手紙の在りか
一カ月もしないうちに帰ってきたのに予想に反して、親はいたって普通なものだった。
『何しに来た? まだ一カ月しかたってないだろう、この馬鹿もんが。とっとと帰れ』等と言われるかと思っていたのに、父親のセリフは「ああ、おかえり。ちょうど今夕飯だけど食べてくか、お前?」と言う程度のものだった。
少しドキドキってか、緊張して帰ってきたのに一気に気が抜ける。
そうしたら、自分が朝から何も食べてないのを思い出した。
「ああ、食べてくよ。朝から何も食べてなかったんだ」
今日初めて心から笑った気がする。
ずっと思い詰めていたからなぁ、今日は。
「ちゃんとご飯作って食べてる? どうせ、面倒臭いって言って食べてないんでしょ?」
そう心配そうなセリフとは裏腹に母親は笑っていた。
「確かに否定はしないけど、ちゃんと食べてるよ。それに今日はたまたま食べてないだけ。朝から用事があって忙しかったんだよ」
そう言いながら椅子に座り、用意してくれたご飯に手を伸ばす。
それにしても、まだぜんぜん経ってないってのにこんなにも家の味が懐かしく感じるなんて驚きだ。
あぁ、ただの野菜炒めがこんなにも美味い。
「ご飯おかわりお願い」
「はいはい」
…………さて。
「ごちそうさまでしたっと」
さすがに三杯は食いすぎたかな?
「ふぅ……」
ゆっくり飲めるお茶って美味いなぁ。
一人暮らしだとしたくてもゆっくりできる時間がないし。
「何か困ったことはあるか?」
食後の後、今日の新聞を読みながら父親が訊ねてきた。
「いや、別に。バイトとかも順調だし」
「そうか。ならいい」
そう言いながら、新聞を折りたたみテレビのニュースを見始めた。
こういう時の家族の優しさがこそばゆくも嬉しく感じる。
本当に、実家っていいなぁ。
「そういえば、どうしたの今日は? 正月になるまで帰ってこないって言ってたのに?」
あっ、忘れてた。
まったく、ほのぼのとするために帰ってきたわけじゃないのに。
何やってんだか俺は。
まあ、いい。
部屋の中探すまえに、母親にきいてみるか。
過去に一度だけだけど家に連れてきたこともあったし。
「そうそう、母さんさ覚えてる? 十年前、俺が仲良くしていた女の子のこと?」
「十年前? 女の子? ああ思い出した思い出した。あんたが、学校に飽きたからってサボってよく遊んでいた他校の女の子のことでしょ? あの可愛かった。確か……ちょうどこの時期に、引っ越していったんだよね。今頃、すごい美人になってるんじゃないかしら。それで、その子がどうしたの?」
ほっ、ちゃんと覚えていてくれた。
「それでさその子が引っ越していった後、手紙のやり取りしてたよね? それで、その手紙を俺がどうしたか覚えてない?」
「そんなことも忘れたの? あんなに宝物なんだって大切にしてたのに。はぁ……」
何悲しそうにしみじみと俺の顔を見るんだよ。
でも、今は我慢だ。
手紙を優先させないと。
「あんたも昔はあんなに可愛かったのに。残念」
自分の子にそれはないだろ、それは。
「とにかく、覚えてないの? 覚えてるの? どっち? 覚えているなら、いいから教えて」
「覚えてる。覚えてるって。……確か、当時あんた大切な宝物だからって何処かに隠したって言ってなかった? あたし達にも絶対に見せないって言って。そうそう、それであんた当時学校のクラスで計画していたタイムカプセルの中に突っ込んだって言っていたじゃない。指輪だかも一緒にって。何、忘れてたの?」
「…………うそ」
ああ、そうだ。
そうだった。
言われてから思い出した。
それにしても、またやってしまった。
どうしよう?
もう九時だ。
あと三時間しかないよ。




