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第30回楠見オールナイト祭り9

今年の、6月、7月、8月は色んな祭りに行きましたよ。残り2ヶ月。この小説はずっと僕の好きな夏物語。秋も冬も書いてみたいなぁ。

 僕はおっさんの後を走って追い掛けた。後方から叫び声が聞こえてきた。

 

 「俺に続けええええーい」赤い海パンを穿いたスケボー軍団の隊長は、スケボーを地面に投げ出すと、前に転がって動くスケボーに合わせジャンプして飛び乗ろうとしたら滑って転んで頭と腰を打った。

 

 隊長は「ブホーッ」という変な叫び声を出して顔を赤らめていた。幸いヘルメットをしていたので頭は怪我はなくて大丈夫だった。

 

 「腰が痛たい。マジで痛いわ。あの野郎。許さん」隊長は右足で地面を蹴るように漕いで、逃げたおっさんを追い掛けていく。

 青、白、黒、緑の海パンを穿いた他のメンバー達も隊長に続きスケボーに乗って追い掛けた。

 

 「一体、何事なんだ? お客様じゃないのかい?」イソフラボン・ホットドッグの生みの親、遼太郎(りょうたろう)は娘の遥香に何が起こったのかと事情を聞いた。

 

 「窃盗に痴漢よ。お父さん店のレジのお金は?」遥香は父親の背中をレジの方に向かって強く押した。

 

「あーっ! レジが壊されているううううううー!」遼太郎はフライパンを持っておっさんの後を走って追い掛けていった。

 

 「待って、お父さーん」遥香もフライパンを手にして猛烈な勢いで走った。

 

 おっさんは後ろを振り返りながら走っていた。おっさんの顔が苦悶していた。

 運動不足と年齢のためか足がもたつき出した。

 

 僕はおっさんの横に並走した。おっさんは上着のポケットから盗んだ小銭を出して僕に目掛けて投げ付けた。僕は体を仰け反らせたり屈んだりジャンプしたり小銭をキャッチしつつ、避けた。

 

 おっさんは悔しげな顔を浮かべると、今度は本格的な肉厚ソーセージをジーンズの後ろのポケットから両手で20本(やたらとお尻がいびつな形で大きかった)取り出して、僕や迫り来るスケボー軍団に向かって投げてきた。

 

 イソフラボン・ホットドッグで使うソーセージに違いない。確かにジューシーで美味しそうなソーセージだった。

 大豆で作ったテクニカルなソーセージ。おっさんが投げたソーセージは、ほとんど地面に転がっていた。本当に罰当たりだ。もったいない事をしやがって。

 

 「おっさん、止まれよ。おい、そこのハゲ、早く止まれって。お金や食べ物を粗末に扱うとバチが当たるぞ。止まれ」僕は必死な形相で逃げているおっさんと並走しながら怒鳴った。

 

 「うるさいガキ。お前を殴るぞ。良いのか」おっさんはシャドウボクシングをしながら走って威嚇していた。 

 「シュッ、シュッ。どうだ? このパンチ。必殺の快調パンチだぞ」とおっさんは口で空気を切り裂く真似をして脅してきた。

 

 「おっさん、それはやめておいた方が良い。僕を殴るのは不可能だから。逆におっさんの方が血まみれになるのが見えている」僕は本格的なシャドウボクシングを見せると、おっさんの顔は、薄汚い公衆便所の汚れきって曇った洗面所の鏡のように生気が失せてボヤけ出した。

 

 「おーい、泥棒~。ハゲ野郎~。待てぇーい」スケボー軍団の隊長がおっさんの左側に並走しながら怒鳴った。おっさんは汗だくで息切れをしていた。

 

 おっさんは上着のポケットから札束を取り出して腕を上げながら走った。札束はおよそ20万円くらいはあった。

 おそらく、ホットドッグ屋さんのレジにあったお金だろう、おっさんは腕を振り回しながら走っていた。

 

 「これでどうだ。こんなはした金はくれてやるよ。クソくらえ」おっさんは札束を後に投げ捨てた。

 

