ソフィアの微笑み
僕はシャドーボクシングをした。
本気で鬼婆とゴブリンどもを痛めつけてやる。
憲二も独自の武術を習得しているので回し蹴りを2回ほど練習して体を慣らしていた。
寝込みを襲われて羽根をもぎ取られたが、リュウ・エイジ・オコットルのお陰で復活したソフィアも真剣な顔をして小さな魔法の杖を構えた。妖精の魔法と魔法使いの魔法は似てはいるが別物だと聞く。ソフィアの能力に期待するしかない。
リュウ・エイジ・オコットルは魔法使いとしての能力が相当なものかもしれないという期待で胸が膨らむ。どれだけの力があるのかをこの目で確かめてみたかった。
「ふん! 邪魔な奴らめ」リュウ・エイジ・オコットルは窓の下を覗いた。10匹ほどのゴブリンがうろつき回っていた。ヴェカサティスの村は絶望的に静まり返っていた。
「竣くん、青い翼は出ているかい?」リュウ・エイジ・オコットルは今にも破られそうな扉を見ながら言った。
「出ていない」僕は手の甲を見た。
「そうか」リュウ・エイジ・オコットルは両手を合わせて何かを呟きながら目を閉じた。
「来たぞ!」僕は叫んだ。
雪崩れ込むように鬼婆を含めて5人の化け物が部屋に入ってきた。
「グフフフ。旨そうな妖精だ。もうすぐたからね」と鬼婆はソフィアに向けて言うと、血塗れの顔を両手で覆った。
「奴等を殺せ! まずはお前からだよ。いいかい? 飛び掛かれ!!」と鬼婆は1匹のゴブリンに向かって絶叫した。
「グギャァァァァァ!」ゴブリンは鬼婆の声に興奮するとジャンプをしてきた。
ゴブリンは僕の体に抱きついた。僕は必死になって離そうと体を動かしたが、ゴブリンは頭を噛もうとしてきた。
僕は素早くゴブリンの両耳を両手で思いっきり叩いた。
ゴブリンは大きな音を感じて驚くと、直ぐに僕から体を離して頭を振り回した。僕はその隙を狙ってゴブリンの右目を殴り付けた。
「グガァァァ!」とゴブリンは叫ぶと勢いに任せて低い位置から僕にタックルをしてきた。僕は後ろの窓を破り上半身が外に出てしまう状態になった。
「竣! 大丈夫か!!」憲二は今にも3階下に落ちそうな僕に驚いて、ゴブリンを引き離すために回し蹴りを御見舞いした。
「ガァハッ」とゴブリンが吠えて横に吹っ飛ぶと壁に頭を打ち付けた。
憲二は倒れたゴブリンの背後に回って首を絞めに掛かった。憲二は目を閉じて歯を食い縛り、力の限りゴブリンの首を絞めた。
「グハァァァァァ」ゴブリンがもがき始めた。
ソフィアが憲二の傍に近づいて肩に手を置いた。
憲二はソフィアを見るとソフィアは憲二の両手をゴブリンから離した。ソフィアは憲二を見て微笑みを浮かべた。憲二は上手く笑えずにいた。
ゴブリンが首を押さえながら喘ぐと、ソフィアはゴブリンに向かって「ダギモルア」と唱えた。
ゴブリンは目を見開いて体が動かなくなってしまった。ソフィアは魔法の杖をゴブリンの頭に翳すと体は激しい揺れを起こして足元から砂になって消滅していった。
ゴブリンは消えていく自分の足を必死になって止めようとしたのだが、体が動かせないので鼻息だけを荒くした。
ゴブリンはゆっくりと足から砂になっていき顔まで来ると、恐怖で混乱する目を僕らに向けて静かに消え去ってしまった。床には変わり果てた白い砂の山が出来ていた。僕が子供の頃に公園で作った砂の山とは全く違って見えた。
僕は黙って白い砂の山を見つめていた。
憲二は僕の背中を擦りながら白い砂の山を見つめていた。
リュウ・エイジ・オコットルは依然として目を閉じたままだった。
鬼婆と残り3匹のゴブリンは異様な様子に戸惑って立ち尽くしていた。
つづく
ありがとうございました!
また頑張って更新します。




