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第30回楠見オールナイト祭り1

皆さんようこそ! 本日、「楠見町商店街プロデュース・第30回楠見オールナイト祭り」の開催です♪

寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、遊びにおいでよ仲間と一緒に。熱いロックフェスティバルが始まるよう♪


 僕と和雄爺ちゃんは茶の間に行くとカーテンを全開にして、窓を開けたが風が全然入ってこなかった。

 これじゃあ、風がなくて夏バテるよ。

 

 僕はボロいシャツ(絵を描く時のために着用する古着)を脱いでから扇風機とクーラーを点けた。

 空気が回って茶の間が爽快になってはきたけど、少し生暖かいかな?

 

 僕と和雄爺ちゃんは台所に行って鮭のおにぎりを4個作り(二個ずつ分けた)、冷や麦も一緒に作って食べた。

 

 鮭のおにぎりは日本人のソウルフードの1つだ。本当に美味すぎるよね。

 

 鮭はアスタキサンチンを1番含む食べ物だ。アスタキサンチンは若返りの効果があり、アンチエイジングが期待されている。医学的にも効果があるとされているようだ。

 

 鮭のおにぎり、プラス、夏は冷や麦に限るよね。冷や麦はマジで美味いよ。優しい味わいと明るくて爽やかな喉こし。最高だね。冷や麦は大盛り位が丁度いいんだ。

 

 冷や麦を食べると夏だなぁと誰もが思うはず。冷や麦もまた、日本人のソウルフードの1つだ。凄く美味しいよね。

 

 日本食は優しさ溢れた料理が多い。先祖代々から受け継がれてきた伝統の味を現代的にアレンジして進化させることが出来るのも日本食の良い所だと思う。

 

 「竣、テレビのリモコンを取ってくれ」和雄爺ちゃんは団扇を扇ぎながら食後のお菓子を食べていた。

 

 「うん!? ああ。爺ちゃん、いくよ。1、2、3、はいっ」僕はソファーに置いてあるリモコンを和雄爺ちゃんに投げて渡した。

 

 「はい。ありがとう。あれっ!? 8チャンネルのボタンが取れてるぞ。ソファーに落ちてないかい?」和雄爺ちゃんは8チャンネルを指で押し続けていた。

 

 「あー、あったよ。いくよう。ホイっ」僕は黒いボタンを無くさぬようにと和雄爺ちゃんに手渡した。

 

 「サンキュー。竣、それにしても、なんだか暑くないか?」和雄爺ちゃんは湯呑みに注いだばかりの熱いお茶を飲みながら言った。 

 「お茶がかい?」

 

 「いやいや、茶の間全体がさ」

 

 「そういえば、ずっとさっきから生温いねぇ」

 

 「クーラー見てよ」和雄爺ちゃんは孫の手でクーラーを差しながら言った。

 

 「うん」僕は立ち上がってクーラーを見てみた。

 どうやら起動していないみたいだった。

 

 「コンセントは?」和雄爺ちゃんは朝から暑さで汗だくになっていた。

 

 「繋がってるよ」僕はクーラーの裏側や横を見ながら言った。

 

 「おかしいなぁ」和雄爺ちゃんは椅子に上がってクーラーを観察し出した。

 

 「なんでかな?」和雄爺ちゃんは孫の手でクーラーを躊躇いもなく、思いっきりすぎるくらいにガンガン叩き始めた。

 

 「ちょい、ちょい、爺ちゃん、なにしてるんだよ」僕は和雄爺ちゃんの腰を支えながら言った。

 

 「接触が悪いとな、大体は叩けば機械は直るという仕組みになっているはずなんだよ」和雄爺ちゃんは孫の手でクーラーの上下左右を叩き回していた。

 

 「コラ、ちゃんと動け。機械だからってな、今回ばかりは甘やかさないぞ。クーラーが夏バテしたら話にならんぞ。ちゃんとクーラーらしく、恥ずかしがらずに、ビシッと任務を果たして動け」と和雄爺ちゃんは聞き分けのない子供を叱るようにクーラーに怒っていた。

 

 フォ〜ン

 

 「あっ、良かった。動いた動いた。なっ、機械であってもだ、ちゃんと怒る時にガツンと怒らないといかんよ」和雄爺ちゃんは孫の手をTシャツと背中の間に入れてからクーラーを優しく撫でていた。 

 

 「なっ、この子はやればできる子なんだ」和雄爺ちゃんはクーラーと和解すると、椅子から飛び降りて窓に行きスリッポンを履いて庭に出た。

 

 「竣、一緒に庭で水浴びでもするか?」和雄爺ちゃんはホースを手に持つと満面の笑顔で茶の間の中に向けて水を撒いた。

 

