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第30回楠見オールナイト祭り10

瀬川竣、スケボー軍団5人組、「イソフラボン・ホットドッグ」の生みの親、遼太郎と「夏子の手作りホットドッグ」の生みの親、遥香の追跡が始まったが、お面屋さん『いつも勝手ばかりでお面』の女社長、柏原アン子さんを目の前にした窃盗犯のハゲのおっさんの様子が急に激変した。果たして、竣はどう対応するのだろうか?

 「おっさん、どうした? 気が狂ったのか?」僕は震えすぎてニヤけているおっさんを見ながら言った。

  

 「あそこにいるのは俺が子供の頃に死んだ母親なんだよ。間違いない、母ちゃんだ。俺は12で札付きの悪になって1度も親孝行をしなかった。実家にも母親が亡くなるまで戻らなかった。それを怒って化けて出てきたんだ。母ちゃん、安らかなれ。生麦生米生卵焼肉定食三日坊主三泊四日修学旅行」とおっさんは手を合わせて言ったが、学や知識がないと大人になってから困るという悪い例の見本がそこにあった。 

 おっさんは、デタラメなお経もどぎを早口言葉のように唱えていた。

 

 自ら愚かな人間性とトラウマを告白したこと、実の母親に対して酷い仕打ちをしたことの告白には、同情する価値がひと欠片もなかった。

 

 おっさんは、どうやら恐怖心から精神のバランスを崩して、お面とおっさんの母親が瓜二つのように見えているようだった。

 

 「おっさん、あれは世間で『3メートルの宇宙人』と言われている奴のお面だよ」僕はアン子さんの傍に歩み寄りながら言った瞬間、米噛み辺りに素晴らしい閃きが貫いた。おっさんが幻覚を見ている隙を見計らっての行動はチャンスだ。

 

 「アン子さん、ちょっとすみません。御願いがあります」僕はアン子さんの耳元で今までの事情(おっさんの窃盗と痴漢行為、行方不明の3万円の所持疑惑)を詳しく説明をした後に『あるお願い』を頼んでみた。

 

 「よし、わかったよ。出来るだけやってみるよ」アン子さんはピンクのお面を被ったまま頷いて引き受けてくれた。

 

 「おい、息子よ。久しぶりだな。ずいぶんと墓参りにも来ないで」アン子さんはお面のキャラクターにちなんで、おっさんから約3メートルほど離れた距離からおっさんの母親に成り済ました。

 

 「母ちゃん、ごめんよ。もう悪さはしない」おっさんは子供のような眼差しを浮かべてアン子さんのお面を見ていた。

 

 「またかい? もう何百回も言ってきたよね? その言葉。聞き飽きたよ」アン子さんの芝居に熱が入り始めてきた。やり過ぎな感じはするけども。

 

 「母ちゃん、約束する。今度は本気なんだ。俺を信じてくれよ」おっさんは立ち上がって、痺れた足を引き摺りながらアン子さんの元へ駆け寄ろうとした。

 

 「だまらっしゃい! ストップだ! それ以上、私に近付くんじゃないよ。近付いて来たら反省をしていないとみなすよ」アン子さんは後ろに下がりながら話していた。

 

 「はい、そこで正座しなさい」アン子さんは右腕を何度も地面に下げる動きを見せた。

 

 「分かった。母ちゃんの言う通りにするから怒らないでくれ。久しぶりの再会なんだからさ」おっさんはぶつくさ言いながら再び背筋を伸ばして正座をした。

 

 「分かれば宜しい」アン子さんはお面を直しなから言った。

 

 「母ちゃん、何だか疲れていないかい? 顔が赤らんで見えるし、強張って見えるし。表情がないような感じにも見えるよ。俺の老眼のせいかな。久しぶりに会ったから緊張しているのかい?」歴とした犯罪者のおっさんも所詮は人の子だった。親に対する反応は一般人と何ら変わりがない対応を見せていた。

 

 「あんたの御気遣いに感謝はするが、今、それどころじゃないのは自分でも十分に分かっているよね?」

 アン子さんはなかなかだ。本当におっさんの母親に見えてきた。まさに厳しい母親の姿だ。自称18歳と言い張るアン子さん。とてもティーン・エンジャーの言動とは思えない。

 

 「う、うん」おっさんは目を伏せて返事をした。

 

