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王女様の来襲

幾日かの間が空いたとはいえ、王子に続いて王女の来訪である。うちのお姫様は、いったい何をしでかしたのかとツェズ伯爵家で働く者たちは恐々としていた。

しかも、またも伯爵夫妻の不在時で、指示を仰げない。

そんな中、侍女のティナは、アリシア王女に椅子を勧めたが、王女は座ろうとしなかった。

「接待無用だ。すぐ帰る」

アリシアはそう言いつつ、ティナの素早い対応を労うことを忘れなかった。


言葉遣いには違和感を覚えたものの、王宮の舞踏会で光輝いて見えた王女その人である。突然だったのと美しさに見とれてしまったのでタイミングを失したが、フィーリアは立ち上がって、深く腰を折って礼をとった。

「堅苦しいのは抜きだ」

アリシアは言い、

「兄上に何か言ったのか?」

といきなり本題に入った。フィーリアは、言われたことの意味がわからず首を傾げる。

「大方、縁談を断る口実に、私のことを引き合いに出したんだろうが...」

アリシアがフィーリアの表情をうかがう。フィーリアも、今度は心当たりがあったので顔を赤らめた。

けれど、なぜアリシア王女が、王子とフィーリアのことを知っているのか。フィーリアが訝る様子に、アリシアは言った。

「舞踏会での兄上の態度を見ていればわかるだろう? 庭に連れ出した相手のことは、兄上の根回しで噂には上らなかったが」

フィーリアが矢面にならなかったのは、王子に守られたからだと、今さらわかった。

「兄上に、振られたのは、お前のせいだと理不尽な態度をとられたぞ?」

「そんな...」

「ま、そつのない兄上のこと、そんなにあからさまではなかったから、それはいい。...が、本当のところ、兄上のことをどう思っている? 」

アリシアの言葉は、王女とは思えないほど率直だった。

「...嫌いか?」

フィーリアは、ぶんぶんと首を振った。嫌いなわけがない。

その様子を見たアリシアは、小さな子供を安心させるようにやわらかく微笑んだ。

「じゃあ、何が問題なんだ?」

「クライス様は、何か勘違いなさっておいでなのです...」

フィーリアは消え入りそうな声で言った。

「要するに、自分に自信がないから信じられない、ということだな」

アリシアは、ため息をつきつつ裁断し、

「恋愛も結婚も勘違いの延長だろう」

と、身も蓋もないことを言う。そして、フィーリアの傍らのテーブルに置いてあった本を取り上げた。

「...『沈黙の騎士』か。これで、読めた」

アリシアはにっこり笑うと、

「フィーリア姫」

とあらたまって声をかける。

「はい」

「実は今日は、大変なことを知らせに来たんだ」

王女が先触れも供もなしにやって来ること事態が大変なことなのだが、いきなり真剣味を帯びたアリシアにつられて、フィーリアも姿勢を正した。

「兄上は、呪われている」

フィーリアは、耳を疑った。王女は、今、なんと言った?

「呪いでなければ、重病だ」

王女は何を言っているのか。クライス王子は、数日前にここに来て、ぴんぴんしていたというのに。

「貴女なら、治せるかもしれないと思って来たんだが...」

言葉を濁す王女に、フィーリアは尋ねた。

「王子様に、いったい何があったのですか?」

「声を無くしたらしい」

アリシアは言った。

「口を利かなくなった」

「...そんな、まさか...」

動揺するフィーリアに、

「兄上がしゃべらなくなって、もう3日になる」

とアリシアは事実を告げた。

「筆談ならされるが、公務にも響き始めている。それがどういうことかぐらいは、わかるだろう?」

フィーリアの震える細い肩に、アリシアはそっと手を添えた。

「目をつけられた相手が悪いと諦めてくれ。...そう、私も、できるだけいい妹になるよう努力するから」
















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