 「危ねーっ」僕は慌てて窓を閉めると鍵も閉めた。 

 「アッハッハッ」和雄爺ちゃんは嬉しそうにはしゃいでいる。

 

 「爺ちゃん、またスズ婆ちゃんに怒られるからやめなって」僕は茶の間で和雄爺ちゃんに向かって注意をした。和雄爺ちゃんは耳に手を当て『なんだって?』と言っているようだ。

 

 以前、縁側でスズ婆ちゃんと口論になった和雄爺ちゃんは、口喧嘩が劣勢になったので、裸足で庭に出るとホースを持ってスズ婆ちゃんに水を掛けたことがあったんだよ。

 

 怒ったスズ婆ちゃんも裸足で勢いよく庭に飛び出すと、和雄爺ちゃんの手からホースを奪い取って頭から足元へ、全身に目掛けて水を掛けまくったんだ。

 

 もう1つ、こんな事もあった。和雄爺ちゃんがあまりの暑さだったので、ホースから水を出していたら、物の弾みで縁側から茶の間にかけて水浸しにしてしまったもんだからね、スズ婆ちゃんが物凄く怒ってさ、和雄爺ちゃんに怒鳴りまくったことがあるんだよ。

  

 また茶の間を濡らすような二の舞だけは勘弁だったので、急いで窓を閉めて大正解。


 でもさぁ、和雄爺ちゃんとスズ婆ちゃんは喧嘩しながら芝生の上で向こうまで転がりながらホースの奪い合いをしている姿を見ているとね、笑えてくるし、可愛くてね、若いカップルに負けないくらいの愛があったよ。『愛は歳を重ねて深みが増していく』という感じだったよ。

 

 僕はトイレに行きたくなったので、爺ちゃんに『トイレに行く』というゼスチャーをしてから茶の間を出ていった。

 

 もう少しで茶の間が水浸しになるところだったよ。危ないところの間一髪だった。 

 

 「ハァー」僕は息を吐ききった。本当にトイレは落ち着く場所だよ。僕はスマホで「楠見オールナイト祭り」のサイトを見て本日の情報を確認したり、ポールの情報とビートズルの夜のライヴ時間の確認をした。 

 『今日は楽しいパワフルな1日なるぞ。ウキウキが止まらないね』と思いながらオセロのゲームをした。 

 突然、トイレの小窓を叩く音がした。僕はお腹に力を入れて立ち上がって小窓を開けた。

 

 「誰だ!!」僕は思いっきり怒鳴った。

 

 「俺だ!! 茶の間の窓の鍵を閉めるなよ。早く開けてくれ。うわっ、虫だ」和雄爺ちゃんは頭に纏いつくで虫を手で追い払うと、玄関の方に向かって歩いた。 

 「ごめん、ごめん」僕はトイレから出ると急いで玄関の扉を開けた。

 

 「いやぁ〜、暑いわ。近いうちに庭の手入れもしなきゃならんなぁ。畑の方も心配だ。よし、3日後にしようかな。竣、お前も手伝ってくれ」和雄爺ちゃんはさっきよりも汗だくな顔をしていた。

 

 「分かったけど、熱中症の危険があったら困るよ。今月だけでも2万人近くも熱中症で大変なんだから」 

 「それもそうだな…。時間を決めてやるなら大丈夫だろう。涼しい時間帯にしよう。休憩を多く取って、水分と食事も確り取ろう」和雄爺ちゃんは腕を組んでカレンダーを見ながら考えていた。

 

 「そうだ。友達の山本英二(やまもとえいじ)にも頼もうかな。後で連絡して呼ぼう」

 

 山本英二さんとは、和雄爺ちゃんの小学生時代からの友達で、最近、和雄爺ちゃんのバンドでベースを担当している。

 

 本来は右利きなのに、無理やり左利き用のベースを買わされて慣れないまま使っている。

 誰が買わしたかは言わないでおこう。

 

 山本英二さんはいつも優しくて、寂しがり屋で面白い人だ。ただし、ちょっとばかりウザイ所があるかもしれない。イタズラ好きで世話をしたがるタイプなんだよ。

 

例えばこんな事があった。 

 和雄爺ちゃんと僕で英二さんの家に遊びに行った時の事だ。

 

 「いらないって」と和雄爺ちゃんが言って断っているのにも関わらず、「遠慮しなくて良いんだよ」と遮られて、何かしらプレゼントをしたがったりするし。 

 「和雄、竣くん、今日は泊まっていけよう」とありがたい言葉を言って引き留めてくれるのは嬉しいけれども、「この後、予定があるから無理なんだよ。また今度な。近いうちに来るからさ、その時に泊まるよ」と和雄爺ちゃんが言ったのに、話を聞いていないで、布団の用意をし出していたりするし。

