Var.Ⅰ:L`istesso tempo
「それで鎌田。」
「なんだい?真田。」
二人は街道を出て喋っていた。
「何を買ったんだい?」
「あぁ、たわし。スポーツ大会があって、それに使うのでね。」
「例えばマリーちゃんとジョンくんの別グループ同士の人たちがかけっこして、でもジョンくんが負けたら残念賞でそれにする感じか。」
「便利で安い点で最適な景品だよな。」
「うん。」
「借り物競争のネタだと、なんかあちこち行ったりきたりしなきゃいけないよね。」
「実際たわしは小さいからね。」
「リレーのバトンにだってそう。」
「まあたわしはある番組の景品に使われたから、景品で使うのが普通じゃないの。」
「そう、そのはずだけど…分からない事が一つある。」
「何?」
「変奏曲。」
「あぁぁぁなるほど。あれは小曲をどんどん改造するみたいな曲だからなんか音楽的な操作が目的みたいなもんだよね。気分のドラマ性はあっても標題的な明確さは確かに薄い。」
「まさに器楽的。」
「で、それが?」
「なんかさっきも似たような会話をした気がするんだ。」
「あぁ、確かに。」
「なんか話題は違うけど変奏曲について語った事と会話の流れが似てる。ひょっとして…。」
「うーん、偶然でしょう。」
その時、誰かが後ろから背中を二回叩いたので、何だろうと真田は振り返った。つられて鎌田も振り返った。それは老人であった。老人は叫んだ。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
そう言って老人は後ろを振り返り、走り去っていった。
鎌田は言った。
「…またあのじじいだ…」
「…やっぱり…」
「あいつ、僕たちをつけ回しているのかな。」
「分からん。」
「ところで、もうすぐ僕は家だ。君はもう少し先のあの赤い家だよな。じゃあな。」
「じゃあ。」
鎌田が家に入り、ひとりぼっちになった真田はCD・DVDショップに立ち寄っていた。いつも裏面の映画の広告を見るのが彼の楽しみだった。怪物モノを特に好んでいた。
そして映画視聴コーナーにも立ち寄って、映画に見入っていた時、誰かが後ろから背中を二回叩いたので、一瞬あの老人ではないかとヒヤリとしたが、店員であった。
「すみません、もうすぐ閉店です。」