ひだまりの決断
王子の口が聞けなくなった。噂は、王宮がねじ伏せていたので、広がらず持ちこたえていた。けれど、少しずつ噂封じの方位網も決壊し始めていた。
そんなある日、フィーリアは、父と母に呼ばれた。大事な話があると言う。
「話というのは、他でもない。クライス王子のことだが」
ツェズ伯は、困ったような顔をして切り出した。
「声を無くした、口が聞けなくなった、といわれていることは、お前も知っているね?」
「...はい」
アリシア王女に聞いてからも、信じたくなくて、フィーリアは耳を塞いでいた。改めて突きつけられた父の言葉に、フィーリアは身体を固くする。
「本当の、ことなんだよ」
父は諭すように告げた。
「クライス王子に声を上げさせようと、王女や騎士団の皆が、王子に剣術試合をさせたそうです」
今度は、母が言った。
「お相手は、国でも指折りの剣自慢の方々が次々と。それなのに、王子は一人で戦い続けるという条件で。さすがの王子も、疲れはて、最後には剣を弾き返され負傷された...」
驚いたフィーリアが、うなだれていた顔を上げる。母は、娘に心配ないと頷いて、言葉を続けた。
「命に別状はないそうです。ただ、お怪我をされても声ひとつ上げられなかったとか」
「フィーリア」
心なしかほっとした様子の娘に、父が話す。
「王宮からは、正式な申し出はなにもないんだ。王子や王女がこの家に来たのも、限られた者しか知らない。すべては、お前の気持ちに委ねられているようだ」
「わたくしたちも、どうせよとは言いません。貴女が選んだことを応援する覚悟です」
「お母さま...」
母は、にっこりと微笑んだ。父を見ると、父もしっかりと頷いてくれた。
「どうしても無理だと思うなら、何をしても無理なんだとわからせてやればいい。あの王子も、それ以上の無茶はせんよ」
「貴女が、それほどまでに嫌っているとわかれば、ね?」
でも、違うでしょう? 母は訳知り顔で、我が子の成長を促している。父も母も、優しくフィーリアの背中を押してくれたのだ。
フィーリアは半泣きになっていたが、やっと意を決し、まっすぐに両親を見つめ返した。
「王宮に、行って参ります」
「行っておいで」
両親に見送られ、大急ぎで支度したフィーリアは王宮へと向かうのだった。
王宮へたどり着いたフィーリアは、先ず王女アリシアに面会を求めた。
フィーリアは、ここで待つようにと言われた一室で、胸を震わせながら立ち尽くしていた。
程なくして、王女が一人で入って来た。やはり、挨拶もそこそこに、
「なんで私に?」
会いに来たのかと王女は問うた。
「アリシア様にお伝えしたくて」
フィーリアは、小さくなりそうな声を振り絞る。
「...アリシア様が言われたように、ついアリシア様を引き合いに出してしまったのは、わたくしの自信のなさからでした。自分の心にも、ちゃんと向き合おうとしなかったわたくしのいたらなさが、こんなことを引き起こしてしまったかと思うと...」
必死に言葉を紡ぐフィーリアを、アリシアは、励ますように笑って、
「それでも、今、ここに来てくれた」
と言った。
「私より、もっと話したい人がいるだろう?」
フィーリアは頷く。
「いったい、何を考えていらっしゃるのか...」
「兄上なら、今頃、大広間前の庭園をぶらぶらしているだろう。せいぜい、叱り飛ばしてやってくれ」
アリシア王女に、ぽんと肩を叩かれたフィーリアは、
「はい」
なんとか笑顔を作り、王女にお辞儀をすると、その部屋を後にした。




