約束
目が覚めた時、真っ白な部屋の中に居た。
鼻を刺すような消毒液の匂い。
規則的に聞える電子音。
一滴一滴と滴り落ちる点滴とその管。
口元に見える半透明な緑色の呼吸器。
風によって揺れ動く純白のカーテン。
その隙間から漏れ出した光が白い壁に反射して、やけに眩しい。
「生きているのか、俺は?」
意識ははっきりしてきたが、体は動かない。
けど、右手からどこか懐かしい温もりを感じた。
目を向けるとそこには一人の女性が俺の右手を握っていた。
「おはようございます。そして、お久しぶりです」
そう言いながら女性は首に掛けていたお守りを外し、そこから指輪を取り出した。
昔、互いに交換した約束の指輪。
あぁ、彼女だったのか。
確かにかつての幼さはなく成長した女性になっているが、間違いなく彼女だ。
「待っててくれるんじゃなかったの?」
そう彼女が問いかけてくる。
「ごめん。約束守れなくて」
「それはお互い様だよ。……けどね、私を置いていかないでよ。お願いだから、無茶しないで。私を置いて死んだりしたら許さないから、絶対」
そう言う彼女の顔は今にも泣き出しそうなものだった。
「あの場に居たのか、君は?」
「うん。見てたんだから、ちゃんと。子供を助けるのは良いけど、自分のことも考えてよ。……だけど、助けようって姿は昔と同じでかっこよかったよ」
言葉では怒っていても、彼女は笑っていてくれた。
昔のままの懐かしい笑顔で。
「なぁ、今もおれでいいのか?」
十年。
十年もあったんだ。
それだけあれば、人が変わるのには十分だ。
だけど、俺は変わらない。
忘れてはいたけど、俺の気持ちはずっと心の中にある。
今も彼女が好きだって気持ちが。
「あたりまえでしょ。じゃなきゃ、ここには居ないしこれだって大切に持ってなんていないんだから」
笑いながら指輪を俺に突きつけてくる。
良かった。
本当に良かった。
自分の独りよがりじゃなかったんだ。
安心すると体が軽くなった気がした。
上半身を起こしてみようと力を入れてみるがその前に。
「まだ駄目。あれから今日まで五日間も寝ていたんだから。それに無茶しないでって言ったばっかりでしょう。まったく」
「ん、ごめん」
ふむ、出来そうだったのに残念。
止められてしまった。
「だから、今は寝て怪我を治しましょ。死んでもおかしくない怪我だったんだから」
「……そうだな」
そう彼女に答えて、俺は目を閉じようとした。
だけど、なかなか閉じることは出来なかった。
ここに居る彼女は、俺の見てる幻覚じゃないのか?
そう心のどこかで思えて、怖い。
だが、それも直ぐに終わった。
「大丈夫。私はここに居るから」
彼女はそんな俺の不安を感じ取ったのか、俺の手を強く握りしめ笑いかけてくれる。
そうだ、これが幻の訳ない。
だって、こんなに温かいんだから。
「おやすみなさい」
そして、彼女の温もりに包まれながら眠りについた。




