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合理的と人道的は共存しない

「そこのお侍さん、助けてください。 えっ・・・。ちょっと待って。助けてくださいってば」

 子供の呼びかけを無視して歩き続ける男。

後ろから腰をつかまれたが、そのまま引きずって歩き続ける。


「何で、そこまで無視するの?」

「えっ? さっきから俺のことを呼んでたのか?」

「そうだよ。」

「俺はてっきり『妖怪すねこすり』の仕業かと思って、わざと無視してたんだけど」

「何なの! そのマイナーな妖怪!」

「知らないのか? 四国のほうではな、」

「四国の話はどうでもいいよ! ここは関東なんだから・・・。普通、いたいけな子供が呼びかけたら、足を止めるのが大人ってもんじゃないの?」

「いたいけって・・・。そういう褒め言葉は人から言ってもらうもんだし、自分で言うなよ。自信持ちすぎだろ・・・。」

あらためてその子供の姿を見てみたが、田舎の小汚い小僧でしかない。


「とにかく助けてよ。」

「やだ。そんな荒っぽい頼み方だったらなおさら。」

「じゃあ丁寧に頼んだら?」

「残念! 結論は変わんないな。」

「じゃあ、僕は頼み損ってことでしょ?」

「そうだよ。お互い、損はしないほうがいいだろうから、ここでさよならってことで。」

「助けてよ!」

「だから主語・述語がさっきからないの、お前の話には。」

「じゃあ、きちんと話を聞いてくれる?」

 

「あのな、坊主、俺も色々と忙しいの。とりあえず日が暮れるまでに、隣街まで行っておきたいんだよ。」

「隣街? 何の用事で?」

「夜になったら、きれいなお姉さんのいるお店に行くとかな。」

「汚い大人め! そういうお店なら、この街にだってあるよ。」

「知ってるよ。さっき見学してきたからな。しっかしひどいレベルだったぞ。」

「ひどいレベルってどういうこと?」

「坊主は好きな子とかいないのか?」

「その質問には基本的に答えられません。」

「何で急に固い言い方? まあそれはそれとして。誰でも個人的に好きな顔ってあるだろ?」

「質問の意図がよくわかりませんが?」

「何か政治家と話してるみたいだな。お前、本当はいくつなんだよ?」

「6歳だけど。」

「嘘つけ! すごい童顔のおっさんだろ、正体は。」

「気持ち悪すぎるだろ!」


「わかったわかった。信じてやるよ。で何があったんだよ? 実際のところ。」

「浪人がうちの家に立てこもってるんだ!」

「それは大変だな・・・。じゃあ一応、話は聞いたってことで、隣街に行っていいか? もうそろそろ俺の息子の我慢も限界だ。ていうか暴発寸前。」

「何の限界! しかも、もう義務を果たしたつもりなの? 」

「じゃあ何をしたらいいんだよ。」

「だからうちのお父ちゃんを浪人から助けてよ。」

「だからやだってば。」

「そんな人でなしなことばっかりやってると、みんなに呪われるよ?」

「呪いか・・・。もう充分呪われてるんだよ・・・、俺は。」

 急に暗い顔をする男。


「なら、さらに僕も呪うよ。」

「・・・せっかくかっこつけたのに、かぶせて台無しにするなよ! あとダメ押しに呪わないで。」

 

