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3 禁則事項


足音一つしない静寂。

ほどよい緊張感が道場内を包み、人だかりの中央には木刀を持った俺とエルナ。

道場内の皆は、いつも自分達を指導してくれるエルナの勝利を確信し俺を好奇な目で見る者か、師が倒れることを望んでいる期待の目で見る者の二つの視線が感じられる。

剣士には向いていないと思ったが、その剣構えはとてもよくスジがいい。

睨みつける視線は獲物を狙うかのようで一部特殊性壁をお持ちの方からゾクゾクっと快感を味わうことができるだろう。


ギシッ


ダッ!


俺が姿勢を前に倒したことで木床が軋み、音を上げ、それを合図に両者が動き出した。


交わる二本の木刀。

持った感覚が似ていることから竹刀のように扱ってしまい、ぶつかる瞬間にいつも以上の衝撃が木刀を握る手を襲う。

そのまま押されそうになったが、体を無理に前に起こしてぐっと耐えた。


「中々やるじゃないか」

「あんたもな。想像以上だ」


思わずにやりと頬が綻ぶ。

高校の先輩より数段強い。

剣も簡単に外せないようにきっちり体でガードして、尚且つ隙を狙えるポジション取り。

たった一瞬の交錯でここまでやるなんて思っていなかった。


まぁエルナも同じように感じているみたいだけど。


「口だけじゃないようだ」

「無駄口叩きつつ隙を見せないなんて正直驚きだぜ」


同時に力を籠めて木刀を押し、互いに離れる。

けれどエルナはすぐに距離を詰め、連続で攻撃を繰り出した。


「ていやぁ! ていやぁ! ていやぁ! ていやぁぁぁ!」


面、面、コテ、面、胴、コテ、胴……。

一気にケリをつけるつもりか、俺に攻撃の隙を与えない。

下がっては受け、下がっては受け。

完全にエルナのペースに持っていかれた。


………かのように、俺は仕組んだ。

胴の受け止めと同時に足を踏み出しフェイントをかけ、焦って繰り出した面を体を横にズラして避けると空を斬った木刀を狙って打つ。


ゴトンっ


木と木のぶつかる鈍い音がエルナの手から木刀が落ちたことを表し、勝負が決する。


「俺の勝ち、でいいな?」

「参った。私の負けだ」


『『『おおぉぉーー!!』』』


「うるさいぞお前達。そんなに私が負けたことが嬉しいか?」


上がる歓声とエルナのため息混じりの笑いが緊迫していた空気を和ませた。

弾いた木刀を拾い上げ、自分の物と一緒にエルナに返す。


「まさか負けるとは。クラウドさんには少しくらい教えることもあるだろうって言われていたんだが、どうやらなさそうだ」

「冗談言うな。木刀だから出来たんだ。真剣はもっと重いはずだろ? ちゃんとご受講させてもらうさ」

「言い方が皮肉のようだ。そういえば名前は? 聞いていなかった」

「そうだっけ? 俺は八百万龍人(やおよろずりゅうと)。よろしくな」

「ヤオヨロズリュウトか。珍しい名前だな。改めてよろしく」


差し出された片手をがっちり握り、エルナと固い握手を交わした。

そういや、おっさんにも俺の名前教えてなかったっけ……。

後で言っておかないとな。


「とはいえ、今日はまだ始めなくていいと思うよ。クラウドさんにも実力を測るだけでいいって言われてたからね」

「あぁ。そうしてくれると助かる。今日は疲れたからな」

「だろうね。シュン! リュウトを部屋に連れていってあげて。そこがリュウトの部屋になるから。あなたはもう知ってるでしょ?」

「はい。もう聞いております」

「へぇ。部屋まで用意してくれてるのか」

「うちの勇者様になるんだからね」


いつのまにかエルナの堅い口調が解けて女の子らしい話し方になっていた。

こういう話し方も出来るんだ、なんて言ったらぶっ飛ばされるんだろう。


心の内でそんなことを考えつつ、俺は案内人シュンについていった。





















「凄かったです! あのエルナさんに勝つなんて!」

「そんな大したことじゃないって」


再び戻って城内。

俺はシュンのまるで英雄をみるような目で送る視線に心地よい歯痒さを感じていた。

年が近いこともあってか移動中の会話ですぐに打ち解け、シュンにここでのことを色々と聞いていた。


「やっぱり、ここで生活する以上いくつかの決まりは存在します」

「だろうな」

「とはいえ、リュウトさんには注意するまでもないようなことばかりですので説明は省略しますが一つだけお気をつけください」

「一つだけ気をつけるって……何を?」

「エルナさんに関してですが、決して胸のことには触れぬよう。これは絶対に犯してはいけないタブーです」

「あ〜………それか。やっぱ気にしてんだな」

「はい。剣士とはいえお年頃の女性ですので」

「因みにどれくらいなんだ?」

「噂ですとAA、下手するとAAAとまで言われていまして……」


「誰がAAやAAAだって……?」


ギクリ


全身に突き刺さるような視線と殺気が体を襲い、俺もシュンも一歩も動けなくなる。

ギギギ、と錆び付いたロボットが首を動かすように後方を振り向くと、視線の先には話題の主、エルナが青筋を額に浮かべて立っていた。

何故か、木刀を持って。


「エ、エルナさんなんでここに!?」

「リア様を送ってきたんだ。木刀はその警護のために一応な。シュン、私はリュウトに部屋まで案内しろとは言ったが、余計な話をしろと言った覚えはない」


口調がまたあの堅いものに戻っていて、氷のような無機質な声が突き刺さる。

冷や汗がどっと背中から流れ、まさに蛇に睨まれた蛙だ。


「それにリュウト。女性の胸のサイズを聞くなんてあまり関心しないな」

「い、いや。これはだな……」

「言い訳か? みっともないぞ。うちの勇者になるというのに。そして後一つ。誤解があるようなのではっきりとさせておこうか」


びしっと木刀を構えて、目がしっかりと俺を捉える。


「私はAAじゃない! れっきとしたAだあぁぁぁ!」

「おわっ!? ちょっ、振り回すな! 俺は何も持ってないんだぞ!? 危ない! マジで危ないって!」


その後涙目(+赤面)で木刀を振り回すエルナを落ち着かせるのに30分もかかったのは言うまでもない。




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