Var.Ⅴ:In the movie theater
「はっ!」
真田は目覚めた。映画館で寝てしまったらしい。映画で男優と女優が叫んでいた。
「行かないで・・・・行かないでデイビス・・・・」
「うるさい!もう君には失望したんだ!」
「そんな・・・・違うの!聞いて!」
「もう言い訳は聞かぬ!」
デイビスは出て行く。むしゃくしゃしながらケチな彼は愚痴りに愚痴っていた。
「毎回毎回、何か事情つけて金をせびるが全部自分の趣味に使いおって、あったまくる、金の無駄遣いなんか大嫌いなんだ。毎回だまされる俺も俺だ。俺ってホントバカじゃねーか。まったく、もってもう、生きるのがイヤになる!」
その喋るデイビスの背中に手が伸びて、手は二回叩いた。何事かとデイビスは振り返った。
老人がニヤリと笑っていた。なんと、真田が背中を叩いたあの老人とそっくりではないか。老人は刃物を持って叫びながらそれを振り上げた。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
デイビスも叫んだ。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
真田も叫んだ。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
真田は逃げ出した。一体全体、どういう事だ。変奏曲の続きか?夢の続きか?良くわからない。自分があの老人にいかに脅かされているかを考え、そのためにどうすればいいのかも考えようとしたが、それもわからない。否、あれは気のせいだったかもしれぬ、自分はあまりに脅かされすぎて、老人が全部あの老人に見えてしまっただけなのかもしれない。多分そうだ。きっとそうだ。あんな人が映画に出れるわけがないだろう。
と思ったときに、背中を二回叩かれた。急いで振り返ったらあの映画のごとく、老人が刃物を持ってニヤリと笑っていた。老人は言う。
「さ、次行くぞ。」