「すげー人だかりができてるな、あれがお前の家か?」

「そうだよ。早く来てよ。」

「慌てんなって。これだけ人がいればきっと親切な人もいるから、その人が助けてくれるはず。」

「そんなに世の中は甘くないよ。」

「6歳なのに人生わかってるな・・・。」

「とか言って、だいぶ手前で足を止めないでよ。」

「大体、お前は俺に何をさせたいんだよ? 言っとくけど俺、喧嘩は超弱いぞ。念のためにもう一回言っておく。超絶的に弱いからな!」

「そんなドヤ顔なのはなぜ? だってそんなに立派な刀を持ってるじゃないか?」

「立派? そういうことか! 坊主、それは大きな勘違いだ。」

「どういうこと。」

 スラリと刀を抜く


「何コレ?」

「何って、これが俺の刀だよ。」

「刃の部分が妙に短くない?」

「短いよ。だってそういう刀だからな。」

「って言っても10㎝くらいしかないじゃん・・・、刃の部分。柄の部分は普通なのに。」

「そうだよ。だってそういう刀だからな。」

「2回、言わないでよ! 騙された~。見た目にコロっと騙された~。てかダサッ。」

「だから最初から喧嘩弱いって言ってんだろ、こんな刀でどう戦えっていうんだよ。」

「じゃあ何で持ってるのさ? そんなダサ刀。」

「ダサ刀って言うな! 旅ってのは危険がいっぱいだし、立派な刀を腰に差しておけば、山賊とかもビビるだろ?」

「せめて鞘は、刃の長さに合わせなよ?」

「やだよ。かっこ悪いだろ、そんなおもちゃみたいな刀。ハッタリにもならねえし。」

 家の中から怒号が聞こえる


「今、お前の家に立てこもってる奴、何て言ったんだ?」

「わかんないんだよ。声はものすごく大きいんだけど、声がしわがれちゃってて。」

「何か本末転倒だな・・・。実は普通の内容を話してるだけかもしれないぞ?」

「でも玄関先で出会った瞬間、うちの父さんにいきなり刀を突きつけたんだ。その後、うちの家に引きこもってて。」

「お前の父さんが、実はものすごい悪人なんじゃないのか?」

「何てことを言うのさ! 子供に対して」

「お前の父さんの職業は?」

「わかんない・・・。」

「は?」

「正直、わかんないんだ。家にはお金がたくさんあるんだけど、日中はただ寝てるだけだし、夜に目覚めては、お酒を飲んでまた寝ちゃうんだ。」

「寝すぎだろ! お前の親父。結局、一日中ずっと寝てんじゃねーか・・・。って、猫か!」

「うちのお父さんは立派な人間だよ。」

「たとえだよ。あと絶対にクズ人間だからな!」

「すみません。それは認めます・・・。」


「でも家には金があるのか? ちなみにお前の母親は?」

「それもわかんない。僕が生まれてすぐに死んじゃったって話だし。」

「何か嘘くさいな・・・。でもゴロゴロしてて暮らしていけるなら、俺と立場を変わってもらいたいくらいだ。」

「でも父さんは悪い人じゃないよ。」

「甘いな、坊主。本当に悪い人間ってのは、人に悪いとこなんて見せないんだよ。それにゴロゴロしているだけの親父が何で玄関先で襲われるんだ? ずっと家の中でゴロゴロしているはずだろ?」

