Var.Ⅲ:Vivace
「ああ鎌田!。」
「どうしたんだ真田。悲鳴が聞こえてきたから。」
二人は電話していた。
「またあの変なじじいがウチに侵入して叫んできたんだ!」
「えええ?おまえ付け回されてるんじゃないか?」
「そうだったらいいんだけど、僕が感じているこの違和感がさ、いろいろ今日の事考えみたら、結局変奏曲みたいな事態じゃないかと。」
「とりあえず近いんだし家こい。」
「え?」
「俺の家に行って帰れば安心だろ。」
「かくまうってことだね。」
「三部形式だってそう言っている。」
「まああのおっさんから始まった事件だろうから、そこから逃げればいいんじゃないの。」
「そう、そのはずだけど…分からないのが一つある。」
「何?」
「変奏曲。」
「あぁぁぁ、またかよ。あれは小曲をどんどん改造するみたいな曲だからなんか音楽的な操作が目的みたいなもんだが、ここは現実だぞ?音楽ではない。」
「現実のこの全ての流れがひとつの音楽だとしたら?」
「はあ?」
「だとしたら変奏曲を物語にするのも無理はない。」
「意味わかんねえよ。」
「どっかの科学者が、物質だって一つのひもの振動でできているという説を言っていた。だから現実の事象が音楽的な響きである考えても無理はない。」
「はあ・・?もう君どうかしてるよ。ん?」
突然鎌田が黙ったので聞いた。
「どうしたの?」
「ちょっと・・・・・誰かに背中叩かれたんだけど。」
「振り向いちゃだめだ。」
その時、鎌田は振り返った。つられて鎌田も振り返った。老人の叫びが聞こえた。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
鎌田の叫びも聞こえた。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
「…鎌田…!」
「…………」
「返事しろ鎌田!」
「…………」
「ちくしょう!」
「…………」
鎌田が音信不通になったので、真田はCD・DVD棚に再び立ち寄っていた。いつも裏面の映画の広告を見るのが彼の楽しみだったが今はそんな気分ではない。
そしてゴールドベルク変奏曲を聴きながら、ゆったりとだんだん眠くなっていった。誰かが後ろから背中を二回叩く感触も無くただ、夢から何かの声が聞こえた。
「そうだ、おやすみ真田くん。厳格な変奏はもう十分しつこくやったから、これから自由な変奏が始まるよ。その前にテーマをちょっと思いださして貰おうか。回想シーンに入るぞ!アクション!」