探索
「さてと、まずはどうしようか」
そう呟きながら、人ごみの中を歩きだす。
今日は土曜日で休日らしく、何処も人ばかり。
それに何か駅前がうるさい。
救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえるから事故でもあった
のだろう。
まぁ、俺には関係ないことだ。
「人ごみは嫌だ。人気の少ない所に移動してからにするか」
野次馬たちの群れを抜け市街地から離れる。
歩き始めて三十分で、目的地に着いた。
毎年、知り合いを集め花見をする丘。
丘といっても、本当は桜の木がたくさん生えた中規模の前方後円墳で、目的地はその円墳の上だ。
そして此処は、この街ではそれなりに有名な桜の名所でもあるのだが、散歩の老人たちや俺みたいなモノ好きを除けばまず人が来ることは無い。
もっとも今の季節は夏であるために、木には花びらなど一切無いが青葉の映える綺麗な葉桜となっている。
また、市内が一望できる場所で夜になると街明かりがよく見える俺の絶景スポットの一つでもあるのだが……。
まぁ、今は昼だ。
それでも、此処は気持ちの良い風が吹いて考え事をするにはもってこいの場所だ。
「……約束か」
ふむ、……思い出せん。
どうしたものか?
前回までの記憶には、ちゃんとあったはずなんだが思い出せん。
神様め、さっそくやってくれたな。
今回のゲームの条件で、一番重要な約束に関する部分の記憶をもっていきやがって。
まぁ、なんとかなるさ。
……っていうか、なんとかしてやるさ。
さて、考えろよ俺。考えろ。とにかく、考えろ。
そして、少しでも思い出すんだ。
たしか、約束の内容が誰かと再会することだったはず。
まず、時間は思い出せないが、場所は、場所は……。そうだこの丘だ。
あれ、だけどこの丘の何処だっけ?
……クソッ、思い出せねぇ。
しょうがない、後回しだ。
今は、一番重要な名前が先だ。
……あぁ、姿は覚えているのに名前だけが思い出せない。
ちくしょう、どうする。
もしかしたら、記憶の消えている時期がわかれば思い出せるかも。
思い出せ、思い出すんだ。少しでも。
あの時の、あの日の、あの思い出を。
……夏? 夏だ。そうだ、それに夜だった。
たしかあの頃、俺は学校に飽きて毎日にようにここに来ていた。
受けたくもない授業が終わったら直ぐにでも。
それで、毎日のように少女……、そうだ少女と遊んでいたんだ。
夜の八時辺りになって彼女のお姉さんが迎えに来るまで、ずっと。
それで……、それで。
彼女の姿を求めて空を見上げると、既に赤を通り過ぎて暗くなっていた。
気付かないうちにかなりの時間が過ぎていたらしい。
「急がないと時間が」
腕時計を覗いてみると既に七時半を指していた。
あと、四時間半しかない。
考えれば考えるほど、焦りだけが生まれる。
あと少しなのに、思い出せない。あと少しなのに。
このまま約束を果たせないのか?
……嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
もう、嫌だ。
絶対に。絶対に。絶対に約束を誓いを果たすんだ。
俺はもう一度彼女の姿を求めて空を見上げた。
そこには、星々が折り重なった大きな光の川があった。
そして、その川を挟むように輝く二つの星。
織姫と彦星。
心の時間が止まったかのように感じた。
そして全てが動き出す。
思い出すことの出来なかった記憶が。
かつて約束した約束が甦る。




