第30回楠見オールナイト祭り5
「楠見オールナイト祭り」までの道程は大変混雑しておりますので、路肩などに無断駐車をして道を妨げないようにくれぐれも宜しくお願い致します。
会場の近くには駐車場がありまので駐車はこちらの方で宜しくお願い致します。
「竣く〜ん、懐かしい。元気にしていた? 凄〜い久しぶりだよねぇ〜。私の事を覚えている?」と明るくて優しい声で話す女性は背丈が169センチ近くはあるだろうか、化粧をしていて綺麗な方だった。爽やかな笑顔を見せて立っていたけど知らない人だ。
女性は、肩まで掛かる黒髪で、黒いTシャツの袖を肩まで捲り上げて、ギターケースを背中に背負い右手にエメラルドグリーン色の爽やかなバックを下げていた。一体誰だろう?
首もとには紐で括った羽根をモチーフした銀色のネックレス、何本もの向日葵が描かれた丸いペンダントが下げられていた。
ネックレスの小さな羽根は5枚も重ねられていて、ネイティブ・アメリカンが使用するデザインに酷似していた。
女性は1960年代末から70年代中期にかけて流行したデニム製のホットパンツを履いていた。自分で裂いたのか、所々に掠れた繊維見えていた。
『これは、かなり際どいけど格好いいな。攻めているこのフィーリングはアバンギャルドだよ』と僕は思った。
本人がペイントしたと思われる「That's a buff band(パワフルなバンドだよ!!)」と真っ赤な英語が左のポケットの下に書いてあった。
一際目立つ女性の脚は確実に90センチはあると思う。張りのある太ももと締まった細い足首をしていて綺麗だった。もちろん生足だ。
僕は女性の曇りないピュアで綺麗な瞳が眩しくて、見つめられているうちに照れて恥ずかしくなり、挨拶を兼ねて頭を下げると逸らしてしまった。
女性は幼さが残るあどけない笑顔をしていた。何処かで見覚えがある気がするのだけど…。全く思い出せないんだよ。
僕は屋根に引っ掛かった風船を黙って眺めているような感覚と、釣り人が釣竿に餌を付けるのを忘れ、2時間近く経過してから「なぜだか、全然、魚が釣れんわ」と悩み始める頃合いに似た歯痒さも感じていた。
「どちら様でしたか?」僕は気分を害さないように畏まって聞いた。
「なによ。またまた冗談こいて。覚えていない? 私よ」女性は自分の鼻先に指を当てながら言った。
「う〜ん」
「忘れたの?」
「いや、なんとなく見覚えはあるけども……」
「よーく見てごらん」
「う〜ん、なんとなく記憶が、出てきたような」
「ヒントでぇーす」
「はい、どうぞ」
「ヒントその1。『る・き』です」
「えっ!? る・き? はぁ〜!? る…? な、な、何、なんでしょうか?」
「ネームだよ」女性は可笑しそうに笑っている。
「る、る、き、あっ!!」
「はい、そこのハンサムなお兄さん、どうだい? 思い出したかなっ?」
「流川かな? 流川綺羅かな?」
「そうで〜す。綺羅よ」
「流川綺羅なのかい?」
「ピンポ〜ン、正解!」流川綺羅は僕にハグをしてきた。柔らかな体つきからして、だいぶ発育がよろしいようでして。照れるよ。
「綺羅〜っ!! 元気だったのかよ〜、いや〜、久しぶりだねぇ。全然、分からなかったよ。確か、中3の6月頃に引っ越したんだよな?」
「そうそう。よく覚えておいでで」
「綺羅、随分、大人っぽくなったなぁ。凄く綺麗だねぇ。化粧も上手だしさ。いやぁ〜、本当にビックリしたわ。誰かと思ったよ」
「竣くん、凄い真顔だったよ。初対面の人を見るような目だったから辛かったよ。焦ったし、少し悲しかったわ。あははは」
「いやぁ、そんなつもりはなかったけど、こっちも焦ったよ」
「フフフフ」流川綺羅はハンカチを取り出して汗を拭きながら笑った。
「こっちに戻ってきたのかい? はい、どうぞ」僕は自動販売機でメロンソーダを2本買って、1本を綺羅に手渡した。
「嬉しい、ありがとう。頂きます。ううん、違う。楠見オールナイト祭りのフェスでライヴに出演するんだよ」綺羅は美味しそうに喉を鳴らしてメロンソーダを飲んだ。
「ライヴに出るの!?」僕は声を裏返してしまった。綺羅が音楽をしているのは知っていたが、ライヴに出るとは思ってもいなかったので驚いた。
