楠見オールナイト祭り
久々の新作です。新しいシリーズになります。夏のフェスティバルは暑いけど最高ですよね。今回、あの方が来るという話になっているのです。ではでは楽しんでください。
僕はシタビズミ温泉で楽しい時間を過ごした美華と、はしゃぎながら「カナリア公園」まで歩いた。
僕の右手には桶にいれたシャンプーや洗面用具、左手は持参していたコンパクトなエコバッグが下がっていた。
中身は帰宅中にコンビニに寄って買った梅のおにぎり2個と、麦茶のペットボトルが2本入っていた。
カナリア公園で美華ちゃんと一緒に食べるつもりだ。
僕と美華ちゃんは、ほとんど同時にスマホを見た。電話が届いた。
「あっ憲二だ」
「亜美ちゃんからだ」
『竣、今、美容室「ブルームーン」の前にいるんだけどね、窓にポスターが貼ってあったんだわ。後でポスターの写真を送るけどもさ、ポスターの文章が長いんだよ。とりあえず、文章を読むから聞いてね。
『【今年も楠見は祭りをやります。20××年8月×日から3日間。
楠見商店街プレゼンツ。第30回楠見オールナイト祭り開催。
開催日時は×日AM4時から3日後のAM5時まで。
出店数は80店舗になりました。ご参加どうもありがとうございます。
昨年、好評だった激戦の祭りもやります。
スイカ割り大会、
梅干しの種飛ばし大会、
愛する人に叫び大会、
真夏の相撲大会、
サッカー白熱のPK戦、
タレントも来てくれます。
タレントの黒山タコさんのトークショー、
シンガーソングライターの沢藤論さんのトークショー、
ロックシンガーの澤木よね子さんのトークショー、
ジャズピアニストのエレンさんのトークショー、
ローカルアイドルグループのKUUSUMI組から、ミラちゃんとリエちゃんが参加するジャケン大会、
フォークシンガーの曽羽佳子さん涙の引退ファイナルライヴ、
最近、話題沸騰っぽいガールズバンドの『ビートズルの夜』も参加します。
あのボブ・ディランの親戚の、親戚の、親戚の、親戚の、友人の、妹の、彼氏の弟の、友達の隣に住んでいるお婆ちゃんの、孫のトムが作ったロックバンド「ガーベラーズ」も新作アルバムを引っ提げてロンドンから来日、初登場です。
デビュー・アルバムがヒットチャート7位を記録した期待の新人ディーバの、ミス・カスミも2度目の参加をしています。
※
他に参加するミュージシャンは30組あります。
異種格闘戦もあります。
ヨーヨーチャンピオンVSお手玉チャンピオンのにらめっこ3本バトル、
乳首チャンピオンと乳毛チャンピオンの和解調印式などなど、盛りだくさんのイベントが開催されます。
無名のピエロも来ますよ♪
無名の俳優のサイン会もありますよ♪
<緊急告知!>
・あのポールが遂に来日!
海外からスペシャルゲストを迎えます。
あのポールが楠見オールナイト祭りに初参加することが決定致しました。
半年間の交渉の末に遂に夢が叶いました。
念願のあのポールを呼ぶことができたのです。
世界の文化を変えた、最強で最高のロックバンドの偉大なベーシスト、あのポールが遂にやって来ます!
