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Don't Cry

緒川四季は美華たちに好かれています。今回、2回目の登場となる四季は、あんなことをしたので、こんなことになったり、美華も四季の考えに納得したりと、今回も女の子たちの楽しい時間を堪能してくださいね!「シタビズミ温泉シリーズ」になっていますが、宜しくお願い致します!温泉、お風呂は最高ですよね!!

 美華は1分20秒頃、胸から腕にかけて、痛みに似た痺れのような感覚に襲われた。


 我慢して熱さに耐えたので体に無理な負担が掛かってしまったようだ。


 「ヤバい、ちょっと本当に胸と腕が同時に痛い。急に張ってきた感じだわ」体を浮かすといけないので、美華は湯船の中で両手を背後に回して組むと、一度、猫背にしてから首を後ろへ反らし、胸をゆっくりと前に出す形の準備をして、一気に両腕を後方へ槍のように突き出して伸ばした。理に敵った本格的な胸と両腕のストレッチだった。


 「ふぅー、少しは楽になったけど熱さは堪らんね」美華は鼻で空気を吸うと頬を膨らませて息を吐ききった。美華は戦う体勢を取り戻した。


 「あちーいよ、熱ーい。熱いなー。ど〜うしよ〜うかなぁ〜っ?」亜美は限界のために立ち上がろうとしていたが、何気に隣にいる瀬都子を見た。

 

 「瀬都子の頑張りぶりに負けてたまるかよ」と亜美は気迫を込めて言った。亜美は湯船の中で決意の胡座をかいた。


 瀬都子はヤバかった。熱さで入浴時間の限界はとっくに過ぎていた。 

 

 女教師へのリベンジを手助けしてもらった皆へのお礼と、恩返しをしたいという強い気持ちが瀬都子を湯船に留まらせていた。

 

 瀬都子は温泉の熱さと同じくらいの情熱を持って耐えた。間もなく2分を迎えようとしていた。


 「まだまだ、熱さが欲しいって思うんだよね」梨香は不甲斐ない形で終わらせるのは野暮と悟り、かなりの気合いが入っていた。

 

 暑い中で熱々のお茶や激辛のカレーライスを食べたり、誰よりも先に克服した「カラッシュシタツン」を食べることが梨香の楽しみとなった今、自称、辛口映画評論家の激辛好きにちなんで、ここで負けて終わらせるわけにはいかない。


 「うーん。皆、初心者にしては中々の耐えっぷりだわねぇ」四季は熱湯に入れる仲間が出来て嬉しそうだった。

 

 『君のことが好きだ湯』の他に残り6つの熱湯温泉があることを皆は忘れかけていた。


 7つの温泉をクリアした暁には、豪華な賞品と制覇した記念として自分の写真が額縁に入れられて、1階のホールで展示されるとの話だった。

 

 豪華な賞品を楽しみにしている人が多くて挑戦者が後を絶たなかった。

 

 美華たちが戦っている最中にも他のお客が入ってきた。


 「あつーい」


 「いや〜ん」


 「あ〜ん、あ〜ん」


 「あつつつつ」


 「アチャー、熱い」とおば様方や若き乙女たちが、空いているスペースに次々と入ってきては脱落をしていった。


 四季は止めどなく流れる汗が額から瞼に落ちて目が見えにくい。中々、砂時計を確認できないでいた。


 「熱いし、ヤバいし、水が飲みたいなぁ。キンキンに冷やしたレモンジュースはスカッとさっぱりだし、メロンジュース、アイスクリームなんてもう最高。私、最近ね、ストロベリーのかき氷が好きなんだよね」と四季は、ここで心理作戦を開始した。

 

 一斉にゴクリと唾を飲み込む音がしてきた。


 「四季さん、カフェ『ファイン』という所を知っていますか?」美華は四季の作戦に返答するようにして話し掛けた。


 「うん、知っているよ。街に出来た新しいカフェだよね?」四季は花開くような明るい顔をしてカフェ『ファイン』を思い出した。 


 「『ファイン』のチョコレートパフェが滅茶苦茶美味いんですよ。私、大好きなんです。チョコレートパフェ。ところがね、四季さん。あずき味の、かき氷が彗星の如く新作メニューに載りまして、もう、あんた(歳上の緒川四季のこと)、スッゴい美味しくて、確実に2杯は食べたくなるんですよ。なんでも北海道産の高級あずきを使用しているんだとか。四季さんは、あずき味はどうですか? あずき味のアイスって、心に染みるんですよねぇ〜っ」美華は四季の作戦を受けて立つと返し技の心理戦に打って出た。


