Tema:Moderato
「なあ真田。」
「なんだい?鎌田。」
二人は街道を歩きながら喋っていた。
「ソナタ形式って現実的に物語にしやすいじゃん?」
「あぁ、確かに。比較するものがあって、それが展開するからね。」
「例えばマリーちゃんとジョンくんみたいな別の調同士の人たちがさ、展開部で喧嘩して、でも話し合う内に同じ調で仲良くなるみたいな感じにさ。」
「身近に例えやすい点で庶民的な形式だよな。」
「うん。」
「ロンド形式だと、なんかあちこち行って帰ったりみたいな話とかできるよね。」
「実際テキストの形式が元だからね。」
「三部形式だってそう。」
「まあ音楽は歌から始まったから、物語に例えられる現実性はあるんでないの。」
「そう、そのはずだけど…分からないのが一つある。」
「何?」
「変奏曲。」
「あぁぁぁなるほど。あれは小曲をどんどん改造するみたいな曲だからなんか音楽的な操作が目的みたいなもんだよね。気分のドラマ性はあっても標題的な明確さは確かに薄い。」
「まさに器楽的。」
「Oh,yeah~」
「だから変奏曲を物語にするのは無理があるよね。」
「確かにねー。」
「ブラームスなんか、最後にパッサカリアみたいなの持ってくの好きだけど、パッサカリアとか物語にするのなんかもっと無理がある。」
「まあな。」
その時、誰かが後ろから背中を二回叩いたので、何だろうと真田は振り返った。つられて鎌田も振り返った。それは老人であった。老人は叫んだ。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
そう言って老人は後ろを振り返り、走り去っていった。
鎌田は言った。
「…今のは何だったんだ…」
「…分からない…」
「変なおじさんもいるもんだな。」
「ああ。」
「ところで、あのデパートでちょっとお買い物するがそれに付き合うか?」
「いいよ。」
鎌田がデパートで長いレジを待ってる間、暇だったし話し疲れたため真田はCD・DVDコーナーに立ち寄っていた。いつも裏面の映画の広告を見るのが彼の楽しみだった。怪物モノを特に好んでいた。
そしてゲームコーナーにも立ち寄って、ゲームのプレイ画面に見入っていた時、誰かが後ろから背中を二回叩いたので、一瞬あの老人ではないかとヒヤリとしたが、鎌田であった。
「お待たせ。」