第30回楠見オールナイト祭り14
竣は大人の世界に踏み込み、一段と逞しくなっています。人生は選択の連続です。
朝からグッタリしてたまるかよ。今の僕は、もう少しで17歳の多感な若者でエネルギーが有り余っていて思春期で成長期で反抗期(反抗期は大体、終わったけどね)で好奇心があって食欲旺盛で睡眠不足で恋に夢中で真実の愛だけを求めて生きているんだよ。
あれもこれもと欲張ってしまうから、目移りしやすい時期を必死に抗ってもいるんだよ。
狭い世界ばかりに目を向けていると成長も進歩もできないんだ。
広い世界を知るために必要な事は、自ら前に進んで行って、新しい世界に踏み込まなければ見えてこないという真実なんだ。多様性が大事なんだ。
ビートルズの4人に素晴らしい個性があった理由とは、4人が多様性を認めていたからだ。お互いの個性を尊重して尊敬をしていたからこそ自由で魅力的な音楽が生まれたんだ。
自分の考えが1番正しいと思わない方がいい。自分だけの価値観を盲信すると歪みや綻びが出てくる。
楠見オールナイト祭りを楽しむ前から様々な人間模様に出くわして分かった事だけどもね、大人には、大人特有の言い知れぬ孤独感があって、そのナーバス的な孤独に苛まれる人達が、あまりにも多いという現実に気付いた事なんだ。
その孤独感も結局は自分で受け止めるしかないんだろうけどね。
孤独感を撒き散らして他人に不幸を与える人間が1番タチが悪い。
例えて言えば、あのデブのモヒカン男みたいな身勝手な奴さ。あいつは救急車に乗せられたよ。両足に複雑骨折があるみたいだ。
他に神経の損傷も考えられるため、病院で詳しい検査をしてから刑務所行きのようだ。モヒカン男は前にも5回、同じ様な事件を起こしたとのこと。
もう2度と出てくるな、と言いたいね。
今回、あの狂犬ジョニーにシバかれて、心底、懲りたみたいだ。
僕は至近距離から様子を見ていたんだけどね、モヒカン男が担架で救急車に運ばれていく間、何故かジョニーがモヒカン男の側について、右手を握り締めながら救急車に乗せられる直前まで奴にこう話していたんだ。
「外に出てきたら直ぐに見つけて今度こそ歩けなくしてやる。そうすればお前も納得するだろう?
えっ? どうだい? 女や子供に暴力を振るう奴がいたら俺がそいつを必ず倒す。女性は虐げられてばかりいるんだ。俺はそれが許せない。
実は俺はよ「angel」とは別にな、リーダーのキャルさんに許可を得てな、他の組織にも所属しているんだよ。「ジョニー&立派な育ちぶりのチョコミントズ」という女や子供に暴力振るう奴等を完全に根絶させるためのチームさ。
国からな『特別な許可』を得ているんだ。一体どんな許可だって? 簡単に分かりやすく言うとだな〈人を襲ったり畑を荒らすヒグマの駆除。民家に不法侵入をするスズメバチの駆除〉に似たようなものさ。組織運営のためにも今後は駆除を適応させていく努力が必要なので、お前みたいなクズを破壊しないとならなくてな。この意味が分かるよな?
怖いだと? さんざんテメェは女や子供に暴力を振るってきたくせによ。モヒカン男、あれっ? 泣いているのか? 嬉し涙なのか? 俺との別れが辛くて寂しいのか?
心配するな。俺はお前の友達ではないからお前に対して感情がない。今度、会ったら…、どうなるか、分かっているよな?」とジョニーはモヒカン男の目ではなく、奴の手を握り締めている自分の右手の親指に向かって話し掛けていたんだよ。
ジョニーの狂気は目を見張るほど驚くけども、たぶん、良い奴だとは思うよ。まあ、少しだけ言葉遣いが荒いかもしれないけどね。かなりキツイ率直な言葉遣いだけどもね。
それにしても、セクシーダイナマイトの茉莉さんは強かったよなぁ。カッコ良かった。リーダーのキャルが現れてから女になったのも分かりやすかったよなぁ。
まったく、この世界には色んな人がいるよ。
今の僕は甘い誘惑を跳ね除けて脱皮しようとしているのかもしれないし、大人になるために、必要な事を学んでいる段階かもしれないな。
目まぐるしく世界がスピード感を持って動いているので、迷子にならないためにも、必死になって頑張って付いていきたいな。
エネルギッシュな情熱が
あれば良い方向に世界は動いていくはずさ。
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僕はスマホの充電がなくなったので、インフォメーションの隣にある充電が出来る所に寄ってから、楠見オールナイト祭りの第3ステージ「ピュアナ・ステージ」に行くことにした。
何故「ピュアナ・ステージ」に行こうとしているのかは自分でもよく分からないけど。(本当はメインステージの「恋人たちのステージ」の方に行きたい)何か引っ掛かるものがあるので、無意識と潜在意識に導かれて重い足取りで歩く感覚なんだよね。行きたくないという感情も少しあるのはなぜだろう?
時刻は午前9時30分。入り口から300メートルの範囲は、だいぶ人で混雑してきた。
「ああーっ! これは完全にマズイわ。そうだ「ピュアナ・ステージ」だったわ。忘れてたわ。憲二と黒山タコさんの映画トークショーを見る約束だった。確か午前8時半だっけ? 今何時だ? 9時半か…、あー、マズイなあ」僕は少しだけでもスマホを充電するために、インフォメーションに走っていき、受付嬢に会釈をしてから、充電ができる隣の部屋に入った。
スマホ350台分の充電器がある奮発ぶりのおもてなし。もちろん混雑している。
「69番にしようかな。『アビーロード』が発売した年だ。68番も良いな。『ホワイトアルバム』が発売した年だからな」僕は自然に「SOMETHING」を口ずさんでいた。
69番の充電器に手を掛けた時だった。
同じ番号に手を出す人がいて指か触れてしまった。
「失礼。「SOMETHING」ですよね」そこにいた男は、なんとなく、外見がジョン・レノンに似ていた。
「うん? ああ、はい」と僕は思わず言っていた。
「良い曲ですよね」と男は頷き、69番の充電器を横取りしてスマホをセッティングした。
男はあまりにも無理してジョン・レノンに成りきっているので、僕は吹き出してしまった。
「どうしたの?」女性の声がしたので振り向くと、ヨーコっぽい出で立ちの女がいた。
「またかい」と僕は笑いを堪えて口に出した。
20世紀最高のカップルの生き写しか? または亡霊か? 幻覚か?
この2人、ずんぐりむっくりしていてジョン&ヨーコにしては背が低すぎた。
「真似ですか?」と僕は穏やかに2人に聞いた。
「はい、憧れているんです。瓜二つでしょう?」とジョンに被れている男は笑顔で答えた。
「私たち、よく間違えられるんですよ」とヨーコに被れている女は真顔で答えた。
「2人とも全然似ていないから、たぶん、そうだと思いました」と僕は皮肉を言ったら、ずんぐりむっくりのバカップルは唇を噛んで僕を睨んだ。
皆、誰かになろうとするけど、僕はもう嫌だな。僕は誰かの人生を生きたくはない。自分の人生を生きたい。瀬川竣という人間は世界で独りしかいない。
つづく
ありがとうございました!(´・ω・)(´_ _)♪