 「あ、あ、あずき味。あははは。あずき味はさ、めちゃ美味いよね」四季はあずき味のかき氷が大好物だった。

 

 深みと程よいまろやかな味。口に広がる銀河の煌めき。繊細なあずきのリズム。色っぽい大人の色合い。自己主張ではなくて、一歩下がって控え目な大きさと形ぶり。あずき味のかき氷やアイスクリームは思春期の恋から大人の恋へと変わりゆく味そのものだった。


 「私が好きなのは、やっぱり、バニラ味のソフトクリームだな。螺旋階段みたいな巻き巻きとしたあの形は幸せのシンボルだよねぇ。やばい、食べたいよ」と亜美は左手でソフトクリームを持って食べる真似をした。


 「う〜む。そうよね、確かに。バニラ味のソフトクリームも最高だよね」四季は墓穴を掘ってしまった。

 

 自らアイス系の話をすれば喉の渇きを感じさせる事で脱落への誘い道を促せると思い、結果的に四季が完全勝利となる予想のはずが、四季自身もヨダレを我慢する羽目となってしまった。


 案の定、全員がヨダレを垂らしつつあった。


 「私は、やっぱりチョコレートシェイクだなぁ〜。あのクールな味は病みつきになるよ。ストローで吸うのも良し。小さなスプーンで小まめに口に運ぶのも、もちろん、よーし。むふふふ。グフッ。じゅるり」梨香は顔を綻ばせて笑っていた。

 

 梨香はチョコレートシェイクを食べているように口をしきりにパクパクと動かしていた。


 「うんうん。チョコレートシェイクよね。チョコレートシェイクは美味しくて堪らんよね。チョコレートシェイクってさ、職人技を駆使する左打ちのテニスプレイヤーみたいなんだよね」と四季はお腹を減ってきたのでお風呂の中でお腹を擦っていた。


 「私は、メロン味のシャーベットですかね。あの実直で素直な形には、惹かれるものがありますし、余計な装飾を施していない事に好感を持ちますね」瀬都子は曇った眼鏡を頭に掛けると温泉で顔を洗った。

 

 「熱ーい。間違えたわ。熱湯で顔は洗えない」瀬都子は恥ずかしそうに顔を赤くすると苦笑いをした。


 「メロンシャーベットは美味いんだわ。メロンシャーベットはマーメイドが好んで食べたという言い伝えが有るとか無いとか」と四季は頷きながらヨダレをさりげなく拭いた。

 

 四季は裏目に出ててしまった自らの作戦に完全に呑み込まれていた。


 「あと残り、魅惑の40秒だよーっ!」と四季のお婆ちゃん、緒川こずえさんは叫んだ。


 「クッ」美華は歯を食い縛って耐えていた。


 「よし。あっふ〜ん、あっふ〜ん」と四季は、こずえお婆ちゃん直伝の呼吸法に切り替えて逃げ切りたいところだ。


 「熱いと思うと、この温泉の思う壺だから熱くないよ」と梨香はお湯にいっちゃもんをぶつけていた。


 「悪い! あたしは、わたしは、あたいは」亜美は無念のリタイアをここでしてしまった。

 

 亜美、脱落。

 

 「ウォーターフォールズに行きたいよ〜」と亜美は言って温泉から出て水飲み場まで小走りをした。


 「ここまでか。無念」瀬都子も周りに飛沫を出して温泉から出ると亜美の後を走っていった。


 最後の決着、残り3人で決まるとなった時だった。


 アヒルのオモチャで遊んでいた女の子、2人のうちの1人、怜子(りょうこ)ちゃんが「君のことが好きだ湯」にアヒルを落としてしまった。

 

 怜子ちゃんは、慌ててアヒルのオモチャを拾おうと腕を伸ばした次の瞬間、怜子ちゃんは誤って「君のことが好きだ湯」に落ちてしまった。

 

 「あー、怜子が落ちちゃったよーう、うゎーん、うわぁーん」怜子ちゃんのお姉ちゃんの優子ちゃんが泣き出した。

 

 「あちゅいよ〜う!」怜子ちゃんは届かない湯船に足をバタつかせて溺れかけていた。

 