 「よーく、周りを見てごらん。ここにいる皆は貴方の起こした罪で迷惑や苦しみを被ってしまった人達なのよ」アン子さんは、遼太郎、遥香、スケボー軍団の皆、そして僕を順番に指を差しながら話した。


 「俺が悪かった。反省している」おっさんは頭を深々と下げて皆に対して謝罪の言葉を口にした。

 

 「皆さんが、この謝罪の言葉を、どう受け取るかは今後の貴方の行動によってでしか判断が出来ないの」アン子さんの言葉には力があった。僕は『さすが代表取締役だけはあるな』と思って聞いていた。

 

 「うん、うん。本当に済まなかったと思っている」おっさんは瞼を閉ざして、嘘くさい神妙な顔を作り、唸り声を上げ続けていた。


 「3万円についてだけどもね、貴方、心当たりがあるわよね?」アン子さんは両手で耳に掛かるお面のゴム紐を鳴らし始めた。

 

 「うん。確かに心当たりがあるよ。うん。うん?」おっさんはアン子さんの顔を見つめ出してきた。


 「母ちゃん、どうした? 何か顔からパチパチ音がしていないかい?」おっさんは少しだけ腰を浮かせてアン子さんに言った。

 

 「蚊だよ、蚊。心配御無用だよ。夏の御挨拶に来た蚊だよ」アン子さんは慌てて手をお面から離すと、祈るように掌を合わせて取り繕った。

 僕は咳払いをしてアン子さんに注意を与えた。アン子さんは微かに頷いた。


 「話を戻すけど、3万円は貴方の懐にあると考えて良いんだね?」アン子さんは問題の要点を話した。

 

 遼太郎と遥香は身体を固くさせてアン子さんとおっさんのやり取りを見守っていた。

 

 スケボー軍団は横一列に並んで見ていた。サッカーのPK戦で仲間の最後のキッカーを見守る姿とそっくりだった。

 

 「う~ん、いやぁ~、それはどうかな~?」ここにきて、もったいつけるおっさんの言葉に僕はかなり苛立った。

 

 「ここは男らしく、はっきりと答えなさい。男の中の男として男らしくだよ」さすがだ。アン子さんは忍耐強い。

 

 「う~ん、どうだろうかなあ~?」

 おっさんは楽しんでいるようだ。

 コイツは反省の色が無いのが十分に分かった。

 

 「母ちゃんを信じて正直に話しなさい」

 

「う~ん」

 

「どうしたの?」

 

「母ちゃん、俺の名前は何て言うのか言ってみてよ」

 これは非常にマズイ。おっさんの幻覚が治まりつつあるようだ。おっさんは正気と幻覚の狭間で揺れているようだった。

 

 「ここでかい?」アン子さんは僕の顔を見ていた。

 

 「うん、俺の母ちゃんなら、実の息子の名前が分かるはずだ」

 

 「困ったねぇ」アン子さんはお手上げのポーズを出そうか迷っていた。

 

 「母ちゃん、さあ早く、早く」おっさんはニヤけながら急かしてきた。

 

 「う、うん」アン子さんは困りきっていた。


 「へへへへへ。早く言いなよ、母ちゃんよ」

 

 (おっさんは面白そうに笑っていたので、僕は堪忍袋の緒がキレた。

 『おっさん、後ろを見てみろ。危ないぞ』と僕は叫ぶと皆は釣られて、迷わずに無意識で後ろを見た。

 その隙に僕は久しぶりにおっさんのアゴを必殺のアッパーカットを食らわせた。スッキリ爽やか、無事に一件落着)と頭の中で妄想を繰り広げていた。

 

 アン子さんに早く助け船を出さないといけない。無理を承知で母親になりすまして欲しいと頼んだのは僕だから。

 

 僕はそっと『いつも勝手ばかりでお面』に行って黒いキツネのお面を取ると急いで被ってアン子さんの傍に行った。

 

 「あー、懐かしいな。どうも、どうも。大変ご無沙汰しています」と僕は大きな声でおっさんに話し掛けた。

 

 「お前は誰だ?」おっさんはさっき並走した僕の姿や、形、声を分からないようだ。

 

 肉体と精神の衰弱、奇妙な言動をする情緒不安定なおっさんとの心理戦だ。やるかやられるかだ。この場合は相手に合わせて戦うしかない。

 