「それは・・・。僕がたまには、一緒に外に出ようって言ったから。」

「そうなのか・・・。結論が出た。今回の全ての元凶はお前だ!」

「だから何てことを言うのさ! 実際、そうかもしれないけど・・・。」


「まあ、親父が死んだら全て、お前の責任ってことになるが、その前にあの男に話を聞いてみないとな。」

「ダメ押ししないで・・・。でも、助けてくれるの?」

「それは報酬の額次第だな。いくら出せる?」

「僕は子供だから、貨幣価値がよくわからないよ。」

「だからちょいちょい子供らしさを武器にするな! まあいいや。それについてはまた後で相談しよう。」


「よし。じゃあ坊主、とりあえず家に入ってみろ。」

「やだよ! あの男がいきなり斬りつけてきたらどうするの?」

「よけろよ。それは。」

「子供には無理だよ。避けて当然っていう顔で言わないでよ!」

「だってお前の家だろ? 間取りとかよく知ってるはずだし。」

「それはそうだけど・・・。」

「大丈夫。お前の瞳の中の『やる気』を俺は見抜いている。さあ行け、小さな勇者よ。」

「僕をだまそうとしてない?」

「してないよ。俺の目を見てみろ。」

 見つめ合う2人。


「・・・濁ってるよ。これ以上ないくらい濁ってるよ。」

「大丈夫だ。何かあったら俺が守ってやる。」

「多分、嘘だと思うけど、とりあえずありがとう。でもせめて刀は構えておいてよ。」

「やだよ。ここで刀を抜いたら、見物人達に馬鹿にされるだろ?」

「僕の命より、そのちっぽけなプライドのほうが大事なの?」

「当たり前だろ! 何で出会ったばかりのガキのせいで、俺がみんなから笑われないといけないんだよ!」

「言い切ったね・・・。言い切ったね。」

「では行こうか。」

「もしもーし、これから強いお侍さんを連れて家に入りますよ~。立て籠もってる人!」


「おい! 坊主、何でそんなことをあらたまって、相手に対して言うんだよ。」

「あちらサイドにも心の準備が必要かと。」

「いらないだろ、その気遣い。お茶でも出してくれんのか?」

「あっ。戸口が開いた!」

「自ら出てくるのか? そうだとしたらこっちとしては楽だが。相手はアホだ。」

「アホなの?」

「籠城してたほうが戦いやすいだろ~。あっ、出てきやがった。アホだ、あいつ。」


「うちの父親を右手で押さえつけて、左手に刀を持ってますね。」

「ナイス解説!」

「そちらの人、うちの父を解放してください。あなたは完全に包囲されています。」

 男は騒ぎ立てていたが、相変わらず何を言っているのか、わからない。


「そちらの方、助けてください。この男は狂っているんです。」

 人質の男がこちらへ話しかけてくる。


「そうなのかもしれないが、実際、何て言ってるんだ? さっきから」

「それはわかりません。最初っからそうだったんですよ。」

「坊主、あの浪人は最初からあんな声だったのか?」

「最初からです。」

「お前の親父、やっぱり怪しいって。」

「僕も・・・そんな気がしてきました。」

「おいおい・・・。冷たいな。お前の実の父親だろ?」

「DNA鑑定をしたわけではないので。」

「疑いすぎだろ!」

「よくよく考えると、あんなダメ人間の種から僕のような子供が生まれるのはおかしいと、」

「そこまで言うか! じゃあ助けなくていいだろ、親父を。」

「私は客観的な事実から推測しているだけです。ただし父は救い出したい。これは平等な人民への愛によりです。」

「お前、本当はすごい男かもしれないな。」

「いずれそうなりたいですが。」

「よし。じゃあ色々な疑問を氷解させるか!」

 男は剣を抜き放った。


「あの刀、ダサッ。」「何あれ、刃がほとんどない」「包丁?」「ていうかフルーツナイフ?」

 民衆が騒ぐ。


「だから嫌だったんだよ。」

 男は玄関先にいる2人に近づくと、何のためらいもなく、人質になっている父親の両足を刺す。


「えええ! 何でお父さん(しかも両足)を刺すの?」

「人質を移動できなくすれば、犯人はどうするか知ってるか?」

「どうなるの?」

「だいたい2パターン。①人質を捨てる、②やけになって人質を殺す。」

「②だったらどうするんだよ!」

「それはそれで、戦いやすくなっていいだろ?」

「合理的だけど、人道的には間違ってるよ、あんた。」


「あっ。坊主、どうやら②だな・・・。」

「止めてよ! って。あぁ。あれは・・・。」

「ダメだな。頭と胴体が離れちゃってるもの。」

「お父さ~ん。」

「あっ、でもお前のお父さんは飛頭蛮って妖怪かも。知ってる? 首だけ分離するの。」

「ちょいちょい妖怪の話を入れてくんな! もしそうだとしたら僕は妖怪の子ってことになるよ!」

「リアル鬼太郎。」

「黙れ!」


 男は一人になった浪人に近づき、父親の頭を拾ってぶつけた。

 浪人がひるんだ隙に近づいて、両足を順に突き刺す。


「何で、父ちゃんの死体を武器に!」

「いや。飛頭蛮っぽくしてみただけ。飛ばしてみた。」

「死者を冒涜するな!」

「いやいや。お父さんもきっとあの世で喜んでるよ。お前の命が守れて。」

 

「・・・で、坊主、いくら出す?」

「え・・・。お金取るの? 思いっきり失敗したのに。」

「当たり前だろ? 当初のお前の父親を助けるって内容からは外れちまったけど、一応、働いたじゃないかよ。」

「ちっ、守銭奴め。」

「何か言ったか?」

「ううん。言ってないよ。じゃあ、お金を取ってくるよ。」

「早めに頼むぞ。もう夕方になっちまったからな。」

「これから隣街にいくつもりなの?」

「そのつもりだ。さっそく次なる戦いを始めないとな・・・。俺たちの戦いは始まったばかりだ。」

「1巻で打ち切りみたいになってんじゃねーか!」


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