 風に舞う札束は散らばるように浮かんでいた。

 不思議なことに、札束は地面に落ちず、しばらく宙を漂っていた。

 窃盗をしたハゲのおっさんは観念したのか、急にしゃがんで胡座をかいた。荒い呼吸を繰り返している。肩で息をしていた。完全にスタミナ切れだった。


 「皆のもの! 金を確保せよ。盗んだら50発お尻を浣腸するぞ」隊長は他のメンバーに命令をした。


 「ヤバイ、了解でーす」他のメンバーは、未だに風に舞いながら宙に浮かんだままの札束に首を傾げて驚きつつも、1枚ずつ丁寧に取っていった。

 

 「隊長、お札は全て確保致しました。合計金額ですが、手元に29万円あります」青い海パン姿のスケボー少年は札束で顔を扇ぎながら言った。

 

 「コラコラ。止めろ! 無礼な事はするな」隊長は青い海パン少年のオデコにデコピンを食らわせた。

 

 「あたたたたぁ~、隊長どうもすみません。失礼しました」青い海パン少年はオデコに唾を付けて擦り出した。

 

 「そんなはずはないよ。2台のレジを合わせて32万円も置いてあったんだからよ」ようやく追い付いた『イソフラボン・ホットドッグ』の生みの親、遼太郎は札束を受け取って数え直した。


 「残りの3万円を出せ」

僕はおっさんの耳元で囁いた。

 

 「知るかよ」おっさんは全く悪びれていない。

 

 「早く出せ」僕は根気強く囁いた。

 

 「ないって」おっさんはニヤニヤしていた。

 

 「あんた、痛い思いはしたくないだろう?」僕は粘り強く話し掛けた。

 

 「おいガキ、さっきからな、生意気だぞ。出過ぎた真似をするとな、快調パンチを出すぞ」おっさんは自慢気に安っぽいパンチを披露して御満悦だった。

 

 「お金を出しなさいよ」遼太郎の娘、『夏子の手作りホットドッグ』の生みの親、遥香はフライパンを振り回しながら威嚇して怒鳴った。

 

 「騒がしいけど、一体どうしたのよう、ダーリン」僕とスケボー軍団は声がする方に顔を向けた。

 

 『いつも勝手ばかりでお面』の代表取締役、柏原アン子さん(自称18歳)が、「3メートルの宇宙人」のピンク色のお面を掛けて立っていた。


 「おいおい、このオバサンは一体なんだ? あはははは」スケボー軍団の白い海パン少年は自分の太ももを叩き、腹を抱えて笑っていた。

 

 「誰ですか?」遼太郎は僕の傍に来ると、不安な顔を浮かべて尋ねた。

 

 「ほら、あそこの出店、お面屋さんの」僕は遼太郎に小声で教えた。


 「ああ、なるほどなるほど。了解しました」遼太郎は頷くと僕から離れて遥香の元に戻っていった。

 

 「うわあああああああ」突然、窃盗犯のおっさんが目が飛び出すほど見開いて叫び声を上げた。

 ムカデのように両腕を器用に使って胡座をかいたまま後ろに下がっていった。

 おっさんの口は開いたままだったので、奥歯が無いのが確認できた。

 「あああああああああ」おっさんの顔には脂汗が流れていた。

 

 「おい、なんだよ、おっさん。うるさいよ」隊長は耳を塞ぎながらおっさんに怒鳴った。

 

 「いやああああああ~ん」

悪夢を見ているかのような顔つきをしたおっさんは、正座すると土下座をした。

「本当にすまん。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。堪忍してくれ」おっさんは柏原アン子に向かって手を合わせて拝み始めた。

 

 「知り合いですか?」僕はアン子さんと一定の距離を保って聞いた。また腕を組まれたり、抱き付かれる可能性があるからだ。

 

 「アイ・ドン・ノォウ。知らんね」とアン子さんは言って肩を竦めて首を左右に振り続けている。

 

 「ひゃははひひふふん」おっさん正座をしたまま自分の両肩を抱いて震えていた。





つづく

ありがとうございます!

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