。
ソフィアと馴れ馴れしくコミュニケーションをしたのなら友好的な感じがするが、人当たりをよく見せてから豹変する奴もいる。初対面の人間に対して最初は低姿勢で礼儀正しく、よそよそしい振る舞いを見せるが、慣れてくると束縛が激しくなる輩もいたりする。どちらも共通していて似たタイプだ。黒いマントを着た男はハンターなのかもしれない。
『黒いマントの男』は、なぜ現れてギャッグルを倒してくれたのだろう?
3回も光を放ってから一気にギャッグルを倒す過程があまりにも素早い。3回の光も気になる所だ。光り方に何か意図が隠されている気がする。
たぶん……、
おそらく……、
『黒いマントの男』は、
今頃、
この宿屋ルラルに、
忍び込んでいるんじゃないのか!?
僕の心臓が早くなってきた。
ドンドンドン!!!!!
ダンダンダン!!!!!
310号室、リュウ・エイジ・オコットルの部屋の
壊れたドアと壁を強く叩く音がした。
僕たちは今までにない緊張感で軽くパニック状態になり、体を寄せ合わせてドアを見つめていた。
壊れたドアを開けずに手だけを見せると手招きをしたり、執拗にドアを叩き続ける者の不気味さはホラーを越えていた。体は見えているのだが顔を見せようとはしなかった。
「竣くん、憲二くん、リュウ・エイジ・オコットル、ちょっとマジでどうするの? 今から急いで魔法を使って避難する? 竣くんはどう思う?」ソフィアは僕の耳元で小声で話した。ソフィアは心拍数が上がったのか、顔が赤くなっていた。
「俺の隠れ家に避難する方が安全性が高い。どうする? 行くか?」リュウ・エイジ・オコットルも小声で話した。今にも窓から飛び出しそうだ。
「避難した方がよさそうだ。よし、リュウさんの隠れ家に避難しよう」僕たちは円形になって顔を近付けていた。僕は迷わずに答えた。
「でも気になるよな」憲二は抑えられない好奇心からドアの前まで歩いた。
「憲二、危ない! 待てよ!」僕は憲二の肩を押さえた。
「いいから。ドアは開けないから大丈夫だよ。覗いてみるだけだ」憲二が覗こうとした瞬間に声か聞こえてきた。
「お客様、すみません。ドアを開けてくれませんか?」聞き覚えのある声だった。
「!?」憲二は覗き穴を見て震えていた。
「し、し、し、竣!」憲二は足をもつれさせて僕の傍に駆け寄った。
「憲二、どうした!?」僕は憲二を落ち着かせようとした。
「し、し、竣……。ラ、ラビオムーンだよ。ラビオムーンが生きている!!」
つづく
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