ファンタジー・ジェントルマン
久しぶりに更新します。色々と出逢いがありまして、只今、瀬川竣と高瀬憲二は異世界にいます。
「ソフィアさん、魔法使いのナイト・オコットルさんっていう方は御存知ですか?」風が吹いてきたので僕は500円のチラシの端を小石で押さえた。
優しい風が吹くヴェカサティスの村は、のどかでホンワカした可愛らしい村だ。
「うんっ!? あれっ? なんだなんだ? 雨? 金? 金なのかな? 光っているよ」僕は掌を空に向けた。
「これはねぇ、通称『金の風』なんだよぉ」ソフィアさんはニコニコしながら言った。
突然、空から金の粉が風に乗って舞い降りてきた。風はリズミカルに吹いている。僕は驚いて蒼い空を見上げてみた。紙吹雪をパウダー状にしたような金の粉が止むことなく降ってきた。夢のように綺麗だ。
ソフィアさんの話によると。
魔法使いの国や妖精の国では全国各地に点在している魔法の粉の源である金の粉製造工場というのがあり、もはや名物となって親しまれる『金の風』が午前中に吹いてくるそうだ。
金の風の原因は、魔法の粉製造工場が丘の天辺に建っていて(建てる場所は法律で決まっている)、午前中が1番製造過程でハードな時間帯になっていて、工場の煙突や開けられた窓から金の粉が漏れ出てくるとの事だ。
誰でも金の粉が得られる訳ではなく、魔法を極めた魔法使いや妖精だけが使用認可されている。
金の粉は魔法使いだと杖に、妖精だと羽根に備えられている。魔法を唱える度に金の粉が自然に現れるようになっていて、金の粉と魔法を混ぜることで魔法のレベルや技術が高まり、更に威力が段違いにアップするのだ。
もうひとつこんな効果も確認されている。魔法を使うと辺り一面の空間に歪みが起こるために、金の粉をまぶす事によって、自然を壊さない保護作用、ワンクッションを与えるナチュラルケアの効果があるとの事だ。
最小限の魔法なら金の粉も微量だが、強力な魔法ともなれば金の粉の量も多くなる。金の粉は1人1回7年分の量も貰える。無くなれば無料で取りに行ける。
自然を破壊して被害を与えた魔法使いや妖精は偉い目に合うらしい。
信じられないことに、金の粉は特殊な物質を含んだ正真正銘の特別な金で、錬金術によって作られているので無限に製造しているというのだ。
胸踊る錬金術。錬金術で金を作る方法は極秘なので詳しくは教えてくれなかったけどね。というより、普通の魔法使いや妖精は誰もが知らないとの事だ。
錬金術で金を作っているのは伝説の魔法使い『ファンタジー・ジェントルマン』という方らしい。
もちろん、これは偽名との噂。誰も本人の姿を見た者や居場所は知らないという話で名前だけが独り歩きしているそうだ。
無限に金を作るなんて相当に魔法を極めきった強烈な魔法使いなんだと思う。
「なるほどねぇ~。勉強になります。ソフィアさん、ファンタジー・ジェントルマンさんは魔法使いの最高峰なんですね」僕はソフィアさんの話を夢中になって聞いていた。
「そうだよ。見たことはないけど、凄い魔法使いみたい。家のお母ちゃんが言ってたもん。竣くん、さっきの話だけど、私、ナイト・オコットルっていう魔法使いの名前は聞いた事があるよ。こちらも会った事はないけどね」ソフィアさんはアメちゃんをねだったのでハッカ味のアメちゃんを渡した。
「ワーイ。竣くん、どうもありがとーう。では、いたらきまぁ~すぅ。あららっ!? やだわ!! めちゃめちゃ美味いじゃん! なんか口の中でスゥ~ッとヒンヤリしますが、これなんですかね?」ソフィアさんは初めて味わうハッカに興味津々だ。
「ハッカちゃんです。なかなか人間の食べ物もやるでしょう?」
