本当の結末
事故から二週間。
まだ体は言うことは聞かないが、ある程度は回復し上半身は起こせるようになった。
「そういえば、母さんたちはいないのか」
ようやく、多少元気になって動けるようになったってのに何してんだか。
「えぇっと……、今日貴方が元気に寝てる姿を見て、私に『さて、もう大丈夫なようだし後は若いもんに任せてお邪魔虫は退散しますか。それじゃあ、息子のことよろしくね』って家に帰って行ったよ」
まったく面倒臭くなって帰ったのか。
まぁ、母さんらしいけど。
ホント、何考えてんだか。
まぁ、いいや。
彼女が居てくれるんだし。
「そうそう、今まで忘れてたけど事故で担ぎ込まれた次の日、不思議なおじいさんが来たんだけど心当たりある? 『君の勝ちだ。おめでとう』って言って、あなた宛ての手紙を預けて直ぐに帰っていたんだけど。背格好は……、あれ? どうしたんだろう。思い出せない」
……神だ。
俺は何故だか話を聞いた時には既に確信していた。
俺は未だに思い出せないことに頭を捻る彼女から、手紙を受け取り読みだす。
「ところで、何で今までそんなこと忘れていたんだ?」
そう思い、彼女に問いかけてみた。
「単純に忘れてたの。ごめんなさい」
申し訳なさそうに彼女は笑った。
くそぅ、こんな顔されたら何も言えないじゃないか。
……うん。
今はとにかく、手紙を読もう。
人間よ……、今回のゲームについて本当のことを話そう。
このゲームは、お前が求めたから始まったのではなく、本当は私が求めたから始まったのだ。
本来、お前たちは必ず結ばれる運命にあった。
だが、悪魔たちの悪戯によりその運命が捻じ曲げられる可能性があったのだ。
だから私が、その運命を変えさせないために悪魔たちと始めたのだ、このゲームを。
当事者とはいえ巻き込んだりしてすまない。
いくら私が神とはいえ悪魔の介入に対し力を行使し、運命を正しく導くのは不確定で余計に捻じれる可能性があったのだ。
だからお前が必要になった。
お前が求めた本来の未来をお前の手で見つけ出し、私が力を行使し未来を確定させるにはお前の強い意志が必要だったのだ。
よく、最初の悪夢や記憶の忘却、不運な事故等の様々な悪魔の悪戯を払いのけてくれた。
最後に少し説明しておくことがある。
何故、お前が生きているのかとゲームの結果についてだ。
確かにお前はあの場で死ぬはずだった。
私が変えたのだ。
先ほど話したように、本来悪魔の干渉に対して力を行使するのは不確定なものが多い。
だが、あるものがそれを絶対的なものに変えることが出来る。
それが、思いや願い。
事故の瞬間、子供を助けるために飛び出したのがお前だと一目で気付いた彼女が願ったからこそ今のお前が居る。
逆に、彼女が生きて傷一つないのもお前が事故の瞬間に心から願った結果でもある。
そして、お前は意識を失いながらもゲームの勝利条件を満たした。
だから、本来は悪魔たちが持っていく筈だった時間をお前に返そう。
過去の記憶を、未来を。
二人が生きる輝かしい、今を。
おめでとう。
二人に幸あれ
神
手紙を読み終えたとき、何故か笑っていた。
そんな俺を訝しげに彼女が見てくる。
「何て書いてあったの? その手紙」
「いや、何でもないよ。その人、他に何か言ってたか」
「えぇと、確か帰り際に『怪我が早く治るのを祈ろう』っていってたような」
そうか、怪我の治りが早いのも下半身不随になってもおかしくないのに大丈夫だったのは、神のお陰だったのかもしれないな。
「後で礼でも言っておこうかな」
「知ってる人なの?」
そう言いながら手紙を取ろうと伸ばしてくる腕を払わずに握りしめた。
もちろん、その瞬間に手紙は布団の下にでも隠す。
「ああ、知ってる人だったよ」
もっとも、人じゃなくて神様だけど。
「……ところで、いつになったら手を放してくれるのかな?」
少し恥ずかしいのか、彼女は顔を俯ける。
嫌だね。
まだ、俺には言いたいことがあるんだから。
「ありがとう。君が居てくれたからこそ俺は生きていられた」
今なら分かる。
事故の後、俺の手を握り締めてくれたのが彼女の手だって。
突然の出来事に驚いた彼女は、ただ顔を赤くし呆然としていた。
そして……。
「ありがとう。あなたが約束を覚えていてくれたからこそ私はここにいられる」
そう笑い、ゆっくりと両手で俺の手を握り返してくれた。
温かい。
心から温かいよ。
「俺の怪我が治ったら、あの場所に行こう。一緒に」
「うん、行こう一緒に」
片手には指輪を。
もう片手は互いの手をそれぞれ握りしめ。
そして、永久に誓う。
「さぁ、始めましょう。もう一度私たちの結婚式を」
約束の桜の下
俺と彼女はキスをした。