 

 「今日は本当に無理なんだって」と強めに和雄爺ちゃんが言ってもさ、「じゃあ、今から俺がお前の家に泊まりにいくからよう、何も心配いらないし遠慮するなよ」と言う始末だったこともあるし。

 

 和雄爺ちゃんの携帯に朝からイタズラ電話を掛けてきたり、1月1日に年賀状を6枚送ってきたりもするんだよ。1枚1枚に一文字だけ大きく書いて送ってくるんだ。 

 年賀状の5枚には「お」「め」「で」「と」「う」と美文字で書かれていて、6枚目が「いつもより多く書いております。7枚目は希望があれば速達便という形で送ります」とか書いてあるんだよ。

 

 和雄爺ちゃんも負けずにね、新品未使用の年賀状50枚入りワンセットを正月早々に英二さんに送ってみたり、英二さんの家に、お寿司さんに2人前の「こはだ」だけを注文したり、もちろん、和雄爺ちゃんが支払っているけども。

 

 お互いにイタズラをし合って、2人だけで楽しんでいるから、どっちもどっちなんだけどね。

 

 2人とも少年の心を持つ老人といった感じかな?

 

 英二さん、お中元も頻繁に贈ってくるんだよ。

 

 「おいおい英二、いい加減にしろよ! 1回で十分なんだってよ」と和雄爺ちゃんが英二さんに電話したら、後日、英二さんから、また御詫びのお中元が届くんだよ。

 

 家に和雄爺ちゃんとスズ婆ちゃんに毎年たくさんの方から、お中元が届くんだけども、際立って英二さんのお中元が断トツに多い。

 

 何度も玄関に行って、英二さんからお中元を確認してから判子を押す度に、苦笑いの配達のお兄さんと顔見知りになっちゃったし。 

 英二さんは和雄爺ちゃんと遊んだり仲良く触れ合えることが嬉しすぎて、世話を焼きたがる傾向が多いのが特徴ともいえる。

 それも英二さんの優しさと考えたら、ありがたい話ではあるんだけどもね。

 

 本当のところは、かなり迷惑だけれども、鬱陶しいくらいが丁度良いという熱い気持ちの人間関係を尊重する考えが和雄爺ちゃんと英二さんにはあるんだよ。それが2人のルールというか基本的な礼儀みたいになっている。

 

 いつまでも変わらずに仲が良いのは素晴らしいことだけどもね。 

 

 もう1つだけ言うとね、英二さんに劣らず、和雄爺ちゃんのしつこさについてだけども。

 

 前にこんな事もあった。 

 「爺ちゃん、もうそれはいらないって。持っているから、いいって!!」と何回も断っているのに、ビートルズの「ラバー・ソウル」のレコードをプレゼントしてくれるんだよ。

 

 「竣、凄いだろう。発売当時のイギリス盤のレコードだからマジで高かったんだよ」とか言ってくるんだよ。 

 

 「それ、前も同じことを言っていたよ。爺ちゃん、ビートルズのレコードを見つける度に癖で買うなよ。爺ちゃんが持っていろよ」と言ったら、「俺も5枚持っているから、いらない」とか言ってくるわけ。

 

 僕もイギリス盤のレコードだけでも既に3枚も貰っているんだよ。どうせならさ、発売当時のアメリカ盤の「ラバー・ソウル」が欲しいよ。イギリス盤とアメリカ盤は収録曲が別物になっているんだ。

 

 まあ、とにかくだ…。熱い祭りがやって来るということで。

 

 今日から3日間、毎年、開催の恒例の「第30回楠見オールナイト祭り」は、熱い気持ちのぶつかり合いと、カオスと控え目な気持ちが、若干、入り交じっているお祭りでございます。 

 メインはもちろん「ロックフェスティバル」なんだけどもね。

 

 今回の「楠見オールナイト祭り」も、一体、どうなるのかは誰にも分からないし、ハプニングや、ロマンティックが止まりずらい、ような事が起こりそうな予感がするんだ。本当に凄く楽しみだよ。

 

 胸がね、ドキドキ、キュンキュン、ドキ、キュンキュンなんだよね。ハハハ。 

 僕はソファーに座って、お茶を飲みながら寛いで時間を見た。午前6時まであと5分。「楠見オールナイト祭り」、本日開催なり。




つづく


ありがとうございました♪水分、塩分補給をしっかり取ろうよ、楠見町は、夏だぜ、ベイビー♪

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