「うん! 私ね、人間の食文化に興味津々さ!」ソフィアさんは嬉しそうに話した。
「ナイト・オコットルさんについて知ってる事を教えてくれるかな?」
「200歳も歳上の姉さん女房を溺愛している魔法使いでね、魔法の国ファンタジー・ラヴ・ランドの高貴でスペシャリストな魔法使い、または賢者さんだよ。一説には奥さんの尻に敷かれているという話もある。妖精の国フェアリー・ブルーランドにあるヴェカサティスの村の村長、ガラリ・ポマンさんと仲が良いんだってさ」
「賢者でもあったのかぁ。初耳だね。どうもありがとう。よし、今からね、ナイトさんに会うからね」僕は500円のチラシに呼び掛けた。
「すいません、ナイトさん、ナイトさ~ん」チラシがオレンジ色の光を放つとナイトさんのホログラムが出てきた。
「よう! 竣くん、どうしたの?」ナイト・オコットルは何かを食べながら話した。
「おー! あらまぁー! 凄いじゃ~ん!」ソフィアは何度もナイトさんの頭に手をかざした。
「なんだ? 君はよ? 私の頭を気安く触るなよ」ナイトさんは頭を避けてソフィアの手を払いのける仕草をしたが、お互いに触れられずにいるので透けてスレ違ったままだ。
「ナイトさん、こちらはヴェカサティスの村で出会った妖精のソフィアさんです。ソフィアさんの話によるとですね、1年前、宿屋『ルラル』に人間の若い男が長期間滞在していたらしいですよ」
「え~っ! 本当に!?」ナイト・オコットルは僕の顔を凝視した。
「宿屋『ルラル』のオーナーさん、御主人のラビオムーンという方に話を聞きに行きたいのですが、妖精の国のお金がギムドというらしくて、持っていなくて困っています」僕は経緯を話した。
「よっしゃ、分かった。宿屋のルラルに行ってきてよ。ギムドなら、今、渡すから。8000ギムドを渡すので憲二と分けなさい。倹約だぞ。無駄遣いは許さないよ」ナイト・オコットルは嬉しそうに指を鳴らすと500円のチラシの裏側を見ろと言った。
チラシの裏側からお金を引き出す小さな入り口が現れると8枚の白色の小さな紙幣が出てきた。1枚1000ギムド。高額紙幣のようだ。
『マタノゴリヨウヲオマチシテオリマス ファンタジー・ラヴ・ランド・ギンコウ』とピンクに点滅した電飾の文字が浮かんできた。
僕は8枚の小さな紙幣を眺めた。
紙幣には厳粛な顔した魔法使いの顔が載っていた。
「ナイトさん、この方は誰ですか?」僕はホログラムに見えるように紙幣を出した。
「偉大な魔法使いファンタジー・ジェントルマンだよ。魔法の国や妖精の国やマーメイドの国、天空の国や伝説の国なども管理している偉大な魔法使いなんだよ。実際にいる魔法使いだけどもね、誰1人、顔も姿も見たことがないから紙幣は想像図だ」ナイト・オコットルは崇拝の眼差しで紙幣を見ていた。
「ちなみに偉大なファンタジー・ジェントルマンの年齢は5000歳という噂だ。不老不死の魔法を使えるらしいよ」
「凄い……」憲二は空を眺めて微笑んだ。
「ナイトさん、分かりました。ありがとう。迷惑でなければ、今からソフィアさんも仲間に入れて宿屋の『ルラル』を調べてみたいです」僕はソフィアを確認して見た。
ソフィアは好奇心丸出しで頷いた。
「オッケーみたいです」僕はナイトさんに言った。
「大丈夫ソフィアさん? 良いかい?」ナイト・オコットルは丁寧に聞いた。
「うん! 大丈夫だよ。ワクワクするぅ~!」
「よし! では、宜しくお願いしますです! じゃあ、またね。バイバ~イ」ナイト・オコットルは元気に手を振った。
つづく
ありがとうございました!
偉大な魔法使いファンタジー・ジェントルマンに
会ってみたいね!