 怜子ちゃんの顔は苦悶に歪んで目を閉じたり開いたりしていた。怜子ちゃんは腕を上げたまま湯船に沈んでいく寸前だった。


 美華は険しい表情を浮かべて素早く立ち上がると、湯船の中を大股で走って怜子ちゃんの傍に行き、抱き抱えて、怜子ちゃんを急いで温泉から出してあげた。 

 

 美華はアヒルに気付いて手で咄嗟に取り上げると、怜子ちゃんの胸元に押し込むように戻してあげた。


 怜子ちゃんの母親は2人の娘の泣き声を聞き異変に気付いて駆け寄ってきた。

 

 「コラッ、怜子。優子も。危ないじゃいの。あの熱い温泉に近づいちゃダメだって何回も言ったでしょうが!!」と母親は怜子ちゃんの体に冷たいタオルを当てながら怒鳴った。


 「助けて頂いて、本当にどうもありがとうございます。すみませんでした。私の不注意でこんなことになって」と母親は美華に何度も頭を下げてお詫びを繰り返していた。


 「いえいえ。全然、大丈夫です。娘さんたちは何も悪くないですよ。アヒルが突然逃げ出したのがいけなかったんですよ。ねっ、怜子ちゃん」美華は優しく怜子ちゃんに微笑んだ。


 「ほら、怜子、お姉ちゃんに御礼を言いなさい」


 「お姉ちゃん、どうもありがとお」怜子は恥ずかしそうに母親の後ろに隠れると、アヒルのオモチャを桶の中に入れた。


 「大丈夫で良かったね」美華は自分の熱い顔をタオルで拭きながら怜子ちゃんの頭を撫でていた。


 「では失礼致します。本当にどうもありがとうございました」と母親は2人の娘の手をしっかりと握りしめて自分達の席へと戻っていった。


 美華は体の力を抜いた。安堵をして後ろを振り返ってみると四季も梨香も温泉から出ていた。亜美と瀬都子も美華の傍に来た。

 

 「勝者は?」と美華は照れながら笑っていた。


 「今回、この勝負は引き分けとします」と四季は野球の審判が判定をする時のように両腕を横に広げてセーフのポーズをした。

 

 四季は優しい笑顔を浮かべて美華と梨香に両手で握手した。


 「美華ちゃん、偉かったねぇ」梨香は美華の頭を撫でながら半分泣いていた。

 

 「あの女の子が溺れかけた時、私ね、突然だったから驚いて体が動かせなかったの」と梨香は少しだけ、しょげていた。


 「ううん。女の子は梨香ちゃんから遠い距離だったし、私の方が近い位置にいたから、すぐに体を動かせたのよ。梨香ちゃんは何も悪くないのだから、変に抱えて心配はしないように。自分を責めないようにね。

 

 もし、梨香ちゃんが私の位置にいたら絶対に梨香ちゃんだって同じ行動をしたはずだよ」

 

 「美華ちゃん、どうもありがとう。そう言ってもらえると救われます」梨香は美華の頭を優しく撫で続けていた。


 「よーし、あとで温泉から上がったら皆にアイスクリームを奢っちゃうよ!」四季はタオルを首に掛けて左右に素早く動かした。

 

 「やった、四季さん、ありがとーう」と美華は四季の顔をタオルで扇いだ。


 「どうもありがとうございます」と瀬都子は眼鏡を湯船に浸し湯気で曇ったレンズを見えるようにした。

 

 「四季さん、もし、売店にジャンボバニラソフトクリームがあったら、頼んでもいいですか?」と亜美は訴えるような眼差しで四季を見つめていた。


 「うむ。よろしいよ。今は成長期だから、ちゃんといっぱいお食べなさーい」と四季はサッカーでゴールした時のように踊り出した。 

 

 「わーい、ありがとう」と亜美も一緒なって踊り出した。


 「ではお言葉に甘えまして、私はメロン味のソフトクリームでお願いします」と梨香はおでこにタオルを当てて深呼吸をしていた。

 

 「いいよ~」と四季は背中を掻きながら何度も頷いた。


 「四季さん、お金は大丈夫なんですか?」と美華は心配そうな顔をして恐る恐る聞いてみた。

 

 「大丈夫、大丈夫よ」と四季は美華の肩を叩いて豪快に笑った。





つづく


ありがとうございました!また宜しくお願い致します。


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