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ひだまりの夢。

――昔、ゼクストン王国が建国されて間もない頃のこと。一人の王女を守り、彼女が女王となっても、忠誠を誓い続けた騎士がいました。

まだ王制が不安定な中で、王弟と王女の間に王位継承を巡る争いが起こり、国は二つに分かれそうになっていました。

慈悲深い王女を支え、国をまとめ、彼女の王権取得に貢献したその騎士は、国一番の剣の腕を持っていましたが、声を発することはありませんでした。必要な時には、紙に書いて言葉を伝えました。彼は、若い頃の病で声を失っていたのでした――。




『沈黙の騎士』は、ゼクストン創成期の物語で、2代目の国王となったコルデリア女王をモデルにしていた。けれど、実際に彼女の傍に、そういった騎士がいたのかさだかではない。

コルデリアは、終生独身で通した。そして、甥―かつて王位を争った叔父の息子―に、位を継がせた。

物言わぬ騎士と女王との信愛にあふれた物語は、コルデリア女王の死後に書かれ、民衆に愛され、現在も読み継がれているのだった。


フィーリアは、お気に入りの『沈黙の騎士』を読みながら、夢を見る。

生涯自分だけを守ってくれる騎士がいたなら、と。そして、そのひとだけを信じて生きていけたらと。

でも、それは、夢だとわかっていた。

王子の冗談のようなプロポーズはさておき、いつかは伯爵家の娘として、相応の貴族の子弟に輿入れするのだと。貴族の結婚に愛のあるなしが問題にならないことは、フィーリアも悟っていた。


そういえば、と、フィーリアは思い出す。

いつだったか、いとこのブランド伯爵邸のサロンに招かれたときのこと。

うららかな春の日で、皆が部屋の中にいてはもったいないと庭に出た。散策する者あり、お喋りに興ずる者ありと、それぞれが思い思いの過ごし方をした。

社交界的な関わりに不慣れなフィーリアは、皆が好きなことをしているのにほっとして、庭の木陰で読書を始めた。どうしても続きが気になっていて、つい持参してしまった本だった。

『沈黙の騎士』を一心に読んでいたフィーリアは、時間のたつのも忘れていた。いつしか日の傾きが変わったのにも気づいていなかった。

ただ、ふと人の気配を感じ、フィーリアが顔を上げると、誰かがそっと葉の繁った枝先を持ってしならせていた。

フィーリアが眩しくないよう、日射しを遮ってくれていたのだとわかったのは、そのひとが、誰かに呼ばれて立ち去った後のこと。

逆光で、よく見えなかったけれど、もしかしたら、あれは...。



フィーリアが、もしかすると以前王子に会っていたのかもしれないと思い始めた時。またも突然の来訪者に、ツェズ伯爵家の面々は狼狽(うろた)えていた。

「公式な訪問のわけがあるか、フィーリア姫に会いに来ただけだ」

よく通る綺麗な声が、侍女の言葉を待たずにフィーリアにも来客を告げる。

取り次ぎを無視してフィーリアの部屋に入って来たのは、簡素なドレスを着てはいたが、輝くばかりの美しさがちっとも損なわれていないアリシア王女だった。













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