あのポールによる一夜限りのドリーム限定ライヴも決定を致しました。観覧は無料になっています。楠見オールナイト祭りは歴史を目撃することになる。皆さん、ご期待ください!】』と書いてあるんだわ。竣、明日、楠見オールナイト祭りに行こうぜ』
『えーっ!? ポ、ポールが来るって!? マジかよ。凄い事になったね。憲二、もちろんOKだよ。行くぜ。それにしても憲二、ミュージシャン8組のうち3組がトークショーってさぁ、ちょっと残酷すぎじゃないのかな?』と僕は急いで憲二に話した。
『本当だよな。ビートズルの夜や曽羽佳子さんも来るんだね。来ると噂されたサマンサ・レディオ・ゲルマニウム・リズムズはどうなったんだろうね? トークに自信があるミュージシャンも中にはいるからね。竣、前に、1時間のコンサートで58分間も喋っていた変なミュージシャンがいたよ』
『常識の範囲を越えた奴だね。スゲェなぁ』
『とりあえず、ポスターの写真を送付しまぁーす』
すぐ憲二から『楠見オールナイト祭り』のポスターの写真が送られてきた。
僕の住む町から僅か800メートルの距離に町の境界線があって、隣町が楠見町だ。
楠見町では、毎年、楠見商店街がプロデュースしている、『楠見オールナイト祭り』が8月に行われていた。
楠見オールナイト祭りは大人たちが『楠見町のウッドストック』と勝手に呼んで盛り上がっている恒例のお祭りで、今年で数えて30回目を無事に迎えることが出来る立派な局地的な祭りであった。
一方の美華は。
『美華ちゃん、あのさ、明日ね、うんとね、楠見オールナイト祭りがあるんだけどさ、一緒に行こーう♪ 本当にスゲェーお祭りだからさ、ビビんなよ〜。イエーイ。ではではバイバイビー』
『亜美ちゃん、分かったよ〜。祭りに行きたいのでヨロシクね。楽しみにしています。どうもありがとうね、亜美ちゃん』
「竣くん、今、亜美ちゃんからの電話でね、明日、く、す、み、かな? くすみで良いのかな? 楠見オールナイト祭りというのがあるんだって。一緒に行こうよ」美華ちゃんはぴょんぴょん跳び跳ねていた。
「えーっ、偶然だね。あははは。美華ちゃん、憲二も同じ内容の電話だったよ」と僕はスマホを美華ちゃんに見せた。
美華ちゃんはスマホを覗き込む時に髪を掻き上げて髪を左耳に乗せた。
洗い立ての美華ちゃんのシャンプーの匂いが僕の胸を熱くした。
「本当だぁ。えっ、ポールが来るの!? すごーい。憲二くんと亜美ちゃん、大体同じ電話だね。あはははは」と美華ちゃんは白い綺麗な肌をピンクに染めて可愛い笑顔で笑った。
「美華ちゃん、明日、一緒に行こう。祭りは3日間もあるので、ポスターも3日分あるんだよ」
「えっ!? 竣くん、それはどういうことなの?」
「楠見オールナイト祭りはね、3日間連続で開催する祭りだから、1日置きに違うゲストが登場したり、新しい大会が増えたりするんだよ。
このポスターは1日目のポスターでね、2日、3日は別なポスターに切り替わるんだ」話しているうちに僕の気持ちは興奮してきた。
「楠見オールナイト祭りって、凄い太っ腹な祭りなんだね」美華ちゃんも興奮していた。
「一言で言うならば、ロック・フェスティバルなんだよ」
美華は前に住んでいた北海道の祭りを思い出していた。
北海道でも連日行われる祭りがたくさんあるが、楠見オールナイト祭りみたいな、毎回、ゲストや催し物や大会が変わる祭りは非常に珍しかった。
美華が楠見オールナイト祭りで何よりも驚いた事は24時間も通してやる祭りだということだった。
ウッドストックをモチーフした祭りということらしいが、美華はウッドストックを知らなかった。
ウッドストック・フェスティバルとは、1969年8月15日〜17日までニューヨーク州のベゼルの郊外にある農場で開催された伝説のロックフェスティバルのことだ。
主催者が「まあ、たぶんだけども、観客は大体、10〜20万くらいは来るだろうなぁ。よーし、有料にしよう。初めてだから、よくわからない事もあるんだけども」と言ったのだが、実際に来た観客は50万人以上を越えてしまって収集がつかなくなり、狼狽えた主催者が「どう、どうしようかな。あは、あはははは。こりゃヤバイな。あはははは。無料にしちゃおう」となったのだ。
ウッドストック・フェスティバルは『音楽の力で世界を変える。音楽の力で必ず時代を変えることができる』と全ての人が信じていた激動と情熱の時代に行われた、60年代の最高峰のロック・フェスティバルの事だ。
出演したミュージシャンの面子が凄すぎて堪らない。
それ以前にも、フェスティバルはあったのだが、明確にロックと名称にされたウッドストックこそが(理想の世界へ行くために必要な)フェスティバルの象徴的な存在と言ってもいい。
音楽業界からミュージシャンへの搾取もなくて、組織や主催者が純粋な思いや心を持って作ったフェスティバルと考えて、まず間違いがない。(ウッドストック・フェスティバルとは、愛と平和の3日間とも言われている)
(楠見オールナイト祭りかぁ。一体、どんな祭りになるんだろう?)と美華は、ときめきに似た胸の鼓動を感じていた。
つづく
ありがとうございました♪また、投稿しますので、宜しくお願い致します!