「そう。実家はこっちだけどさ、私だけ引っ越して音楽の学校に通っているんだよ。最近、バンドに加入したんだよ」綺羅は背負っていたギターケースを僕に向けて話した。
「そうだったな。確か音楽学校に行くとか話していたもんな。おお〜、ギブソンじゃんか。綺羅、なんていうバンド名…」と僕は綺羅に言いかけた時、後ろから車のクラクションが聞こえた。
白い小型のトラックの荷台の上に2人の女性が立っていて、綺羅に向かって手を振っていた。
運転席の女性は窓から手を出して親指を突き立てていた。
荷台には紐で固く括られた楽器の機材と思われる物が載せられていて、2人の女性が荷物の見張り役をしていた。
トラックが綺羅の横に着くと「綺羅、どうだった?その方は、知ってる人だったのかい?」と運転席の女性が窓から上半身を乗り出して綺羅に言った。
「うん、小学、中学時代の同級生だったよ」綺羅は照れ臭そうに話していた。
「あ、貴方たちは!?」僕は心臓を鷲掴みされたように驚いて運転席の女性と荷台の女性を見比べていた。
「こちらは瀬川竣くん」綺羅が僕の体を前へと押し出して紹介をした。
「おはよ〜う、竣くん」運転席の女性が手を振りながら挨拶をした。
「あ、貴方たちは!?」僕はあたふたしながら目の前にいる女性たちに向かって同じことを話した。
「竣くんは私たちの事を御存知だったかな?」綺羅はいたずらっぽく笑っていた。
「綺羅。こちらの運転席に座っている方は芽衣さんでしょう? ロックバンドの『ビートズルの夜』じゃないでしょうか?」僕は戸惑った。
新メンバーはギター担当という話は聞いていたが、次世代ガールズバンドの、『ビートズルの夜』に加入したメンバーが、まさか流川綺羅だとは、全く夢にも思っていなかった。綺羅は僕と同じまだ17歳だ。
「竣くん、私ね、『ビートズルの夜』に入れたんだよ〜。凄く嬉しいよ」綺羅は子供のように素直な笑顔を見せて嬉しそうに笑っていた。
「綺羅、やったね、凄いな! ビートズルの夜は期待されているバンドだ。おはようございます。初めまして、瀬川竣です」僕は運転席に座るボーカル&ギター担当の芽衣さんに頭を下げて挨拶をした。
「どうも、よろしくね」芽衣さんは握手をしてくれたので、僕は舞い上がるとまだ蓋を開けていないメロンソーダを手渡した。
「あらまあ、どうもありがとう。ウフフフフ」芽衣さんは驚きつつも受け取ってくれた。
「待っててください」僕は自動販売機に戻って、オレンジジュースとアップルジュースを買うと荷台にいるベース担当のアキさんとドラムス担当の絵凛さんに手渡した。
「どうもありがとうね」とアキさんはアップルジュースを掲げてお礼を言ってくれた。
「嬉しい。ありがとー」絵凛さんは蓋を開けながら言った。
「綺羅、ライヴは何時からあるんだ?」僕はスマホの時計を確認しながら聞いた。
「午後2時頃になると思うよ」
「分かったよ。楽しみだな。綺羅、絶対に見るよ」
「本当!? 嬉しいなぁ。楽しみにしていてね」綺羅はギターケースを揺らしがら話した。
「綺羅、行くよ〜っ」芽衣さんが言うと、バックミラーを見ながら、頬っぺたに付いたまつ毛を取って、そのまま地面に捨てた。
「また今度、ゆっくり会おうね。じゃあね、どうもありがとう、竣くん」綺羅は頬を赤く染めて助手席に乗り込むと窓を開けた。
「綺羅、ありがとう。また会おうね。僕の連絡先を教えても構わないかな? 良かったら綺羅の連絡先も教えてくれるかい?」
「もちろん。喜んで」綺羅はスマホを取り出したので僕は助手席に行くと連絡先を交換した。
「芽衣さん、今は大事な時期ですから、怪我や病気をしないようにしてくださいね。安全運転で車に気を付けてください。綺羅は大切な友達ですので宜しくお願い致します」僕は運転する真似をしながら頭を下げて言うと芽衣さんは「分かりました。了解です」
とピースを出して頷いた。
ゆっくりと走り出した小型のトラックはクラクションを2回鳴らすと走り去っていった。
つづく
ありがとうございます!!
(* ̄∇ ̄*)/~~~