 「昔、仕事でご一緒しました。父親がイギリス人で母親がジャパン、ハーフの奈良岡ロビンソンです」僕はヤケクソだった。

 

 「覚えていない」おっさんはゆっくりと首を傾げて存在しない人間を思い出そうとしていた。

 

 「いやあ~、それは参ったなあ」僕はヤケクソ気味になっていた。

 

 「本当か? 本当に俺と一緒に仕事をしたのか?」おっさんは疑いを強めた口調で話した。

 

 「ええ。しました。ジブラルタル海峡で一緒に金魚を売り歩いた仲じゃないですか。私は貴方の顔を覚えていますが、大変、失礼な話ですが、名前がね、ちょっと出てこないんですよねえ。面目ないです。名前は何と仰いましたか?」僕はヤケクソ気味をヤケクソな気持ちで封じ込めて押さえることにした。

 

 「原崎」あっ惜い! 今は名字はいらない。

 

 「あー、原崎さんだ。そうだそうだ。原崎さんだった。原崎さん、差し支えなければ下のお名前の方も是非とも宜しくお願い致します。どうか頼みます」敬語を使えて良かったよ。敬語を教えてくれた、和雄爺ちゃんとスズ婆ちゃんに心から感謝だ。

 

 敬語は相手を尊重する言葉だが使いすぎても良くない。バランスと匙加減を上手く合わせる必要がある。

 

 「次郎(じろう)」原崎次郎は片手を上げて答えた。

 

 「あー、そうだった。次郎さんだ。次郎さん」僕はホッとして横にいるアン子さんに頷いた。

 

 「おや? 次郎さん! あれは何だろう? 次郎さーん! 後ろの空を見てくださいよ!」僕は怒鳴り声で後方の大空を指差した。


 「えっ?」原崎次郎は慌てまくって後ろを向いた。

 遼太郎、遥香、スケボー軍団の5人も驚いて空を見上げていた。こちらを見ていない隙に僕とアン子さんはお面を取り外した。

 

 「えっ? なになに? どこ? どこ?」と原崎次郎は何もない空を懸命に探していた。

 

 皆、一斉にこちらに視線を戻すと戸惑っていた。

 

 「あれ? 母ちゃん? 若返ったね」原崎次郎は、お面とアン子さんの素顔を比較して確認をしたようだが、変化や違いを判断出来ないでいた。

 約3メートルの距離とおっさんの老眼による目の衰えもあって、上手くカムフラージュが効を奏していた。

 

 「何処に行ったんだ? 奈良岡ロビンソンは?」と原崎次郎は心配気に辺りを見回していた。

 

 「用事があるとか言って先に帰宅しましたよ」僕は然り気無く伝えてみた。

 

 「せっかくの嬉しい再会だったのに。残念だ。奈良岡ロビンソンの日焼けした優しい顔が懐かしかった」と原崎次郎は肩を落としながら寂しそうに言ったが、奈良岡ロビンソンとして活躍した黒いキツネのお面は僕の右手に下がっていた。

 

 「ところで母ちゃん、まだ俺の名前を言っていないけど分かるのかい?」原崎次郎は疑い深い眼差しでアン子さんに問い詰めた。

 

 「次郎だろう?」アン子さんは胸を張り、自信を持って答えた。

 

 「さすが母ちゃんだ」原崎次郎は懐から3万円を取り出してアン子さんの傍に行った。

 

 「はい、これ。3万円。母ちゃん、本当にごめん」原崎次郎は反省しきりな顔を浮かべてアン子さんに手渡した。

 

 「謝るのは私じゃなくて後ろにいるあの人に渡してきなさい」アン子さんは見事だった。無事に最後の仕事をやり終えた。

 

 原崎次郎が頭を下げて遼太郎にお金を手渡すとパトカーのサイレンが聞こえてきた。遥香が警察に通報をしていたのだ。 

 

 僕は原崎次郎の目の前に立ちはだかった。

 

 スケボー軍団の5人組は原崎次郎の周りを円で囲むようにして立ちはだかった。

 

 遼太郎と遥香は唇を噛み締めて肩を寄せていた。

 

 柏原アン子さんは再びお面を被ると、静かに自分の持ち場へと戻っていった。





つづく

ありがとうございます!そろそろ祭り本番です!読者の皆さん、オールナイト祭りだから寝かせないぜぇい!またおいでね!

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