話し合い
「ふぅ~ん。そうか、なるほどね。ソフィア、ありがとう。そんな経緯があったんだね。よく分かったよ。ソフィア、フェアリーのメグミムからは嫌われてはいないから安心しなよ。大丈夫さ」僕は敷き布団に横たわりながら言った。
「あははは。そんなに落ち込む事ないよ。気にすんなって」憲二は笑い飛ばして言った。
「そうだと嬉しいけど。メグミムちゃんはアイドルだしスーパーフェアリーだからね。私、失礼な事をしたから悔やんでいるのさ」ソフィアは敷き布団の上にうつ伏せになって足をバタつかせると微かにホコリが舞い上がった。
「ソフィア?」僕は何気なく言った。
「ふぁい? なあに?」ソフィアはそのまま普通に返事をした。
「違うって。漆島蘭で返事をしてよ」僕はソフィアを油断させないために言い続けた。
「分かっちゃいるんだけどね、実名を言われたら自然と答えるんだわ」ソフィアは開き直って言った。
宿屋ルラルのオーナー、ラビオムーンは、現在、魔法使いと妖精の宿泊を拒否している。ソフィアの変身は見事なものがあって、完成度が非常に高く完璧な人間に変身している。バレたら大変な事になるのは目に見えている。チームワークを乱さない為には無邪気なソフィアを暴走させないことにあると思う。ルラルから追い出されたら、ヴェカサティス公園で野宿する事になるだろう。
夜のヴェカサティス村は、妖精っ気もなくなり、静まり返っているはずだ。今の時期だけにタイミングが悪い。妖精を食らう頭のイカれたクソババアことガダリイ(鬼婆) と出くわしたら確実に恐怖で震え上がってしまう。
僕は宇宙人やUMA(未確認動物)は完璧にボコボコに出来るけどもね、幽霊だけはダメなんだわ。ガダリイは幽霊のジャンルに入ると思うんだよ。まぁ、意見はあるかもしれないけどね。幽霊はダメだ。凄く、きょ、きょ、きょわいんだよ(怖いんだよ)。オバケはダメ。絶対にダメ。オバケはいるからダメ。
幽霊も同じ。オバケは人間を振り回す外向的なイメージだけど、幽霊は陰湿的だから尾を引きやすいんだよ。生きる人間の足を引っ張る幽霊は特に御免だね。オバケと幽霊の事を考えたらね、夜、本当にね、寝れなくなるんだよ。日常生活に支障が出まくる。何としても絶対に3日間ルラルに宿泊したいんだ。
「ソフィア?」僕はあえて言ってみた。
「さっきから何よ?」またソフィアは返事をした。
「違うってば!」
「あっ、そうだそうだ。で、何よ?」
「ラビオムーンは警戒心が強く、妖精も宿泊を拒否している。今は大事な時だからくれぐれも注意してくれよな」
「うん。じゃあさぁ、私に漆島蘭を染み込ませるためにさ、蘭と頻繁に呼んで洗脳してよ」
「ちょっと、蘭?」
「ふぁい?」
「おっ、良いじゃん!」
「エヘヘヘ」
「なあ、蘭?」
「何よ?」
「その調子、その調子」
「ノッテ来たわ」
「蘭ちゃん」
「はぁ~い」
「良い感じだよ」僕は嬉しくなってきた。
「蘭ちゃ~ん」
「は・あ・い?」
「やれば出来るじゃん」
「私は可愛い漆島蘭でぇ~す。よろぴくねっ」ソフィアは何度も自分に「私はプリティーな漆島蘭、漆島蘭」と唱えていた。
「なぁ、ソフィア?」憲二はさりげなく低い声で呼んでみた。
「ふぁい?」ソフィアは幼い顔をして返事をした。
「あははは」憲二は横に首を振りながら「仕方がないなぁ」と言った。
「慣れが必要だから自分に言い聞かせてくれよ。野宿は嫌だろう?」僕はソフィアに言った。
「嫌だ。もし万が一、最悪なパターンになったら、私の1番上のお姉ちゃんの家に行こう。お姉ちゃん強いから安心出来るんだよ」ソフィアは予備を張って言った。
「悪くないアイデアだけど、それじゃ自分達の行動に甘えが出てしまう。心に隙が出て気を抜いた状態になれば、事故や災いに合う確率が高くなるんだ。油断大敵さ。今は置かれた状況でベストを尽くすべきだ。ソフィア……、蘭だって、お姉さんに迷惑を掛けたくないだろう?」 僕はシビアな考えを伝える事で気持ちを鼓舞させたかった。
