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第30回楠見オールナイト祭り15

竣は呆れている。

その訳は前回のバカップルにあり。

 僕は68番の充電器にスマホを入れると、少しだけベンチに座って待つことにした。

 

 ジョン&ヨーコは20世紀最高のカップルだ。

 

 偉業を成し遂げた2人については、話せば長いから話さないけどもね、今は話したくないから話さないという気持ちでいるため、話す必要のない話はここでは話さないことにしたいので話さない。

 

 全然似ていないちんちくりんなジョン&ヨーコ風のバカップルは、室内にいる多くの人や僕を無視してキスをし出した。2人の鼻息が荒い。荒すぎる。 

 

 バカップルの側には見知らぬ小さな子供達がいて、鼻水を垂らしながらバカップルのキスを不思議な顔をして見ているというのに。

 

 本質を真似るなら分からないでもないけれど『朝から世間を蔑ろにして鼻息を荒くしろ』とは本物のジョン&ヨーコも教えてはいないはずだ。

 

 バカップルの騒々しい呼吸音と息継ぎは、掃除機の「中」に匹敵するほど邪魔くさかった。

 

 僕は心の中でめんどくさいバカップルを『この露出狂を外に放り出そうかな』と考えていた。

 

 ちんちくりんでバッタもんのダサい男と女はキスを終えた後、お互いの手を取り合って「ピース!」と大きな声で言うと、Vサインをしてから、またキスを始めた。

 

 僕はうんざりしたので、立ち上がり、気付かれないようにジョンを真似た男の背後に忍び寄って、気合いを入れてから息を止めると、素早く一気に白い短パンを下げた。

 

 僕は急いで直ぐに後方に逃げたので、周りの人達は誰も僕の行動に気付いていなかった。辺りが騒がしくなってきた。

 

 「ねぇ、お母さん。このおじさん、パンツを洗っていません。前が黄色くなっているよ。ほら、見てよ」と鼻水をすすりながら男の子は隣にいる母親に言って男の股間に指を差していた。

 

 「コラ、見ちゃダメ。指を差すんじゃないよ」と母親は注意をすると、子供の手を引いて後ろの方に移動した。

 

 「あれっ? 誰もいないけど誰だよ! ふざけるなよ!」と男は慌てていたが、白い短パンは下がったままだった。

 

 男は肩を怒らせて短パンを脱がした奴を探すために周りを見回したが、遠巻きに男を見ている人達から逆に白い目で見られていた。 

 

 男が穿いている黄ばんだ白いブリーフをじっとりと見つめている中年のおばさん以外に、周りには誰もいなかった。

 

 男は中年のおばさんと目が合うと睨んだ。

 

 中年のおばさんも睨み返した。

 

 男は短パンを穿き直してから中年のおばさんに睨みを効かせた。

 

 おばさんは目を見開いていた。

 

 男はおばさんの淀んだ強い視線に負けてしまい、そのまま充電器室から怒って出ていった。

 

 僕は床に光る物を見つけた。脱がした弾みで短パンから落ちたカードだった。

 

 僕は足の裏でカードを引き寄せて手に取ると、カードにある名前を確認した。レンタル映画のカードだった。

 男の名前は『筆山誤衛門吉(ふでやまごえもんきち)27歳』と書いてあった。

 

 恐るべき本名だった。僕は男の名前があまりにもジョン・レノンとは程遠いので、自然と笑けてきた。

 

 僕はカードが落ちた場所へ、さりげなく戻した。

 

 ヨーコを真似た幸薄い小判鮫に似た女は、1人残されたまま、黙って入り口の自動ドアを見つめていた。

 

 見つめていれば、ジョンのバッタもんの筆谷山誤負衛門吉が直ぐに戻ってくると強く信じて、悲劇のヒロインを演じ、自己演出に酔っているのが丸見えだったが、只今、うんこを求めて、常に旅の途中にいらっしゃる銀バエが女の鼻先に止まった。銀バエは懸命に前足を擦りながら余裕で寛いでいた。

 

 バカップルの気取ったキスの姿が様になっていないし、寒気がするほどダサかった。

 どんなに金を掛けて外見を着飾ってもダサい奴は何処までいってもダサいものなんだよね。

 内面を変えない限り世界は変わらないんだ。

 

 真似から入るのは悪くないけれど、あからさまな姿をされると「コイツ、ナメてるな」と言いたくなる。

 

 「ジョン&ヨーコを侮辱したら、ただで済むと思うなよ」と中年のおばさんがドスを効かせた、重いパンチのような声で入り口向かって言った。

 

 充電が37パーセントと微妙に戻ったところで僕はスマホを確認した。

 憲二からのラインや電話が届いていたので急いで連絡をした。

 

 「憲二、悪い。朝から色々あって忙しかったんだよ。楠見オールナイト祭りの開催地には来ているよ。憲二、黒山タコの映画トークショーはどうだった?」と僕は憲二に電話で話した。

 

 「また昨年と同じく『グーニーズ』の話を1時間も話していたよ」憲二は呆れた声を出して笑っていた。

 

 「憲二、本当に遅れてごめんな」

 

 「分かったよ。別に竣を怒ってはいないよ。心配の気持ちの方が大きかったから無事で何よりだよ」と憲二は安堵したような声で話した。

 

 「竣、フォークシンガーの曽羽佳子(そばよしこ)の涙の引退ファイナルライヴが午前10時から第2ステージの「スカイ・ステージ」であるから見に行こうぜ」

 

 「わかった。すぐそこだから入り口で待ち合わせようぜ」

 

 「もう少しで亜美と梨香と瀬都子が来るよ。詩音とディーン・マックィーンは既に来ていて、何処かに行っているんだ」憲二は咳払い2つをして話していた。

 

 「了解です。美絵ちゃんも来ることになっているから、曽羽佳子のライヴで合流しようぜ」と僕が言い終えた直後に肩を叩かれた。

 

 「竣くん、誰と話しているの?」美絵ちゃんが笑いながら話し掛けてきた。

 

 「おう! 美絵ちゃん! おはよーう。憲二、美絵ちゃんが来たから、今から一緒に行くからな」と僕は言って、スマホを美絵ちゃんに手渡した。

 

 

 

 

つづく 

☆⌒(*^∇゜)v

ありがとうございました!

(´・ω・)(´_ _)♪

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