第30回楠見オールナイト祭り11
なんとか更新しました!
肩を落として落胆するほど悲しかった。ある意味、憐れな人間による理不尽な結末とも言えた。
窃盗犯のおっさんの人生は底無し沼のようで、2度と這い上がれないと、本人も厳しい現実を悟っているはずだ。
僕を含め、おっさんがパトカーに乗せられていく姿を、誰ひとり見送った者はいなかった。
スケボー軍団の5人組は無言のまま、おっさんが投げ捨てた小銭を拾いに道を引き返していった。
「イソフラボン・ホットドッグ」と「夏子の手作りホットドッグ」は、おっさんに、メインの大豆入り肉厚ソーセージまで盗まれてしまったので、無添加の手作りのために、また1から手間隙かけて念入りに慎重に大豆肉厚ソーセージを作り直さなければならないとのことだった。
「色々と準備があるし、材料を揃えたりもするので、出来るのに1週間近くは掛かるよ」とオーナーの遼太郎と娘の遥香は悔しそうに言っていたので、僕は凄く胸が痛んだ。残念な事にホットドッグは販売が出来なくなったので店じまいすることになってしまった。
窃盗犯のおっさんの行き着く先は別な場所の牢獄になるに違いない。
狂人の叫び声が夜明けまで聞こえる不吉な場所。
おっさんの窃盗の罪については、裁きがあったとしても不完全燃焼として、僕らに歯痒い思いを残した結果が待っているはすだ。
それでも構わないさ。僕たちはやるべき事をやって良かったと納得をしているからだ。
たまたま出くわした人間模様、彼らは僕の人生に関わることなく、すれ違っていき、それぞれ自分たちの人生に再び帰っていくだけの出会いにすぎない。
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残り20メートルで『第30回楠見オールナイト祭り』の開催地に到着する。
僕はスマホを取り出して時計を見た。午前8時57分になっていた。
『あれ? 何かあったような気がするけども、まっ、いいかぁ。前頭葉近辺で妙に引っ掛かっているんだけど、別に大したことでもなさそうな気がするよな。
あっ、ヤバい。もう? なんか早いんだよな。スマホの充電が無くなり掛けているよ。インフォメーションの所で充電出来るはずだから今から探しに行こう』
僕は人だかりの入り口の門を10分ほど並んでから入って行き、鯉のぼり用の2本のポールに付けられた垂れ幕を見上げた。
垂れ幕は7メートルくらいのシルクの布にミシンで縫い付けられた光彩のある黒い文字で、『やあ! みんな! 元気かい? 第30回楠見オールナイト(ロックンロール)祭りへ、ようこそ!』と書いてあった。
僕は感無量な気持ちで風にそよいでいる垂れ幕を眺め続けていた。
今日から3日間、待ちに待った素晴らしい時間を過ごすことが出来るのだ。
僕はのんびりと入り口を抜けて、開けた道を歩いていると、左側に見えてきた朝の陽光に照らされて光輝く丘と草原の壮大な風景を眺めた。
2日前の午前9時頃、全く同じ時間帯と比べてみると、今朝は信じられないほどの人で埋め尽くされていた(5000人は居ると思う)。
「うん? なんだ? なにやら騒がしいぞ」僕は前方に野郎どもの固まり集まりを見つけた。
水着姿の綺麗なお姉さん方が3人、お尻を揺らせて歩いているのが目に入ってきた。
金魚のフンみたいに野郎どもが、お姉さん方に纏いついて、ボンキューボンのグラマーな「ないすばでぇ(ナイスボディ)」にヨダレを垂らすほどの勢いで見とれて歩いていた。
「俺達と遊ぼうぜえい」太ったモヒカン頭の男が真ん中のお姉さんをナンパしていた。
「嫌だ。遊ばないよ」真ん中のセクシーダイナマイトのお姉さんは軽くあしらった。
「良いじゃんかよ」
「嫌だね」
「楽しもうよう」
「嫌だね」
「固いこと言うなよ」
「嫌だって。消えな」
「良いじゃんか」
「うるさい。あっちに行きな。シッ、シッ」
「頼むよ、遊ぼうぜ」
「しつこいよ。怒るよ」
「怒った顔を見せてよ」
「うざい。消えろ」
「おい、おい。俺様をなめるなよ。いい加減にしろよ」デブのモヒカン頭の男が急に豹変したので、金魚のフンのように周りにいた野郎どもは、そそくさと逃げていった。
水着姿の綺麗な3人組のお姉さん方は腕を組んで困り果てていた。
つづく
ありがとう!(´・ω・)(´_ _)♪