「確かにそうね」ソフィアは真剣な顔で考え込んでいた。
「3日間、ルラルを拠点にして活動すべきと言うことだな」憲二は穏やかで深みのある声で言った。
「その通り」僕は頷いた。
「わかったわ」ソフィアも気を引き締めて言った。
「ちょっと、ソフィア?」僕はしつこく言ってみた。
「竣くん、もう分かったっつ~の。ソフィアは1回休むからさ。蘭でいくから。蘭になるからさ、もう任せとけって。なんなら、蘭に改名しても良いよ」ソフィアは僕の肩に両手を置いて激しく揺さぶった。
「改名まではしなくて良いよ。ラビオムーンに会っても、油断だけはしないでくれよ」僕はソフィアの無邪気な性格を心配していた。
「何よ? 蘭の私に何か用かしら? 私はね、漆島蘭よ。蘭って呼んでね。蘭、蘭」ソフィアは何度も自分に言い聞かせて練習した。
「蘭、310号室の男はリュウ・エイジ・オコットルだと思うかい?」僕は慎重になって聞いた。
「う~ん、わかんない」
「えっ? わからんのかい!?」
「うん、分からん」
「何か思い出せないの?」
「やたらと足が速い事と遠退く背中くらいしか思い出せず。ルックスはイケメン風だったけども、今は記憶がボヤけている」ソフィアは悩みながら答えた。
「そうだよな。時が過ぎれば物事は曖昧になっていくよな」憲二はおでこに手を当て仕方ないという素振りをした。
「どんなことでもいい。些細な事から本人に結び付く証拠が生まれる」ソフィアの記憶だけが頼りだ。ナイト・オコットルさんにリュウ・エイジ・オコットルの写真を見せて貰えば話は早い。
こんな話を耳にしたことがある。噛み砕いて言うとね、魔法使いは極端に写真を嫌うそうだ。拒絶していると思って貰ってもいい。写真に姿を残すと魔法の力が弱っていくそうだ。あくまでも言い伝えの一部分であり、推測の範囲かもしれないけど、実際に魔法使いの能力が失われる事はないと考えられてはいる。
ただ個人的に言わせて貰うと、魔法使いの写真はないと思う。悪い奴等に顔を知られたら、命を狙われる可能性もあっただろうからね。魔法使いが写真に姿を残す事で、魔法の消滅と命の消滅の危険があったのかもしれないと考えたら話が広がる。
魔法使いの姿は絵画に残されるケースが非常に多いと聞いた事もあった。魔法学校での生徒達の卒業アルバムは全て肖像画だそうだ。
油絵は一瞬を描くのではなく、時間や空気感や命の息遣いまでもキャンバスに描かれていく。
絵の方が深刻にリアリズムを捉える事が可能だし、イマジネーションに長けているし、やはり絵の方が不死の存在に近い魔法使いには相応しいと思う。この話の出所はスズ婆ちゃんだ。凄く信憑性が高い。和雄爺ちゃんだと面白半分で話すから怪しくなるけどね。
何故、スズ婆ちゃんが魔法使いの話をしたのかは覚えていない。子供だった僕を寝かし付ける為に創作した話だったのかもしれない。ただ、あまりにも真に迫っていた内容だったので今でも鮮明に記憶しているんだ。僕達が置かれた状態を考えたら、スズ婆ちゃんの話はリアルに聞こえくる。
魔法使いで賢者でもあり、歳上の姉さん女房の尻に敷かれているナイト・オコットルさんに孫のリュウ・エイジ・オコットルの写真の存在を聞くのは野暮な話だ。
「うん!? あらっ!? あー! なんか思い出せそうだったのに~! 思い出す直前で、消えそうな、か細い記憶が憎たらしいわ。なんだっけなぁ? あぁん! 今、何か浮かんだのに!! まったくもぉーう!」ソフィアは自分の頭を軽く叩いた。
「忘れた頃に急に思い出すよ。少し休もう。また後で話そうよ」僕は焦らせても良くないと分かっていたので、一先ず話し合いを終わらせる事にした。
つづく
ありがとうございます✨
(´ゝ∀・`)ノ~~ ♪




