僕の魔法
鬼婆は僕の首に噛み付くと「はぁー」と息を吐き出した。
痛みは無いが首から止めどなく鮮血か溢れ出てきた。
僕は涙が出て目を閉じてしまった。『もう自分の体が邪魔くさい。こうやって死に行くんだな。誰も恨まずにいよう。自分の不運を悔やむことだ』と僕は悟っていた。
僕は無意識で左手を鬼婆の後頭部に当てた。
「ギャアァァァァー、熱い!!」鬼婆は立ち上がって頭を掻きむしると、のたうち回り体を何度も椅子にぶつけていた。
僕は鬼婆の後ろ姿を見た。後頭部が禿げ上がり、赤い肉が捲れていて頭蓋骨まで見えていた。
僕は『何事が起こったんだろう?』と思いながら、目を見開いて不安な気持ちで左手を見つめていた。
手で首を押さえながら鏡の前に移動すると鬼婆に噛まれた首筋に強く当てた。
不思議な事に出血か止まり歯形が静かに消えて肌の損傷もなく元通りになっていくのが鏡で確認できた。
『こ、こ、これはヒーリング? 夢の中? 一体なんだ? 奇跡なのか?』
僕は青い翼の紋章が目に馴染んできた。
昔から、多少、僕の家族には何らかの違和感があった。和雄爺ちゃんよりも、スズ婆ちゃんが強すぎたり。父親が不在すぎたり。家系や血筋に何らか影響があるのかもしれない。
小学3年生の時に来た、転校生の義岡アレキサンダー君は「自分はあ、アトランティスの、血があ、混じっていまス」と明らかに嘘っぽい事を言っていたのが頭に浮かんできた。
アトランティスは超高度な文明を持つ伝説の大陸。実際に存在したのかは分からないけども、義岡アレキサンダー君は頻繁に「今も世界中にね、アトランティスの生き残りがいるんだヨ」と馴れ馴れしく言っていたのを思い出した。
アトランティスは超能力を使って日常生活を営んでいたらしい。
色々とアトランティス人の超能力について詳しい話を義岡アレキサンダー君はしてくれたけど、僕は全く信じられなかったので話半分で聞いていた。
今ではほとんど内容は覚えていない。彼の話は嘘じゃなかったのかも。
「あー、あー」と鬼婆は言って、フロアをグルグル回りだした。
「お前さん、何者じゃ?」鬼婆の顔中に汗が吹き出していた。汗の臭いがしそうなほど流れていた。
「別に答える必要はないだろう」
「私が、他にもいるとしたらどうする? ヒッヒッヒッ」鬼婆は入り口の前に立ち尽くした。
「どういう意味なんだ?」
「私は、独りではない、という事さ」鬼婆は無表情になると体を揺らしながら僕に向かってきた。
僕は気が引けていた。倒し方が分からなくなっていたのだ。
僕の左手に魔法が生まれた。
鬼婆は倒れているバンプライを跨ぐと僕の目の前にきた。
僕は左手で鬼婆の首を締めて持ち上げた。
「はな、せ、離せ、よ」鬼婆は足をバタつかせて両手で僕の左手を解こうとしていた。
僕は空いている鬼婆のお腹を力強く右手で殴った。パンチは鬼婆のお腹をめり込むような形で決まった。
右手にも違和感があった。青い翼の紋章が現れていたのだ。僕は破れかぶれになってきた。
鬼婆は僕を睨みながら、うすら笑っていた。
「フッ、お前さん、外を見て御覧よ。私の仲間が挨拶したいとさ。ヒッヒッヒッ。私の思いは届くよ。ヒッヒッヒッ……」僕は鬼婆を床に叩き付けると頭を蹴りあげた。振り返って窓の外を見た。
10人くらいの人影か?
いや、おそらく、ゴブリンだろう。
ゴブリンは奇妙な姿をした生き物だった。
ゴブリンは奇声を発して窓ガラスを棒で割った。
つづく
ありがとうね✨




